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第46話 涙の理由

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 「秋川さんが泣いてるって言ってたし」
 姫嶋さんが泣いてないって言ってるんだから、これ以上追求しちゃだめですよ。
 「泣いてないもん」
 「嘘だぁ、泣いてたろ。天成は騙せても俺は騙されないぜ」
 バカ仁君、それ以上何も言わないで頂きたい。

 「バカ仁君、泣いてないってば。天成君が勘違いするじゃない」
 「そ、そうですよ、本人が泣いていないって言うのなら、それは涙の跡じゃないです」
 「え? 涙のあとなんか付いてないよ」
 姫嶋さんは慌ててハンカチを取り出し、目元を拭いた。僕もやってしまったかもしれない。デリカシーの無い男はイケメンでもモテないって聞いた。僕にはまったく関係ない話だけど、姫嶋さんの味方でいたいから言葉選びを間違えた。
 「やっぱり泣いてんじゃん」
 「泣いてないし、天成君も変なこと言わないでよ」
 
 「で、でも、泣きたいなら泣いてもいいと思います。泣きたいときに泣けないとダメだと思います。じ、仁君も人の涙をからかったらダメだと思います。涙は心のデトックスです」
 僕は何を言っているのだろうか、姫嶋さんに嫌われたくない一心で出た言葉だけど、自分でも理解不能だ。恥ずかしい。

 「天成君……」
 気のせいだろうか、姫嶋さんの瞳がキラキラと輝いているように見える。
 「なかなか良いことを言ったな天成、すまないアクア、お前は泣いてなんかいない。俺が悪かった、勘違いだ。許してくれ」
 「そんな謝られても、泣いてないから。もう、からかうのは止めてよ2人とも」
 「か、からかってはいないです」
 「俺もだ」
 「そう? じゃあ、なんか知らないけど心配して来てくれたみたいだから。許してあげるとしますか」
 「許すってことは、やっぱり泣いてたんじゃん」
 「もう、怒るよ?」
 「姫嶋さん、仁君が今度からかったら退部させちゃいましょう」
 「いいねぇ、そうしよう」
 「お、なんだよ。俺だけ悪者かよ」
 「追放だー追放だー」
 「なんだよ追放って」
 姫嶋さん、追放系のアニメ観たんだな。

 「ダメですよ姫嶋さん、仁君を追放しちゃったら僕らが、ザマぁされますから」
 「あっ、そっか、そっか」
 「何をコソコソ言ってんだー。追放とかザマぁとか意味が分からん」
 「仁君、異世界のことに興味を持てば、いづれ分かります。ねぇ天成君」
 「はい」
 「クソー仲間外れは気に食わないぜ。さっさと教室戻ってRIA部の活動しようぜ、異世界のなんたらを教えてくれるんだろ?」
 「さんせー」
 
 姫嶋さんはとても楽しそうだ。
 良かった。
 涙の理由は気になるけど、本人が話したくないならそれでいいと思う。それよりも楽しい時間を作れればいいんだ。嫌なことは捨ててしまえばいい。
 
 僕らは秋川の待っていた教室に戻り、コデックス・アナザーワールドを開きながら、異世界の色々な妄想を語り合った。
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