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幼馴染は気が付かない③

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 「いいよ……ハレオくんになら、わたし、食べられてもいい」

 刹那、ボタンは後悔する。

 明らかに痛い、痛すぎる発言。

 SNS界隈から「最近の子は経験が早い」とか「未経験は恥ずかしい」とかいうフェイク知識を得て、ドラマやアニメも好んで視聴するボタンは、そういった行為にも興味が湧いていることは否定しない、否定しないが、この発言は無い、間違えた、やり直したい。

 そう考えれば考えるほどに、頬の赤らみは激しさを増し、吐息は鼻からも漏れだす。

 傍から見れば、その姿は、興奮が抑えられない、ただの痴女である。



 一方、ハレオ、

 (いいよ、ハレオくんになら、食べられてもいい)

 ハレオは、その言葉を頭の中で復唱する。



 (意味が分からないぞ。食べられてもいい……お腹が空いているんじゃなかったのか、俺に食べさせるのか?ボタンは料理なんて出来ないハズ、それに、なんでこんなにも恥ずかしそうにしているのだ、なんか色っぽい様な、妖艶って言葉が似合いそうな、そんな感じが……。待てよ、この感じ、どこかで……。そうだ、実家だ。親父のハーレム、そこに居た女達、まさか、ボタン、お前……)

 そして、ハレオの目に入る破れたページ、そこに載っているプッタネスカの料理、その名を意味する「娼婦風」が、ハレオの推測を加速させた。



 「ボタン、お前、いつから俺の事を……」

 「俺の事」というのは、宝くじに当たって億万長者になった自分の事だった。



 「ハレオくん、わたし、やっぱり……」

 ボタンは恥ずかしかった、やり直したかった、だから言葉が詰まる。だが、四つん這いで覆い被さるハレオから感じる体温に、ボタンの体の火照りは最高潮を迎えていた。もう、後戻りは出来ない、もう、身を任せたい。畳の上、身動きが取り辛いハレオの股の間で、腰をくねらせるボタン。



 2人だけの部屋、小春日和の少し冷えた心地よい気温、夕方の落ち着く薄暗さ、互いに体を求めあうには絶好のシュチュエーション、見つめ合う男女の思惑は一致しているかに見えた。



 「ダメだよ、俺はボタンをそんな風には見れない、ボタンは大事な友達だから……だから、こんなことしないでくれ、もっと自分を大切にしてくれ」

 そう言ってボタンの横に座ると、首の後ろに回していた腕を引き上げ、そっとボタンを起こしてあげるハレオ。



 「ボタンをそんな風に」とは、財産目当てで集まり、親父を誑かし、死に追いやったハーレムの女達の事。大金を手にしてしまったハレオは、事も有ろうに、ボタンをその女達に重ねてしまったのだ。



 ハレオの至ったソレは、最低最悪の答えだった、だが……。



 「ハレオくん……」

 ボタンは、目に涙を浮かべていた。



 ボタンが、ハレオに対し好意を抱いていることは確かだった。それでも、自分の初めてを許すという行為は、それなりの勇気が必要だった。勢い余って、食べられてもいいなどという痛い発言が己の口から出たのも、なけなしの勇気を振り絞った結果が悪い方へ働いただけ。

 ハレオへの気持ち、SNSの風潮、恥ずかしい発言、それらがぐちゃぐちゃに入り乱れる中、ハレオの「もっと自分を大切に」の言葉、その言葉だけが強調され、ボタンの心に刺さった。

 ボタンは、全てのしがらみから解放された気分だった、安心からか涙が出た。



 「ごめんねハレオ、わたし変なこと言っちゃって、ビックリしたよね」

 「いいんだよボタン、誰にだって間違いはある、お金の魔力は人をダメにするからな」

 「お金?何を言っているの?」

 「頼むボタン、この事は誰にも言わないでくれ」

 「え、いや、こんな恥ずかしい事、誰にも言わないけど、お金って何?」



 ピンポーン。



 「おーい、ハレオー居るんだろー開けてくれー腹減ったー」

 チャイムは一回目だけ、あとは大声を上げながら、ドアをドンドンと拳で叩く乱暴そうな来客、だが声色は透き通っていて可愛らしい。アニメ声と表現するのが適切である。



 「スミレちゃんだ」

 「なんだよ今度はスミレか」



 「スミレー空いてるぞー」

 ハレオが、そう声を掛けるとガチャリと扉は開き、1人の女子が入室してきた。



 南志見 澄玲ナジミ・スミレ

 ボタンの大親友であり、幼い頃からボタンに付いてハレオの家で遊ぶ友達だった。

 スポーツ万能で、活発的、少し成績は悪いが、姉御肌でクラス委員も務める。ボタンよりも胸の成長速度が劣るが、スポーツを嗜む抜群のプロポーションは、男女問わず隠れファンが多い。



 「ハレオ……ボタンちゃん、2人で何を……」

 そんなスミレもまた、高校生になり、ハレオを男として意識し始めていた。それが恋愛感情なのか、大切な友達なのか、まだはっきりとは分からない。

 だが、ハレオとボタンが二人っきりの部屋で密着している姿を目にしたスミレは、拳を強く握っていた。
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