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四葉のクローバー

不穏な空気

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デート当日、いつも以上に早く到着した。というのもあまりにソワソワしすぎて、逆に動きながら考えた方が良い案が思いつくかもしれない。そういうわけで早めに家を出たのだが、ゆっくり歩くつもりが早歩きになってしまい、このザマだ。すると雪見がこれまた可愛らしいフェミニン系の服装で現れた。

「き、綺麗で似合ってるよ!」

(この言葉がすらっと出てくる自分が怖いな……)

「あ……ありがとう……」

(あぁ~恥じらいが堪りませんなぁ)

そんなことを考えていると雪見が

「じゃあ行こっか!どこに行く?」

僕はこれまでの甘酸っぱい感情を消し去った。

「大事な話があるんだ」

雪見はびっくりした顔で

「な、何?はっ!ホ、ホテルとかそういうのは……」

「そ、そ、そ、そ、そ、そういうのじゃなくてね。この前話してくれた女の子の亡くなった駅。中に入るまでは行かないまでも、外からでも良いから供養しない?花は僕が買うからさ!」

雪見はとても複雑そうな顔をしていた。「デートではなかったのか」「今やらなきゃならないのか」「やるにしても心の準備が必要だと思わないのか」

雪見がどう思っているのかは分からない。でも、いずれかはケジメを付けなければならない。それに頼りないけど「僕とザシコ」がいる。人間逃げても追ってくるのなら迎え撃つのみ!

雪見は暫し下を向いた後、ほっぺを二、三度叩いてこう言った。

「じゃあ……『一緒』に行ってくれる?」

「もちろん!三人いるから!」

「三人?」

「ごめん、二人だった(笑)」

二人ともクスクス笑った後、改札口を抜けた。電車内ではあれからのことを話し合った。すると彼女は僕の手を取って駅に降りた。近くの花屋さんで花を買い、自殺した駅まで歩いた。電車で向かうのも手だが、彼女の心境を察して徒歩にした。

「大丈夫?少し休憩でもする?」

「ありがと、でも大丈夫。覚悟は決めたから」

「そっか……無理はしないでね」

「うん」

徐々に現場に近づいてきた。右手の地面には確かに地蔵がある。するとザシコが耳元で焦る感じの声でこう言った。

「気をつけろ!慎重に行け。いいから慎重にじゃ。後方は任せとけ」

意味がわからなかったが、雪見にゆっくり近づこうと提案した。すると向こう側からただならぬ気配を感じる、おそらく同学年だと思われる男がクロユリの花束を持って現れた。

(変な人だなぁ)

そう思っていると雪見が立ち止まって

「高部君……」

と震えながら呟いた。高部という人物は雪見に対してこう言った。

「よう、人でなしの人殺しヤローが!」
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