30 / 72
第30話 カタルシスの無い物語
しおりを挟む
「転生はできないと思います。だからもうこんなこと止めましょう」
なんて言葉が僕の口からスラスラと出る訳は無く、スタスタと楽しそうに歩く姫嶋さんの後を付いていくことしかできない。
賑わうショッピングモールの人波を縫って歩く僕達は、さながら恋人同士。
この買い物に付き合ったことも……買った品々がアレだとしても、これは言わばデート。
その最終目標地が屋上駐車場。
日が暮れて、空が真っ赤に染まって、景色は申し分ない。
こんな感情に浸ることなんて、今までまったくなかったけど、なんというか、これは、つまり、ロマンチックだ。
「さぁ、どれから試そうかしら」
姫嶋さんは、そんな僕のロマンチシズムを無視して自分の欲望に真っ直ぐだ。
「あ~でも困ったわね」
買い物袋の中身を見て、眉を顰める姫嶋さん。
僕は困っている理由を聞かない。
それは、困った顔の姫嶋さんも可愛いからだなんて理由もあるけれども。
「ここじゃあ、練炭焚いても意味ないし、地べたじゃ気持ちよく眠れない。フェンスにロープを掛けるくらいしかできないじゃない」
あまりにも楽し気に自殺の話題を語る姫嶋さんに、掛ける言葉が見つからない。
どうしよう、どうやって止めればいいんだ?
「やっぱり、あのアニメみたいにここから飛び降りちゃおうかな」
僕は一体、何に付き合わされているんだ? いや、待てよ、アニメ。
「姫嶋さん、そのアニメの内容とか結末って知ってる?」
「結末? まだ3話くらいしか観てないけど」
「じゃあ、その転生した主人公が、これからどうなるか喋ってもいい?」
「う、う~ん、一応、参考の為に聞いておきましょうか」
ようし、ここが自殺を考え直させるチャンスだ。
「3話くらいだと、転生した主人公は可愛い妹、強くて美人な女剣士や爆乳ネコミミ獣人や奴隷の美少女なんかも引き連れて冒険を始めることになってるとこだと思うのだけれども」
「うん、うん、すっごく楽しそう。私も早く転生したい」
「でもね、もうすぐゴブリンの軍団に遭遇してね、主人公は捕まって拷問されるし、女剣士はくっころされるし、ネコミミ獣人は理性を失って野生に帰るし、奴隷美少女はゴブリンの奴隷になって……一番最悪なのは、せっかく異世界でできた可愛い妹が……ゴメン、これ以上は僕の口からは言えない」
「え? 嘘でしょ、嘘よ。なんで嘘付くの天成君、いじわるしないで」
「いや、ほんとですよ、僕、原作持ってますから」
ちょっとだけ盛った感はありますけど、主人公が逆境を跳ね返してカタルシスを得るための常套手段ですから。だいたい合ってます。
「だから僕はここから飛び降りて転生するのは、あまりオススメしないかな~」
「じゃあ、あのアニメは? 現実世界に絶望して睡眠薬飲んで転生しちゃったやつ、タイトル出てこないけど。それならば」
「ああ、あれかぁ」
僕はカタルシスへ到達しない小説の内容を淡々と語った。
なんて言葉が僕の口からスラスラと出る訳は無く、スタスタと楽しそうに歩く姫嶋さんの後を付いていくことしかできない。
賑わうショッピングモールの人波を縫って歩く僕達は、さながら恋人同士。
この買い物に付き合ったことも……買った品々がアレだとしても、これは言わばデート。
その最終目標地が屋上駐車場。
日が暮れて、空が真っ赤に染まって、景色は申し分ない。
こんな感情に浸ることなんて、今までまったくなかったけど、なんというか、これは、つまり、ロマンチックだ。
「さぁ、どれから試そうかしら」
姫嶋さんは、そんな僕のロマンチシズムを無視して自分の欲望に真っ直ぐだ。
「あ~でも困ったわね」
買い物袋の中身を見て、眉を顰める姫嶋さん。
僕は困っている理由を聞かない。
それは、困った顔の姫嶋さんも可愛いからだなんて理由もあるけれども。
「ここじゃあ、練炭焚いても意味ないし、地べたじゃ気持ちよく眠れない。フェンスにロープを掛けるくらいしかできないじゃない」
あまりにも楽し気に自殺の話題を語る姫嶋さんに、掛ける言葉が見つからない。
どうしよう、どうやって止めればいいんだ?
