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ネット遠足は終わらない⑩(葛声優視点)

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 「ユウ、私の息子を頼んだぞ」

 「受けた恩は必ず返します。葛かずらの名に懸けて、ご子息は必ずや立派な男性に」



 あの約束から、もう何年経つだろうか、1人で暮らせるようになったハレちゃんを遠くから見守りながら自分の人生も大切にしろと仰ったダテオさんは、もうこの世に居ない。



 「葛かずらの女は、芯強く、思慮深く、男を立ててこそ花開く。それがお前の人生、ゆめゆめ忘れるな」私の母の、その言葉を否定し、私を引き取った後も女としてではなく、一人の人間として、家族として可愛がってくれていたダテオさん。

 その恩に報いる為に、私はもう一度ハレちゃんの人生に触れる。



 金に頼らず、女に溺れず、人を心から愛せる漢に成れる様、ハレちゃんが成人するその時まで、見守ってあげたい……ダテオさんは常にそう考えていた。



 ハレちゃんが小学生時代、忙しいダテオさんに代わり、私がハレちゃんを教育した。料理、洗濯、掃除、礼儀、作法、人との付き合い方、ハレちゃんは飲み込みも早く、その成長を見守ることに、私も喜びを感じる様になった。



 ハレちゃんの成長は留まることを知らず、中学に入学する頃には、1人で生活していく能力を十分に備えていた。

 それを知ったダテオさんは、ハレちゃんを追い出すように、1人暮らしを促す。厳格な父親を演じたかったのだろうか、ハレちゃんが家を出たその夜は、誰も近付けないくらい泣いていたのを私は知っている。



 「心配だったら私がハレちゃんと暮らしますよ」私は、そう提案したが

 「ダメだ、ハレオは、お前の事を好いている、それではダメなんだ」とダテオさんは返した。

 一体全体、何がダメなのか……最後までその理由を話してくれなかったが、恩師との約束を反故にしない為に、私はハレちゃんを見守った。



 ハレちゃんの中学校生活は完璧だった。料理、洗濯、掃除、買い物、友達付き合い、成績も優秀、非の打ち所の無い中学生。育て上げた作品が野に放たれ、そして花開いて行く、その様を見るのがただただ嬉しかった。それで良かった……。



 それなのに、中学を卒業したとたん、謎の通信制高校へ進学を決めたハレちゃん、まぁそれは百歩譲って許すことにした。W高も存外今の時代に合った、合理的な高校だということも分かったから。



 だが宝くじの当選は想定外だった。

 「金に頼らず」とのダテオさんの思惑とは裏腹に、手に入れてしまった大金。

 そして、それに伴う生活環境の変化と、取り巻く人々……状況は悪化する一方。



 ダテオさんに頼んで、当選金を剥奪する事も考えた……だが、そのタイミングで恩師が不幸に見舞われてしまっては、もう頼ることも仕えることも出来ない。

 ただただ無念だった。



 しかし、約束は約束、せめてハレちゃんが成人するその時までは、私が責任をもって育ててみせる。



 そう固く決意し、ハレちゃんの前に立ったその日、私の何かが崩れ落ちる音がした。



 遠くから見守っているだけでは分からなかったハレちゃんの佇まい。そのスラリと伸びた恵体、遠目では分からなかった顔立ちの凛々しさ、包み込むような声色……私が育て上げた作品は、こんなにも素晴らしい漢に成長してしまった。



 「ハレオは、お前を好いている」ダテオさんの言葉が、脳裏をよぎり、そして私の中の最後の理性の鍵を開けた。



 誰にも渡したくない、この男を私の物にしたい。

 きっとそれがハレちゃんの幸せ、ダテオさんの願い、そして、私の願いだと。



 例えそれが勘違いだとしても、もう誰も私を止める者は居ない。小娘ごときに負けるはずがない。





 W高のネット遠足という意味の分からないイベントの、その夜が来るまで私はそう考えていた。
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