上 下
11 / 76
第1章

10

しおりを挟む
 もう一学期も終わり。終業式だった。
 と、いっても。大河と香葉来は学童クラブにあずけられるから、夏休みも学校に通う。
 香葉来は、「真鈴ちゃんも来てほしい」と残念そうにがっくりしていた。
 
 真鈴はおじいちゃんとおばあちゃんがいるから無理だよ。
 大人ぶって内心で思っていたけど、大河だって香葉来と同じで、真鈴に会えないのはすごくさみしい。
 ほんとイヤだな、夏休み。

 小川沿いの通学路。大河は香葉来とふたりして、いじいじしていた。
 集団登校する他の児童は夏休みをよろこんでいるから、まったくの逆だ。
 太陽はうるさいし、じいじいってセミもうるさいから、イライラしてしまう。
 ああ、ダメだ。イライラしたら、香葉来が怖がっちゃう。

 学校につくと、真鈴は教室にいた。
 楽しそうな顔? 真鈴が近づいてくる。彼女は目元をキラキラかがやかせながら、

「おはよっ」

 はしゃいだ声を投げてくる。

「……おはよ」

 香葉来は暗い。

「……おはよう」

 大河もだ。
 けれど、真鈴は、ふたりの心を読んだみたいで、さらに声をはずませて。

「元気だしてよ! あっ、夏休みになっても3人で遊ぼうね! 香葉来、電話するから。香葉来は大河を誘ってね!」

 オセロが黒から白にひっくり返った瞬間だった。
 うれしいうれしい真鈴からのお誘いだ。
 香葉来のいじいじ顔は、みるみるうちに笑顔に変わってく。
 まじまじと見ていた大河も同じ気持ちだ。でもはずかしいから、唇をぎゅっと結んで、「うれしい」の空気圧を調整した。
 夏休みの楽しみができた。
 大河は、さわやかスカイブルーの空を自由にすいすい飛んでいるみたいな、うきうき&わくわくのよろこび&楽しみで心が満たされてた。
  
 終業式が終わったあとの帰りの会で、通知表を渡された。
 クリアファイルに入った通知表はツルツルとしていた。

「見せっこはダメよ」

 って先生から、忠告があったけど、ほとんどのクラスメートは渡されたとたん、こそこそと見せっこしちゃう。結局先生も黙認していた。
 はっきりしないなぁ。大河はあきれた目で先生を見ていた。

「大河、どーだったぁ?」

 ななめうしろから、一也の問いかけ。平然と聞いてきた。

「え。どーって。ま、いいけど」

 意地を張ってルールを守るのもバカバカしくなって、大河は冷めた様子で一也に応じた。
 大河の通知表は、全部「よくできた」だ。
 実歩に、「1年生のときはね、だいたい全部、『よくできた』は取れるのよ」と言われていたけど、本当にそのとおりだった。
 案の定、一也もオール「よくできた」。

「同じー。なんかさー、張り合いがないよなぁー」
「いいじゃん。一也もぼくも真面目に勉強をしてるってことだよ」
「いやぁー。でもサッカーの勝ち負けみたいにハッキリしたいし」
「通知表で勝ち負けはないよ」

 一也は唇を尖らせていた。
 一也はボール遊びが得意で運動神経もいい。足は大河より早い。
 なのに、体育が同じ「よくできた」だったということに不満を感じていたのかもしれない。

 つぎに一也は、「汐見はぁー?」と、となりの香葉来に声をかけた。

「えっ!」

 香葉来は悲鳴のようにぎょっと驚いた声をあげ、びくりと体をゆらした。
 黒目がきょときょと落ちつきをなくして揺れ、次におどおど怯えだす。
 え……香葉来。どうしたの?
 もしかして……算数が悪かったの? 「よくできた」じゃなかったの?

 きんきんと張り詰めた空気に苛まれた。
 そこで。沈黙していた真鈴が体をくるっと一也の方へ向ける。

「やめよ? 先生、見せっこダメって言ってたし」
「あっ……うん」

 と。ひとことで流れは切れた。
 一也も、真鈴のことは一目置いてる。
 前に怒られたことが効いているのかもしれない。
 だけど今の真鈴は、鋭い目できっと睨みつけることもなく、ただ声をかけているだけだった。
 真鈴がランドセルに通知表をしまうと、香葉来もマネるようにしまいだす。
 香葉来の余裕のない表情は、いつまでも大河の頭の中で残った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

私と継母の極めて平凡な日常

当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。 残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。 「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」 そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。 そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...