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最果ての森・成長編

97. ライトニング

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 ザザーン、ザザーン。

 寄せては返す波の音が心地よい。

「···さらに気にならないほど微弱にして流すと、体調が良くなるんだ。怪我の治りが早くなったという報告もあるよ。ただしある程度の時間と回数を継続する必要があるけどね。でもこれは当時、画期的な発見としてかなり話題になったんだ。今でも研究は続けられていて、···」

 ザザーン、ザザーン。
 
 時折ヒュウッと吹く風も心地よい。

「···とは言え今のところ効果はポーションのほうがずっと高いけどね。解毒の効果はないことから、浄化の作用はないみたいなんだ。だから体の治癒力を高めていると考えられるんだけど、より高い効果を求めて威力を強めるとなぜかダメなんだ。薬も過ぎれば毒となるということかな」

 ザザーン、ザザーン。

 楽しそうに波と戯れるティアが可愛い。

「···一般的な使用を目指すなら、メカニズムの解明は必須だね。それにはもっと細かい視点での研究をする必要がありそうだ。雷を流すことによる体への影響···ふふ、とても興味深いよ」

 ザザーン、ザザーン。

 テムが大きな巻貝を見つけて喜んでいる。

「···これは私の仮説なんだけどね、人の体にはもともと微量の雷が流れている可能性があるんだ。そこにさらに微弱な雷を流すことで、体に刺激を与える。その刺激によって、体が活動的になるんじゃないかな。雷を全身に纏うと時間の流れがゆっくりになる感覚があるんだけど、これは普段より身体や思考を速く動かせるからじゃないかと思うんだ。これはまだ仮説の段階だから、検証が必要だけどね」

 ザザーン、ザザーン。

 ファムが作る砂のお城がものすごいことになっている。

 ザザーン、ザザーン。

 ザザーン、ザザーン。

 お、綺麗な貝殻発見。


 僕はジルを見た。

 ジルが頷く。

「···細かい視点と言えば、以前有名な研究者が、···」

「ライ」

「···言っていた···ん?······あ」

 ジルに呼びかけられてこちらの世界に戻ってきたライが固まり、みるみる顔が赤くなる。

「あ、ははは···。つい喋りすぎてしまったよ。ウィル君、つまらなかったでしょ。ごめんね?」

 いえいえ、ライの熱く語る姿が非常に興味深かったです。

 面白かったので、続きはまた今度ゆっくり聞いてみたい。
 そう思って「かみなり、おもちろい」と言うと、恥ずかしさで赤くなっていたライの顔が興奮でさらに赤くなる。

「そ、そうかい?ああ、やっぱりウィル君はいい子だねえ!ふふ、また今度聞いてくれるかい?面白い話がたくさんあるんだ!ウィル君の知識にも興味があるから、雷について知っていることがあれば教えてくれるかい?」

 ライが、貝殻を握りしめた僕の手を両手で包み、キラッキラの笑顔で聞いてきた。
 これはもう、断るなんて選択肢は存在しない。

「またこんど」

 電気とか細胞とか、そういう話をしたら喜んでもらえるかな。
 そんなことを考えながら、僕はライによるハグを受け止めていた。


「え、えーっと、確かライトニングの説明をしていたよね。これは雷撃を放つ魔法だよ。あ、みんな、海に入らないよう気をつけてね」

 ライがまだほんのり赤みの残った顔で魔法の説明に戻る。指先を海に向けて『雷撃ライトニング』と唱えると、ライの指先がピカッと光り、海へ向かって雷が放たれた。

「威力の強弱は、込める魔力の量によって変えられるよ。さっき私が撃ったくらいであれば、ショット系の魔法の倍くらいかな。上位属性だからか、少し多めに魔力が必要なんだ」

 ふむ、なるほど。確かにウォーターショットよりアイスショットの方が、必要な魔力量は多い気がする。
 ショット系の倍くらいと言われ、それくらいの魔力量を込めようとしてはたと気づく。

 僕、ショット系は改造しまくってるよね···?

 基準となるはずの魔法が、もはや別物と化しているため参考にならない。
 
「···あ!ウィル君の場合は少なめでいいからね!最初は魔力少なめ!これ大事!」

 僕がどれくらい魔力を込めるか悩んでいると、ライがハッとして慌てて言った。

「あ、危なかった···。さっきの動揺を引きずると危険だね。よし、切り替えよう」

 パチンと頬を叩いて気を引き締めるライ。
 切り替えは大事だけど、そんなに僕って危ないかな?······思い出そうとして、すぐにやめた。

 最初は少なめ。
 うんうん、これ、すっごく大事だよね。

 ショット系との比較はせず、ただ少なめの魔力で雷を撃つことを考える。
 
 雷って、雲の中で起こる静電気だよね。
 マイナスからプラスに流れる電子を指先にイメージする。雷は高電圧だから、電子はいっぱいあるほうがいいかな。

 大量の電子が海に向かって飛んでいくイメージだ。

 うーん、これは魔力少なめで大丈夫なのかな?
 そんな疑問がよぎったが、とりあえずやってみることにした。

「『雷撃りゃいとにんぐ』!」

 ライみたいに海を指差して魔法名を唱える。

 しかし、ちょっとの魔力を込めて、なかなかの気合で唱えた魔法は、ピカリともせずに魔力を散らした。

「あ、あれ···?もしかして、魔力が足りなかった···?」

 ライから戸惑いの声が聞こえる。

「ブハハ!ウィル、顔は完璧だぜ!」

「あはは!かっこいいポーズだねー!」

 体を斜め45度にし、右腕をビシッと伸ばして海を指差し、左手は腰に当ててキメ顔までしていたのに。

「ご、ご主人···」

 ティアの気遣うような視線がツラい。

「め、珍しいこともあるものだね···。私が魔力少なめって言ったからかな?も、もう少し、ふふ、多くても、大丈夫そうだね、···ふふっ」

 笑いを堪えようとして失敗したライが口を押さえる。

 なにこれ。めちゃくちゃ恥ずかしいぞ。

 とりあえず体の向きを真正面に戻し、腰に当てていた左手を降ろす。

 むう。恥ずかしすぎて考えがまとまらない。

 うーん、とりあえずさっきと同じイメージでいいや。それで、魔力を多めにするんだ。

「···『雷撃りゃいとにんぐ』!」

 羞恥を振り切るために、えいっ!と魔力を込めて放つ。
 すると、指先から光が見えた。眩しすぎて目を閉じた。

 バリッドーーン!

 空気を震わせる轟音が響く。
 驚いて目を開けると、海に水柱が高く上がっていた。

「···ふふふ、これでこそ、ウィル君かな」

 ライはザバーンと飛沫を上げながら海へ戻る水柱を見ながら、もはや見慣れた表情とも言える乾いた笑みを浮かべていた。
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