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第69話 十字架

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 ジャラッ。

 今日は珍しく皆揃ってRIA部の活動。
 乾氏のコデックス・アナザーワールド紹介動画作成も佳境に入り、一度みんなで確認してみようと集まった。
 その最中に、誰かがカバンから何かを教室の床に落とし、その音が鳴った。

 「じゅ、十字架? ですか?」
 シルバーに光ったチェーンに混じって十字架のような物を見つけた僕は思わず声に出し、落とし主に聞いた。
 「う、うん」
 姫嶋さんは慌てて、その十字架のネックレスをカバンに入れる。
 「アクアってクリスチャンだっけ?」
 仁君が不思議そうな顔をして姫島さんに訪ねた。
 「最近なった」
 姫嶋さんは、これ以上詮索しないでくれと言わんばかりの即答で返す。
 「最近って、アクアちゃんもしかして」
 秋川が呆れた表情で問い詰める。
 「違う、違うの、みんなが思ってるのとは違うの」
 姫嶋さんは誰も何も非難していないのに必死に否定する。
 
 「僕があれだけ止めたのに」
 「天成君まで酷い、違うのに」
 もう姫嶋さんを危険な目には会わせたくないから、酷いと言われようが僕は否定する。
 クリスマスイブの深夜に、自然な形で教会を訪ねて、その扉を開けるために最寄りの教会へ入信しておくという下準備を僕は否定する。

 「教会ってさ、なんか異世界に溢れてない?」
 「やっぱりあの本の影響じゃないの」
 「だって、異世界ってだいたい教会あるじゃない?」
 まぁ中世ヨーロッパっぽくて、神秘的で、色々妄想が捗りそうなネタですからね。
 
 「もしかしたらコデックスに載ってたように異世界に一番近い所って教会なんじゃないかと思ってるのだけれども」
 「だからってクリスマスイブの深夜に礼拝したりしないわよね?」
 「……」
 「なんで黙るのよ」
 僕も秋川のツッコミに賛成だ。
 
 「でも良かったよ、アクアが変な勧誘受けたのかと思った」
 「近所の教会行ったら、いっぱい勧誘されたけど」
 ですよね。

 「でも興味ないから受け流して、逆に異世界の事について色々質問したら勧誘されなくなった」
 「イエス様も異世界転生については専門外だものね」
 「姫嶋氏、我も教会に興味があるので今度付いて行っていいかな?」
 「もちろんだよ乾君」
 ズルいぞ乾氏。
 「じ、じゃあ僕も……」
 教会に興味はないけど、姫嶋さんと一緒なら。

 「面白そうだな、俺も付いてくぜ」
 「天成君も仁君も大歓迎だ。行こうぜ異世界……じゃなくて教会」
 「あんたたちねぇ、邪な気持ちで神様に拝んだら罰が当たるからね」
 秋川の言葉に僕の邪な心が少し揺らぎ、
 「罰が当たるのは困るな、俺やっぱパス」
 「確かに、面白半分で行く場所ではないな。すまぬ姫嶋氏」
 仁君と乾氏は拒否することを選んだ。
 どうしよう、僕も罰が当たるのは嫌だな。

 「え~なんでよ~みんなで行こうよ」
 本気でがっかりする姫嶋さん、まさか十字架を落としたのはこれが狙いだったのか?
 
 そう考えると、流石に僕も拒否せざる負えない。
 このまま姫嶋さんが調子に乗ると、絶対イブの夜に教会へ突撃しかねない。それは阻止しないと……。
 などと考えを巡らせていると、鋭い視線が突き刺さるのを感じた。
 しまった、まだ僕だけ拒否していない、どうしよう。姫嶋さんがめちゃくちゃ見てくる。

 「行くよね?」
 何度かLOINEで送られてきたメッセージが、想像していたよりも2段階ぐらい低い声で僕に襲い掛かる。
 
 「い、い、行きません」
 「天成君まで……みんな酷いや、いいよ、もうじゃあ私も行かない」
 姫嶋さんの暴走を止めるには、みんなで拒否することが有効だということが分かった。
 乾氏の動画作成の進捗も知れたし、このまま何事もなくクリスマスを迎えることが出来そうだ。
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