96 / 115
最果ての森・成長編
93. 中級魔法③
しおりを挟む
ジルのナデナデは気持ちいいなあ。思わず目を瞑りたくなる。
そうすると、遠くにあるはずなのに大き過ぎて遠近感が狂って見える白いモクモクも、ライとティアからのジトッとした視線も、見えなくなるんだ。
僕は白いモクモクとは別の遠くを見つめて、現実逃避をする。
そんな僕を見たライが、深く息を吸って吐き、それからニッコリと笑顔を作る。···口の形は笑っているはずなのに、目が笑っていないと感じるのは気のせいだろうか。
「ふふふ、ウィル君、次は風の中級魔法をやろうか」
おや、あの水蒸気は放置でいいのかな?
もしかして、ライも現実逃避してる?
「ブラストっていう、強い風を広域に吹かせる魔法だよ。···『突風』」
ライが魔法を放つと、ビュウッと音がした。地面の砂や小石が巻き上げられ、ものすごいスピードで飛んで行っている。
「こうやって魔法の範囲内にある物をあえて巻き込むのもアリだよ。風のスピードを纏うと、それだけで攻撃力がグンと上がるからね。ただし、重い物を飛ばすのは難しいし、飛ばす物が多いほど早く減速するから気をつけてね」
風圧だけでも凄そうなのに、そのスピードで小石が飛んで来たら恐ろしい攻撃力になりそうだ。それに、砂だと避けるのが難しい。なかなかエグい魔法だと思う。
「それじゃあウィル君もやってみようか。風だから、本来は何かを巻き込まない限り視覚的に分かりづらいんだけどね。···でも今日はね、幸いなことに、すっごくいい的があるんだ」
ライの笑みが深まる。相変わらず目は笑っていないが。
いい的って、なんだろうか。狭い範囲の魔法ならアースウォールなどを作ればいいのだが、広域におよぶ魔法だとそういう訳にはいかない。
「ふふふ、あれに向かって撃ってみようか。目標は、そうだなあ···。あれが無くなるまで、なんてどうかな?」
そう言いながらライがビシッと指差したのは、巨大な存在感を放つ白いモクモクだった。
どうやらライは現実逃避などしていなかったようだ。そして僕も、どうにかして視界から外したいあれを直視せざるを得ないらしい。
···仕方ない。僕がしでかしたことなんだ。僕が後始末をするべきだろう。
「ふふ、ここからだと遠いから、少し近づいても大丈夫だよ」
ライの言葉に甘えて、僕は白いモクモクとの距離を詰める。···うーん、巨大さが増した。
近づいたところで、早速魔力を込め始める。そして大量の水蒸気を散らす、猛烈に速い突風をイメージする。
ティアは僕とライを交互に見て、ハラハラした表情を浮かべている。
よし、魔力を集めた。あとは魔法名を唱えるだけだ。
僕は大きな標的をしっかりと見据える。
「『突風』!」
次の瞬間、ゴウッという音がした。台風がきたのかと思うほどの風の音だ。
届け、届け···!
僕は祈るように巨大な白い的を見つめる。
ティアはソワソワしながら僕とライ、それから水蒸気の塊を見ている。
すると、僕の祈りが届いたのか、的の一部が消し飛んだ。
「おお!少し消えたぜ!」
「あはは!ウィルくん、すごいねー!」
テムとファムが成功を喜んでくれている。
「これは現実なのか···?いや、夢か?···驚きすぎて、よく分からなくなってきたのだ」
ティアが混乱している。
「ふふふ、上出来だよ、ウィル君。おそらく一般的なブラストよりかなり速いね。本当にすごいよ。···さあ、的はまだまだあるから、頑張ろうね」
ライはそこまで言うと、ティアをサッと抱えてナデナデし始めた。···あっ、今度は頬をスリスリし始めたぞ。
「この感触···現実か?」という声がティアから聞こえた。
「あはは!ライ、だいじょうぶー?」
「大丈夫。大丈夫だよ。···ちょっと癒やしが欲しかっただけなんだ」
ライはティアから癒やし成分を補給していたようだ。
その間も、僕はブラストで水蒸気を散らす。白いモクモクが突風でパァンと消えるのが面白い。標的が巨大だからチマチマした作業に見えるけど、こういうの、嫌いじゃない。
「なあ、オレもやっていいか?」
「あ、ぼくもー!」
僕の作業を見ていたテムとファムも、やってみたくなったようだ。
僕は大歓迎だけど、ライはいいのかな?
