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双葉のクローバー

ちっぽけな喜び

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般若の顔をしたお母さんは、まず床拭きを命じた。まぁ、土足ではないとはいえ、女王にとっては気になるのだろう。とりあえず濡れ拭き。

「終わったよぉ」

そうお母さんに告げると次にジェスチャーで、ヘルパーさんが触った柵や引き出しを濡れ拭きしろ!とのこと。

(別に一回一回手袋を代えてた気がするんだけどなぁ)

と思いつつ全部拭いた。そして親父からのテレビ電話の前に、今日の献立のリクエストを聞く。

「魚系?フライとか?え?あぁ骨がね。分かった!じゃあ揚げ出し豆腐とかどうよ!!うーんイマイチか……」

僕は気が短いのでだんだん雑になってくる。

「じゃあ肉系か魚系かどっちで決めない?両方とも違う?じゃあ、あと何があるんだよ!!」

少しカーッとなりつつある自分に気づき即座に冷静になった。

「ん~じゃあ魚介類とかっていっても海老天とかそっちの種類はどうかな??」

お母さんはニンマリしていた。

(よかったー、昨日テレビで特集してるの観て。というよりちゃんと献立とか立てているかのチェックならアドバイス位くれてもいいのに……)

テレビ電話で親父にその事を伝えて買ってきてもらうことにした。それまでの間にお食事の準備をした。体を倒してゆっくり上へ上げ、ゆっくりゆっくり介護用ベッドを起こしていく。服の上に溢れた時のためにナプキンをかけて、親父が買ってきてない食べ物で、用意できる食事をお母さんの食べやすい大きさに切った。その際、全ての介護において、決して『お母さんのためにやってやってる』と思わないように心がけた。

それともう一つ、自分の中に決めたルールに『親父に少しでも休息してもらうこと』があった。

くだらないし、なんの足しにもならないが、親父が帰ってきた時には仕事でヘロヘロな状態だ。だから、予め簡易ベッドを敷いて、お薬の準備を終えた後はそこで仮眠をとってもらっている。

ある時、親父に

「休憩しようとしてもさ、母さんがあれやれこれやれ引っ切り無しに言ってくるんだ。そんな時に、お前がいてくれてるから安心して倒れられるんだ。お前は結構重要な役割なんだぜ?」

と言われたことがある。それまで自分は金魚の糞みたいに、誰かしらの後ろにひっつき回って「じゃあお前、あれやっといて」と言われればやる性格だった。今回の食事や食器担当を自分に課し、親父がなんの心配もなく休める状況を作ることは間違っていなかった。そして、それは何より『自分で決めた事』だった。その分、親父からの褒められたことはとても嬉しい事だった。何か、自分が今生きている理由がはっきりと明言された気がした。そんなことを思っていたら母と母の肩に乗っていたザシコが優しく微笑んでいた。
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