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第27話 練炭とロープと睡眠薬
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良く晴れた土曜の昼下がり、街有数の複合商業施設ルルポート内のリサイクルショップ【ヴィレバン】の前。
もうだいぶ見慣れたが、凛々しい顔つきの柴犬に何故か大鷲の羽が生えている珍妙な銅像のモニュメントは待ち合わせ場所として有名だ。
姫嶋さんがここを選んだ理由は分からないけど、有名な場所だからリスクは高い。誰か知り合いに見られたら一気に噂も広まってしまうだろう。
それでは僕の憂鬱な学校生活が更に憂鬱さを増してしまう。姫嶋さんとの買い物は楽しみだが、それだけは避けたい。
だから僕は黒のシャツに紺のアウターとジーンズという普段着で赴いた。つまりいつもの格好だ。ついでに黒いキャップを深々と被る。これなら一人で買い物に来ていたとの言い訳も可能。姫嶋さんにも迷惑かけずに済む。
「あっ天成くん居た。なんか不審者っぽい格好だから分からなかったよ」
その声の主は間違いなく姫嶋さんだった。でも僕はその姿を一瞬だけ視界に入れた後、キャップのつばを握りしめて俯いた。
金色のツインテールはポニーテールに、夏が似合いそうな青く丈の長いワンピースはノースリーブで姫嶋さんの白い素肌を際立たせている。瞳も青いしスタイルも良いし、目のやり場に困る。というか目立つ、可愛過ぎて目立ち過ぎる。
どういうことだ? ただの買い物じゃないのか? なんでこんな今にもスカウトされそうな可愛さで出歩いているんだ? デートじゃないんだぞ、ただの買い物だ。何を考えているんだ姫嶋さんは。
いや待て一旦落ち着こう、落ち着いてもう一度顔を上げよう、もしかしたら何の変哲もないただの普段着なのかもしれない。
「どったの?」
僕はこの人の隣を歩いてもいいのだろうか?
「い、いえ、あの、買い物ですよね、早く済ませましょう」
「おっ、乗り気ですねぇ、流石天成くん。頼りになる不審者さん」
「誰が不審者ですかっ」
「どう見ても不審者の恰好なんですけど? あっ、ついでだから私がコーディネートしてあげよっか?」
「い、いいですよ。これが僕の普段着です」
「あ~そうか、残念な子だ」
「残念って」
「じゃあ、せめてキャップを反対に被ってみてはどうでしょうか」
そう言って姫嶋さんは無理やり僕のキャップを回転させた。
「うん、いいね。野暮ったい前髪で隠れていた凛々しい眉が出ていい感じだよ。この際だからオールバックにでもしてしまえばいいのに」
「止めてくださいよ」
「ああ、ごめんごめん、怒らないで。でもホントに髪切った方がいいと思うよ」
残念とか野暮ったいとか、友達でもないのになんて失礼な言葉だ。
くそう、髪切ろうかな。
「とりあえずお店入ろうよ」
「分かりました」
姫嶋さんはぴょこぴょこと軽い足取りで店に入った。
リサイクルショップで一体何を買うんだろう。僕を連れてきた理由も聞いていないな。
「天成くん天成くん、これ引っ張ってみて」
姫嶋さんは太めのロープの端を僕に渡してきた。
「うん、うん、頑丈なロープだね、これにしよう」
ロープ?
「じゃあ次は練炭だね」
練炭? キャンプでもする気かな。
「ここではこれくらいかな、天成くん、これ会計お願い、私お金出すから」
「はい、いいですけど」
ほんとにただ買い物を手伝わされているだけなのか? こんなの一人でも買いに来れるだろうに。
「ありがとう助かったよ、じゃあ次は薬局だ」
薬局? 虫除けでも買うのかな、やっぱりキャンプか?
【睡眠でお悩みの方へ】そう記載されたコーナーで幾つかの商品を手に取り悩んでいる姫嶋さん、睡眠薬を探しているのか?
「う~ん分かんないな全部買ってみるか」
そう言って、また僕にお金と商品を渡してきた。
もうだいぶ見慣れたが、凛々しい顔つきの柴犬に何故か大鷲の羽が生えている珍妙な銅像のモニュメントは待ち合わせ場所として有名だ。
姫嶋さんがここを選んだ理由は分からないけど、有名な場所だからリスクは高い。誰か知り合いに見られたら一気に噂も広まってしまうだろう。
それでは僕の憂鬱な学校生活が更に憂鬱さを増してしまう。姫嶋さんとの買い物は楽しみだが、それだけは避けたい。
だから僕は黒のシャツに紺のアウターとジーンズという普段着で赴いた。つまりいつもの格好だ。ついでに黒いキャップを深々と被る。これなら一人で買い物に来ていたとの言い訳も可能。姫嶋さんにも迷惑かけずに済む。
「あっ天成くん居た。なんか不審者っぽい格好だから分からなかったよ」
その声の主は間違いなく姫嶋さんだった。でも僕はその姿を一瞬だけ視界に入れた後、キャップのつばを握りしめて俯いた。
金色のツインテールはポニーテールに、夏が似合いそうな青く丈の長いワンピースはノースリーブで姫嶋さんの白い素肌を際立たせている。瞳も青いしスタイルも良いし、目のやり場に困る。というか目立つ、可愛過ぎて目立ち過ぎる。
どういうことだ? ただの買い物じゃないのか? なんでこんな今にもスカウトされそうな可愛さで出歩いているんだ? デートじゃないんだぞ、ただの買い物だ。何を考えているんだ姫嶋さんは。
いや待て一旦落ち着こう、落ち着いてもう一度顔を上げよう、もしかしたら何の変哲もないただの普段着なのかもしれない。
「どったの?」
僕はこの人の隣を歩いてもいいのだろうか?
「い、いえ、あの、買い物ですよね、早く済ませましょう」
「おっ、乗り気ですねぇ、流石天成くん。頼りになる不審者さん」
「誰が不審者ですかっ」
「どう見ても不審者の恰好なんですけど? あっ、ついでだから私がコーディネートしてあげよっか?」
「い、いいですよ。これが僕の普段着です」
「あ~そうか、残念な子だ」
「残念って」
「じゃあ、せめてキャップを反対に被ってみてはどうでしょうか」
そう言って姫嶋さんは無理やり僕のキャップを回転させた。
「うん、いいね。野暮ったい前髪で隠れていた凛々しい眉が出ていい感じだよ。この際だからオールバックにでもしてしまえばいいのに」
「止めてくださいよ」
「ああ、ごめんごめん、怒らないで。でもホントに髪切った方がいいと思うよ」
残念とか野暮ったいとか、友達でもないのになんて失礼な言葉だ。
くそう、髪切ろうかな。
「とりあえずお店入ろうよ」
「分かりました」
姫嶋さんはぴょこぴょこと軽い足取りで店に入った。
リサイクルショップで一体何を買うんだろう。僕を連れてきた理由も聞いていないな。
「天成くん天成くん、これ引っ張ってみて」
姫嶋さんは太めのロープの端を僕に渡してきた。
「うん、うん、頑丈なロープだね、これにしよう」
ロープ?
「じゃあ次は練炭だね」
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「はい、いいですけど」
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薬局? 虫除けでも買うのかな、やっぱりキャンプか?
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「う~ん分かんないな全部買ってみるか」
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