「ふふ、もちろんだよ」
ライが笑ってオーケーを出す。···やっといつもの笑顔を見られた気がする。ティアにたっぷり癒やしてもらったのかな?
「やったぜ!」
「わーい!」
二人は大喜びで魔力を込め始める。
「よっしゃ、やってやるぜ!『突風』!」
「えーい!『突風』!」
テムとファムが魔法名を唱えると、ボフッ、ボフッと音がした。白いモクモクに目を凝らすと、大きな穴が二つ、ぽっかりと空いていた。
···え?
「···え?」
僕の心の声がライから聞こえた。ライを見ると、ティアを取り落としそうになって慌てて抱え直していた。
···そうだ、そういえばこの二人、天才だった。
名前:ウィル
種族:人族
年齢:1
レベル:56
スキル:成長力促進、言語理解、魔力操作、魔力感知、テイム
魔法:火属性魔法(初級)
水属性魔法(初級)、氷属性魔法(初級)
土属性魔法(初級)
風属性魔法(初級)
光属性魔法(初級)
火柱、火波、洪水、突風
耐性:熱冷耐性
加護:リインの加護
称号:異世界からの転生者、黒龍帝の愛息子、雷帝の愛弟子
そうすると、遠くにあるはずなのに大き過ぎて遠近感が狂って見える白いモクモクも、ライとティアからのジトッとした視線も、見えなくなるんだ。
僕は白いモクモクとは別の遠くを見つめて、現実逃避をする。
そんな僕を見たライが、深く息を吸って吐き、それからニッコリと笑顔を作る。···口の形は笑っているはずなのに、目が笑っていないと感じるのは気のせいだろうか。
「ふふふ、ウィル君、次は風の中級魔法をやろうか」
おや、あの水蒸気は放置でいいのかな?
もしかして、ライも現実逃避してる?
「ブラストっていう、強い風を広域に吹かせる魔法だよ。···『突風』」
ライが魔法を放つと、ビュウッと音がした。地面の砂や小石が巻き上げられ、ものすごいスピードで飛んで行っている。
「こうやって魔法の範囲内にある物をあえて巻き込むのもアリだよ。風のスピードを纏うと、それだけで攻撃力がグンと上がるからね。ただし、重い物を飛ばすのは難しいし、飛ばす物が多いほど早く減速するから気をつけてね」
風圧だけでも凄そうなのに、そのスピードで小石が飛んで来たら恐ろしい攻撃力になりそうだ。それに、砂だと避けるのが難しい。なかなかエグい魔法だと思う。
「それじゃあウィル君もやってみようか。風だから、本来は何かを巻き込まない限り視覚的に分かりづらいんだけどね。···でも今日はね、幸いなことに、すっごくいい的があるんだ」
ライの笑みが深まる。相変わらず目は笑っていないが。
いい的って、なんだろうか。狭い範囲の魔法ならアースウォールなどを作ればいいのだが、広域におよぶ魔法だとそういう訳にはいかない。
「ふふふ、あれに向かって撃ってみようか。目標は、そうだなあ···。あれが無くなるまで、なんてどうかな?」
そう言いながらライがビシッと指差したのは、巨大な存在感を放つ白いモクモクだった。
どうやらライは現実逃避などしていなかったようだ。そして僕も、どうにかして視界から外したいあれを直視せざるを得ないらしい。
···仕方ない。僕がしでかしたことなんだ。僕が後始末をするべきだろう。
「ふふ、ここからだと遠いから、少し近づいても大丈夫だよ」
ライの言葉に甘えて、僕は白いモクモクとの距離を詰める。···うーん、巨大さが増した。
近づいたところで、早速魔力を込め始める。そして大量の水蒸気を散らす、猛烈に速い突風をイメージする。
ティアは僕とライを交互に見て、ハラハラした表情を浮かべている。
よし、魔力を集めた。あとは魔法名を唱えるだけだ。
僕は大きな標的をしっかりと見据える。
「『突風』!」
次の瞬間、ゴウッという音がした。台風がきたのかと思うほどの風の音だ。
届け、届け···!
