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一夫多妻制なんてありえない②

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 「良い議論会でしたね。メンターである私も大変興味深い意見が多数ありましたが、そろそろ授業終了の時間です。ファシリテーターの金田さんは、纏めて下さい」

 グループディスカッションの授業を見守っていたメンターが終了の時間を知らせ、金田に指揮を渡す。

 生徒たちは、興奮冷めやらぬ様子で睨み合っている。



 「みなさん、お疲れ様です。メンターが仰った通り、有意義な議論の場になりました、さて、この授業はテーマの是非を問うのが目的ではありません。様々な意見が出て、それらを理解し自分が賛成できないことでも、その考え方を理解しようとする姿勢が大切なのです」

 金田は、もっともらしいことを前置きし、話を続ける。



 「賛成派の意見を鑑みるに、この一夫多妻制という制度は、芸能人やスポーツ選手などの浮気、不倫とは違うと考えられます。それは、一人の男性が夫として複数の妻の人生を丸ごと引き受けるという事実があり、娶った妻の数だけ家庭を持ち、経済面だけでなく精神面においても支えあっている、互いに理解しあって成り立っているのではと感じました」

 金田は身振り手振りを上手に使い、一夫多妻制度を支持するかの様な発言をした。それに対し、反対派の女子生徒達は嫌悪感を露わにして睨む。



 「しかしながら、この一夫多妻制が容認されている国は、途上国の貧困環境が根本にあります。結局のところ、その国の経済環境さえ改善されれば、無くても良い、いやあってはならない廃止されて当然の制度なのです」

 金田は、すぐさま主張を翻す。まるで詐欺師の様に。

 だが、その言葉に反対派は聞き入ってしまう。



 「つまり、この経済環境の整った日本において、一夫多妻制、あるいはハーレムと呼ばれるそれは、女性の人権を無視した卑劣な行為、法で容認されていてもいなくても、大罪に値する愚行。不倫然り浮気然り、女性を傷付ける行為を私は絶対に許しません、どんなことをしても、そういう輩は、排除します。例えそれが、学びを共にする友であっても、どうですか?みなさんもそう思いませんか?」

 「「思いまーす」」

 いつの間にか、キャンパス内は一夫多妻制反対の声で溢れかえっていた。賛成派を仕切っていたインテリメガネも「やれやれ」とばかりに肩を窄めて降参の構えを見せ、金田に目配せをした。





 「ということだ晴間、お前の今朝の行為は紛れもないハーレム、卑劣な行為だ。このまま続ければ俺はお前を絶対に許さない。俺のオヤジはこのビルのオーナーだ。つまりこのキャンパスは俺の所有物、お前を追い出すくらい造作も無い。それと、妹が中等部に入ったそうだな、お前の罪は家族の罪、今度ハーレムを見せびらかしたら、妹もろとも出入り禁止にしてやるから覚悟しろよ」

 金田は、放心状態で座るハレオに、そう耳打ちした。



 無茶苦茶な主張。そんなものが罷り通る訳が無い、陳腐な脅し。

 だが、ハレオは、完全に打ちのめされていた。



 ハレオ自身理解はしていたが、父親の愚行、ハーレムをクラス全員で真っ向から否定し、結論を出す必要のないディスカッションの授業で断罪した。

 さらには、金田の言葉を真に受け、あたかもその意見が全てハレオに向けられているかのような位置へハレオを座らせたのだ。



 (俺はなんてことをしてしまったんだ。親父の様にはならないと、絶対にハーレまないと誓ったのに、このままではダメだ、下手すると何かの罪で刑務所行き……そんなのいやだ、まだまだやりたいことが沢山あるのに)

 と、訳の分からない思考を巡らすハレオ。

 (ボタンとスミレ……あの2人が元凶……やはり、関係を断つべきだった。新居に招き入れるべきでは無かったんだ。いや、まだ間に合う、今からでも遅くは無い、2人と縁を切る。もう遊んだりしない、喋らない、顔も見ない、そうすれば……)

 と、幼稚で極端な結論に至った。

 父親とお金に関しては、ハレオの思考は悪い方へ向かってしまいがちである。



 「ハレオー」

 「ハレオくーん」

 最後の授業が終わり、帰り支度を済ませたスミレとボタンがハレオに駆け寄る。

 「なかなか楽しかったね」

 「うん、金田先輩、ああ見えてしっかり者なんだねーちょっと見直しちゃった」

 「だね、一夫多妻制なんて最悪だよね、ハレオもそう思うでしょ?」

 天井を見つめていたハレオは小さく頷いた。



 「トウカちゃんも授業終わってると思うから、皆で帰ろうよ」

 スミレは、討論会で反対派の意見が認められた事にテンション高めで、ハレオの右腕をブンブンと引っ張った。

 「鴨南、鴨南、あっ買い物も行く?食材からいっちゃうんでしょハレオシェフは」

 ボタンも負けじと左腕にしがみ付き胸を押し当て、初めてのハレオ宅にテンションを上げ始める。



 「わ、悪い、今日は無しだ、俺、1人で帰るから」

 「えっ?」

 「そんな、ちょっとハレオくんっ」



 ハレオは、2人の腕を振り払い、駆け出した。
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