上 下
91 / 115
最果ての森・成長編

88. 練習場所

しおりを挟む
 ティアが念話を習得した翌日。
 ライに加えて、テムとファムも家に来てくれた。
 
 ティアは念話が出来るようになったということで、テムとファムから質問攻めにあっていた。

「ねえねえ、ぼくたち聞いてなかったけど、ティアの得意属性ってなんだったのー?」

「水と土と闇なのだ!」

「へえー!3つもあるんだ!ティア、すごいねー!」

「そ、そうか?···ふふん、これからワレは強くなるのだ!」

「でもよ、その分練習が多くなんだろ?これから大変なんじゃねーか?」

「望むところなのだ!ご主人の魔法に驚く暇もなく練習するのだ!」

「あはは!ウィルくんの魔法は面白いよねー!」

「だな!知ってる魔法のはずなのに、なんつーか、別物なんだよなー」

「そうなのだ!ご主人の魔法はすごいのだ!ワレの念話も、···あっ」

「うん?···あ、そういえば、念話はどうやって出来るようになったのー?」

「そうだぜ!オレらじゃ上手く教えらんなかったけどよ、ライに教えてもらったんだろ?」

「そ、そうなのだ!ライの説明は分かりやすかったぞ!」

「よかったねー!···ねえねえ、念話で最初に話した言葉って、なんだったのー?」

「おお!それは気になるぜ!記念すべき第一声ってやつだな!」

「あっ、えーっとだな···」

「お願い、教えてー?」

「オレも!オレも知りたいぜ!」

「···ナンダッタカナー」

「んあ?それが最初に話した言葉か?あんまりカッコよくねーな!ブハハ!」

「ま、まあ、少し違うが···似たようなものなのだ」

「あはは!ティア、面白いねー!」

 察しのいいファムが早速ティアをいじっている。
 僕の魔法に驚いたら念話が出来たなんて、ちょっと言いづらいよね。まあ、ファムは気づいているみたいだけど。

 ちなみに、この会話が行われている間、僕はジルの膝の上で本を広げていた。

 ライはティア達の会話には入っていなかったものの、うんうんと頷いたり、時折クスッと笑ったりしていた。
 
 僕は、菩薩の笑みを絶やさなかった。


 質問タイムが終わったのか、ティア達が僕達の近くに集まる。
 みんなでお喋りを楽しんでいると、ライが「あ、そうだ」と言ってバッグから地図を取り出した。

「ウィル君、中級の魔法をどこで練習しようか考えていたんだけど、ここはどうかな?」

 そう言ってライが指差したのは、大陸ではなく、その南にいくつかある島の一つだった。

「ここはね、私が以前から魔法の実験などで使っている島なんだ。他に人は住んでいないから、大規模な魔法を使っても大丈夫だよ」

 ···ライは島を所有しているの?
 というか、大規模な魔法を使う前提なんだね。

「あ、私の家···というか別荘かな?お昼寝する場所はちゃんとあるから安心してね」

 ···島を持っているなら、別荘くらいあるよね。
 あまりにも軽い感じで言うから、別荘ってそんなに簡単に持てるものだっけ?と思ってしまった。

「ウィル君、どうかな?」

 ···おっと。
 骨の髄まで庶民の僕にはスケールが大き過ぎて、ちょっとフリーズしてしまった。

「···てんい?」

 南の島まで、どうやって行くのだろうか。

「あ、それは大事なことだよね。ふふ、実はね、移動自体は一瞬で終わるんだ」

 ライが再びバッグから何かを取り出した。クルクルと巻かれた布だ。
 ライが布を広げる。そこには、大きな円の中に細かい緻密な模様がぎっしりと描かれていた。もはや芸術と言えるほどの細かさ。これを描くだけでも相当な時間と労力を費やしただろうということは、容易に想像できる。

「私の研究の中で一番の成果なんだ。···これは、転移の陣だよ。私の別荘に刻んだものと対になっていてね、この陣に入って模様に沿って魔力を流せば、対になる陣へ転移できるんだ」

 転移の陣?
 つまり、これは魔法陣?

「ウィル君、ティア、これは他言無用で頼むよ。ここにいるメンバー以外には、話していないんだ」

 ライの声に真剣な響きが含まれる。

「この陣の存在が漏れたら、これを巡って戦争が起こる。残念ながら、これは間違いないよ。だからね、本当に信用できる人にしか話せないんだ」

 空間属性は、とても珍しい。それに、テムは簡単にやってのけているが、本来転移はものすごく難しい魔法だ。
 そんな魔法を、魔力を流せば発動できるのだ。
 
 転移の陣は、とても便利だ。ただ、使い方次第では、恐ろしい道具にもなる。ライは、それを危惧しているのだろう。

「この世界全体でもっと魔法の研究が進めば、これを発表できるかもしれないけどね。···今は、その時じゃない」

「ないしょ」

 僕は口に人差し指をあててシーッと言う。

「ワレも、誰にも言わないのだ!」

「ふふ、二人ともありがとう。それじゃあ、練習場所はここでいいかい?」

 ライの纏う空気がフッと緩み、柔らかい笑顔を見せる。

「俺も行く」

 僕がライの問いに頷くと、ジルがそう言った。

「楽しそうだな!オレも行っていいか?」

「ぼくも行きたーい!」

 ジルに続き、テムとファムも参加を希望する。

「ふふ、もちろんだよ」

「わーい!ありがとー!」

「やったぜ!」

 二人が喜ぶ横で、ティアがおずおずと訊ねる。

「ワレも、行っていいのか···?」

「もちろんだよ!ティアも魔法の練習、頑張ろうね!」

「あ、ありがとうなのだ!」

 不安から一転、喜びいっぱいで尻尾をフリフリしているティアが可愛い。


 その後、練習日をいつにするか話し合った。みんなが揃う日に行こうということで、明後日、南の島に行くことになった。

 二日後、ライ所有の島で魔法の練習だ。
 今からわくわくが止まらない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

中イキできないって悲観してたら触手が現れた

AIM
恋愛
ムラムラして辛い! 中イキしたい! と思ってついに大人のおもちゃを買った。なのに、何度試してもうまくいかない。恋人いない歴=年齢なのが原因? もしかして死ぬまで中イキできない? なんて悲観していたら、突然触手が現れて、夜な夜な淫らな動きで身体を弄ってくる。そして、ついに念願の中イキができて余韻に浸っていたら、見知らぬ世界に転移させられていた。「これからはずーっと気持ちいいことしてあげる♥」え、あなた誰ですか?  粘着質な触手魔人が、快楽に弱々なチョロインを遠隔開発して転移させて溺愛するお話。アホっぽいエロと重たい愛で構成されています。

今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!

ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。 苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。 それでもなんとななれ始めたのだが、 目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。 そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。 義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。 仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。 「子供一人ぐらい楽勝だろ」 夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。 「家族なんだから助けてあげないと」 「家族なんだから助けあうべきだ」 夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。 「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」 「あの子は大変なんだ」 「母親ならできて当然よ」 シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。 その末に。 「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」 この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

お祭 ~エロが常識な世界の人気の祭~

そうな
BL
ある人気のお祭に行った「俺」がとことん「楽しみ」つくす。 備品/見世物扱いされる男性たちと、それを楽しむ客たちの話。 (乳首責め/異物挿入/失禁etc.) ※常識が通じないです

処理中です...