僕は祈るように巨大な白い的を見つめる。
ティアはソワソワしながら僕とライ、それから水蒸気の塊を見ている。
すると、僕の祈りが届いたのか、的の一部が消し飛んだ。
「おお!少し消えたぜ!」
「あはは!ウィルくん、すごいねー!」
テムとファムが成功を喜んでくれている。
「これは現実なのか···?いや、夢か?···驚きすぎて、よく分からなくなってきたのだ」
ティアが混乱している。
「ふふふ、上出来だよ、ウィル君。おそらく一般的なブラストよりかなり速いね。本当にすごいよ。···さあ、的はまだまだあるから、頑張ろうね」
ライはそこまで言うと、ティアをサッと抱えてナデナデし始めた。···あっ、今度は頬をスリスリし始めたぞ。
「この感触···現実か?」という声がティアから聞こえた。
「あはは!ライ、だいじょうぶー?」
「大丈夫。大丈夫だよ。···ちょっと癒やしが欲しかっただけなんだ」
ライはティアから癒やし成分を補給していたようだ。
その間も、僕はブラストで水蒸気を散らす。白いモクモクが突風でパァンと消えるのが面白い。標的が巨大だからチマチマした作業に見えるけど、こういうの、嫌いじゃない。
「なあ、オレもやっていいか?」
「あ、ぼくもー!」
僕の作業を見ていたテムとファムも、やってみたくなったようだ。
僕は大歓迎だけど、ライはいいのかな?
「ふふ、もちろんだよ」
ライが笑ってオーケーを出す。···やっといつもの笑顔を見られた気がする。ティアにたっぷり癒やしてもらったのかな?
「やったぜ!」
「わーい!」
二人は大喜びで魔力を込め始める。
「よっしゃ、やってやるぜ!『突風』!」
「えーい!『突風』!」
テムとファムが魔法名を唱えると、ボフッ、ボフッと音がした。白いモクモクに目を凝らすと、大きな穴が二つ、ぽっかりと空いていた。
···え?
「···え?」
僕の心の声がライから聞こえた。ライを見ると、ティアを取り落としそうになって慌てて抱え直していた。
···そうだ、そういえばこの二人、天才だった。
名前:ウィル
種族:人族
年齢:1
レベル:56
スキル:成長力促進、言語理解、魔力操作、魔力感知、テイム
魔法:火属性魔法(初級)
水属性魔法(初級)、氷属性魔法(初級)
土属性魔法(初級)
風属性魔法(初級)
光属性魔法(初級)
火柱、火波、洪水、突風
耐性:熱冷耐性
加護:リインの加護
称号:異世界からの転生者、黒龍帝の愛息子、雷帝の愛弟子
21
お気に入りに追加
5,827
あなたにおすすめの小説
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
中イキできないって悲観してたら触手が現れた
AIM
恋愛
ムラムラして辛い! 中イキしたい! と思ってついに大人のおもちゃを買った。なのに、何度試してもうまくいかない。恋人いない歴=年齢なのが原因? もしかして死ぬまで中イキできない? なんて悲観していたら、突然触手が現れて、夜な夜な淫らな動きで身体を弄ってくる。そして、ついに念願の中イキができて余韻に浸っていたら、見知らぬ世界に転移させられていた。「これからはずーっと気持ちいいことしてあげる♥」え、あなた誰ですか?
粘着質な触手魔人が、快楽に弱々なチョロインを遠隔開発して転移させて溺愛するお話。アホっぽいエロと重たい愛で構成されています。
今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!
ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。
苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。
それでもなんとななれ始めたのだが、
目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。
そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。
義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。
仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。
「子供一人ぐらい楽勝だろ」
夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。
「家族なんだから助けてあげないと」
「家族なんだから助けあうべきだ」
夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。
「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」
「あの子は大変なんだ」
「母親ならできて当然よ」
シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。
その末に。
「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」
この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~
浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。
(え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!)
その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。
お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。
恋愛要素は後半あたりから出てきます。
お祭 ~エロが常識な世界の人気の祭~
そうな
BL
ある人気のお祭に行った「俺」がとことん「楽しみ」つくす。
備品/見世物扱いされる男性たちと、それを楽しむ客たちの話。
(乳首責め/異物挿入/失禁etc.)
※常識が通じないです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる