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最果ての森・成長編

89. 島への転移

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 ぱちり。
 スッキリとした目覚めで朝を迎える。起きたらまずはティアを撫でて、ふわふわを堪能するのが日課となりつつある。
 ここ最近、ようやくティアのふわふわによる二度寝のお誘いに耐性ができた。

「ご主人、おはようなのだ」

 僕のナデナデで起きたティアが、ふわぁ~と欠伸をする。

「てぃあ、おあおう」

「ご主人に撫でられると、また眠くなるのだ···。でもやめてほしくないし···どうすればいいのだ?」

 寝起きで頭が回っていないティアの呟きが可愛い。

 しばらくして完全に覚醒したティアと、魔力操作などの練習をする。

「日々の努力を欠かさないことが、強くなるための第一歩なのだな···!」

 そう言ってティアは一生懸命練習している。

「初めの頃はご主人が練習しているのを見ているだけだったが、今ではこうして一緒に練習できて嬉しいのだ!」

 ···ティア、可愛すぎかよ。

 健気なティアに悶えていると、ジルが来た。

「おはよう」

「おあおう!」

「おはようなのだ!」

 ジルは僕とティアを抱えてリビングへ連れて行ってくれる。
 僕がティアを抱っこするのはそろそろ厳しくなってきたが、ジルはまだまだ大丈夫そうだ。
 
 僕もジルみたいに背の高い大人になりたいけど、その頃にはティアはどれくらいの大きさになっているだろうか。
 魔物図鑑で調べたダイアウルフの成体は、随分と大きかった。それこそ、余裕で大人を背中に乗せられるくらいに。
 それはそれで、いい···!ものすごく、いい···!

 ティアのふわふわに埋もれたい。ティアに寄りかかって寝てみたい。ティアに乗ってお散歩してみたい。ティアの···。

「···ご主人?」

 一人でニヤニヤしている僕を、ティアが不思議そうに見る。

 ···おっと。つい、欲望が湧き出てしまった。

「今日は楽しみだな!ワレはずっとワクワクしているのだ!」

 ティアの明るい声に、僕の煩悩が頭の隅っこに追いやられる。···隅っこにいるだけで、消えたわけでは、決してない。

 ティアが楽しみにしていることとは、ライの所有する島での魔法の練習だ。
 ライにその島を練習場所として提案されたのが、一昨日のこと。それから二日後の今日、そこへ転移するのだ。

 もちろん僕も楽しみだ。わくわくし過ぎて、昨日の夜はなかなか寝付けな···いや、そういえばぐっすりだった。

「ウィル、ティア。楽しみなのは結構だが、まずは朝食だ」

 僕がティアをワシャワシャと撫でている間に、ジルは朝ごはんをテーブルに並べてくれた。

 お、今日はパンの日か。
 ソルツァンテでお米を大量に購入してからは、お粥やリゾットが出される頻度がグンと増えた。頻繁にお米を食べられるのはすごく嬉しいけど、パンも好きだ。

 野菜が柔らかく煮込んであるクリームスープと、白身魚の料理。ムニエルっていうのかな?表面からは香ばしい匂いがするけど、中はフワッとしていて、その食感が美味しい。

「おいちい!」

「そうか」

 もぐもぐ食べる僕の頭を、ジルが撫でる。

「ジル、これはまだあるか?もう少し食べたいのだ!」

 ティアは白身魚がお気に召したようで、おかわりしていた。


 朝食を終えると、僕とティアは一気にソワソワしだす。

「ご主人、ご主人。あやつらはまだか?」

 ティアは3分おきくらいに僕に訊ねている。
 
 ティアが同じ問いかけを5回ほどしたところで、玄関のドアが開いた。

「みんな、おはよう!いい天気だね!」

 ライだ!
 最近気づいたのだが、ライの言ういい天気とは、魔法の練習日和ということらしい。島の方も、晴れているといいな。

「ライ!待っていたぞ!」

 ティアがぴょーんと飛び出して、ライに駆け寄る。

「ふふ、今日もティアは可愛いね」

 お出迎えされて嬉しかったのか、ライが眩しい笑顔でティアをワシャワシャしている。

 それから間もなくして、テムとファムもやって来た。

「みんなー、おはよー!」

「よ!来たぜ!」

 みんなが揃ったので、いよいよ出発だ。
 この間の旅行もそうだったけど、知らない場所に行くのってドキドキする。そしてワクワクしているのは、みんなと一緒だからかな。

「それじゃあみんな、準備はいいかい?」

 ライが転移の陣を床に広げる。

「みんなこの円の中に入ってね。そうそう、円からはみ出すと、その部分は転移されないから気をつけてね」

 ライの言葉にヒエッとなって、みんな円の中心にぎゅっと寄る。

「ふふ、それじゃあ魔力を流すよ。少し時間をもらうね」

 そう言ってライは描かれた模様に魔力を流し始めた。
 魔力が通った部分が少し発光しているように見える。順番が決まっているのか、細い複雑な線に少しずつ光が宿る。
 ライの真剣な表情に、一筋の汗が流れる。それほどこの作業は、膨大な集中力と精密な魔力操作を要するものなのだろう。

 やがて全ての模様に魔力が流れ、陣全体が淡い光を発する。その光が徐々に強くなり、目を開けていられないほど眩しくなる。
 思わず目を閉じるが、それでも瞼の向こうから強い光が射し込んでくるような感じだ。

 さらに腕で目をガードしようかと思ったとき、一瞬の浮遊感の後、光が収まった。

「みんな、着いたよ!」

 ライの声で目を開けると、そこはどでかい家のリビングだった。
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