プラスチックの星を君に☆

cue / Q（きっかけ）

　挨拶代わりに「かわいいね」と言われ、梨加は育った。ジュニアモデルの誘いも何度も受けた。
　けれど梨加は落ち着きがなく、モデルは無理と両親は早々に諦めた。
　演技なんて到底無理。大人の言うことをきかない、無邪気な少女に育った。

　中学生になるとスタイルに磨きがかかり、教室にいるだけで目立った。その頃に携帯電話を手に入れた梨加は、SNSに夢中になった。
　幸運にも運動神経にも恵まれた梨加は、アイドルグループの振り付けを数回見ると、すぐに覚えた。『踊ってみた』動画をSNSに投稿すれば、一躍「いいね！」は万単位になった。
　他の女子より可愛い。軽くダンスするだけでいい。

　駅の改札を抜けて電車に乗ると、梨加は座席に深く座り込んだ。
　携帯電話を取り出し、動画サイトを開く。桐明高校演劇部のPR動画を選んだ。梨加が貰う「いいね！」を一桁上回る数が表示される。イヤフォンを嵌め、いつものように再生する。
（くっそ……。やっぱ、かっこいい！）

　中3の初夏、偶然目にした動画だった。

　部活紹介ムービーは60秒弱と短く、昨年の2年部員が思い思いの衣装で登場して始まる。天使の羽根をつけた女子部員、和尚の格好で木魚を16ビートで打つ男子部員など、インパクトは十分だった。
　音楽が始まり、一斉に15名が動き出す。
　ストップモーションからの素速いステップは、不思議と揃っており、パントマイムを取り入れたコミカルな動きは緩急があった。ただただ、圧倒された。
　集団の中央には柊がいる。涼しい顔をしながら踊る男子高生が、この中で一番キレが良い。
　ひと目で恋に落ちた。
（私も踊りたい。……この中に、入りたい！）

　猛勉強のすえ、学力より高い桐明高校に入学した梨加は、期待に溢れて演劇部に入部した。
（余裕だと思ってたのに）
　PR動画はすぐに終わり、梨加はリピートせずに画面を閉じて、奥歯を噛み締めた。