「やっぱり、あのアニメみたいにここから飛び降りちゃおうかな」
僕は一体、何に付き合わされているんだ? いや、待てよ、アニメ。
「姫嶋さん、そのアニメの内容とか結末って知ってる?」
「結末? まだ3話くらいしか観てないけど」
「じゃあ、その転生した主人公が、これからどうなるか喋ってもいい?」
「う、う~ん、一応、参考の為に聞いておきましょうか」
ようし、ここが自殺を考え直させるチャンスだ。
「3話くらいだと、転生した主人公は可愛い妹、強くて美人な女剣士や爆乳ネコミミ獣人や奴隷の美少女なんかも引き連れて冒険を始めることになってるとこだと思うのだけれども」
「うん、うん、すっごく楽しそう。私も早く転生したい」
「でもね、もうすぐゴブリンの軍団に遭遇してね、主人公は捕まって拷問されるし、女剣士はくっころされるし、ネコミミ獣人は理性を失って野生に帰るし、奴隷美少女はゴブリンの奴隷になって……一番最悪なのは、せっかく異世界でできた可愛い妹が……ゴメン、これ以上は僕の口からは言えない」
「え? 嘘でしょ、嘘よ。なんで嘘付くの天成君、いじわるしないで」
「いや、ほんとですよ、僕、原作持ってますから」
ちょっとだけ盛った感はありますけど、主人公が逆境を跳ね返してカタルシスを得るための常套手段ですから。だいたい合ってます。
「だから僕はここから飛び降りて転生するのは、あまりオススメしないかな~」
「じゃあ、あのアニメは? 現実世界に絶望して睡眠薬飲んで転生しちゃったやつ、タイトル出てこないけど。それならば」
「ああ、あれかぁ」
僕はカタルシスへ到達しない小説の内容を淡々と語った。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
異世界宿屋の住み込み従業員
熊ごろう
ファンタジー
なろう様でも投稿しています。
真夏の昼下がり歩道を歩いていた「加賀」と「八木」、気が付くと二人、見知らぬ空間にいた。
そこに居たのは神を名乗る一組の男女。
そこで告げられたのは現実世界での死であった。普通であればそのまま消える運命の二人だが、もう一度人生をやり直す事を報酬に、異世界へと行きそこで自らの持つ技術広めることに。
「転生先に危険な生き物はいないからー」そう聞かせれていたが……転生し森の中を歩いていると巨大な猪と即エンカウント!? 助けてくれたのは通りすがりの宿の主人。
二人はそのまま流れで宿の主人のお世話になる事に……これは宿屋「兎の宿」を中心に人々の日常を描いた物語。になる予定です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
【TS転生勇者のやり直し】『イデアの黙示録』~魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を「逆」に生きて絶対に勇者にはなりません!~
夕姫
ファンタジー
【絶対に『勇者』にならないし、もう『魔王』とは戦わないんだから!】
かつて世界を救うために立ち上がった1人の男。名前はエルク=レヴェントン。勇者だ。
エルクは世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。つまり人類史上最強の存在だったが魔王の力は強大だった。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。その思いから最難関のダンジョンの遺物のアイテムを使う。
すると目の前にいた魔王は消え、そこには1人の女神が。
「ようこそいらっしゃいました私は女神リディアです」
女神リディアの話しなら『もう一度人生をやり直す』ことが出来ると言う。
そんなエルクは思う。『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、次の人生はすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避して人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!と
そしてエルクに最初の選択肢が告げられる……
「性別を選んでください」
と。
しかしこの転生にはある秘密があって……
この物語は『魔王と戦う』『勇者になる』フラグをへし折りながら第2の人生を生き抜く転生ストーリーです。
底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜
ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。
同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。
そこでウィルが悩みに悩んだ結果――
自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。
この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。
【一話1000文字ほどで読めるようにしています】
召喚する話には、タイトルに☆が入っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる