80 / 115
最果ての森・成長編
77. 願い
しおりを挟む
ジルが僕を地面に降ろす。僕とティアが話しているのに気づいてくれたのだろう。
僕はティアの前でしゃがみ、そっとティアを撫でる。
「てぃあ、いわなくても、いいよ?」
気にならないと言えば嘘になるが、無理矢理聞き出そうとは思わない。ティアが言いたいと思ったときでいいんだ。
『···いや、これは時間が経つほど言いづらくなりそうだ。···ご主人、話す前に、一つお願いがあるのだ』
そう言って顔を上げたティアの瞳が不安気に揺れている。
「なに?」
『ワレの話を聞いても、家族でいさせてほしいのだ。ワレはこれからも、ご主人の家族でいたいのだ』
···そんな願いなら、お安い御用だ。
「てぃあ、じゅっと、かじょく」
ずっと一緒だから、安心してほしい。そんな思いを込めてティアを撫でる。
『ご主人···ありがとう』
ティアが少し安心した様子で話し始める。
『···実は、ワレはダイアウルフとして生を受ける前、この森に住んでいたのだ』
それはつまり、前世の記憶があるということだろうか。
『この家の近くを縄張りとし、ジルの様子を観察しながら弱点がないかと探していた。ジルは恐ろしく強いが、ワレはそんな強者を倒してみたかったのだ』
なんと。
ジルのことを黒いバケモノと呼んだり、ジルより強くなることを目標としたりしていたのは、そういう過去があったからだろうか。
『ジルを観察していると、ある日ご主人が現れたのだ。小さな体に大きな力を秘めたご主人に、ワレは興味を持った』
ジルが僕を見つけてくれた日のことだろうか。···大きな力だなんて、照れる。
『それで···だな、その、ご主人を、ワレのものにしようと考えたのだ』
···んん?それってつまり、どういうこと?
『ご主人を糧として···、つまり、その、ご主人を食って、強くなろうと思ったのだ』
···なんですと!
僕が無言で驚いていると、ティアが慌てて付け加える。
『も、もちろん今は、そんなこと微塵も考えていないぞ!当時のワレは強さに執着するあまり、正常な判断ができていなかったのだ!』
そ、そうなの?
まあ、魔物なら獲物を狩って糧にするのは当たり前のことなのかな?
僕も肉とか魚とか、日々生き物の命をいただいているわけだし、ゴブリンなどの魔物を倒すことだってある。
ここは、特にこの最果ての森は、弱肉強食の世界だ。だから狙われたことを一方的に糾弾することはできない。
『それである日、ワレはこの庭に出ていたご主人達を見ていたのだ。その時ご主人が放った魔法を避けられず、ワレは命を落としたのだ』
···ん?な、なんですって?
『あ、以前のワレが死んだことに関しては、ワレが弱かっただけなのだ!だからご主人が気にする必要はないぞ!』
ぼ、僕の魔法でティアが死んじゃったの?
僕は、なんてことをしてしまったんだ···!
呆然としてしまった僕に、ティアが焦ったように言い募る。
『ご主人、ご主人!ワレはむしろ感謝しているのだ!このような形で再会し、家族として受け入れてもらえたのだ!ワレは今、幸せなのだ!』
本当に、そうなの?
だって、僕がティアの命を奪っちゃったんだよ?本来なら、もっと長生きできたはずなんだよ?
ティアの前世のこととはいえ、大事な家族の命を僕が奪ってしまった。その事実に、とてつもない罪悪感を覚える。
思わず俯いてしまった僕を見て、ティアが僕から一歩離れる。
『···やはり、以前ご主人の命を狙っていたワレのことを、嫌いになったか?』
え?そんなこと、あるはずない!
『いいのだ、ご主人を狙ったワレに親しみを持ってもらおうなど、身勝手にも程がある。···無理なお願いをして、申し訳なかったのだ』
そう言ってティアは、僕から離れようとする。
僕は咄嗟にティアをがしっと抱きしめる。
「てぃあ、ぼく、ごめんね」
『···何故ご主人が謝るのだ?』
「ぼく、てぃあを···」
『そのことに関しては、むしろありがたいと感じているのだ。ご主人の家族になれたのだからな。···今は、元家族と言うべきか』
ティアがそんな悲しいことを言うので、僕はぎゅうぎゅうとティアを抱きしめる。
「じゅっと、かじょくって、いった!」
ちょっと涙が出てしまったが、仕方ない。だってティアがいなくなるのかと思うと、悲しくてたまらないんだ。
『···いいのか?ワレはこれからも、家族でいられるのか?』
ティアが驚いたようにして僕に聞く。
「てぃあは、いいの?ぼくと、かじょく···?」
僕の問いに、下に垂れていた尻尾が上を向く。
『もちろんなのだ!それがワレの望みなのだから!』
ティアが僕の頬に残った涙をペロペロと舐める。
「てぃあ、あいあと」
『ワレの方が、ありがとうなのだ!ワレは今、幸せなのだ!』
ティアが尻尾をブンブンさせながら僕に頬ずりをする。全身で喜びを表現してくれるティアに、僕も嬉しくなる。
『この体は以前のような羽や毒の尾を持たないが、生きてきた記憶はある。すぐに強くなって、ご主人の役に立つのだ!ご主人、楽しみにしていてくれ!』
羽···、毒の尾···。
思い当たることはあったんだ。
この庭で魔法を使って魔物を倒してしまったことは、二回ある。だからそのどちらかだとは思っていたんだ。
「···てぃあは、まんてぃこあ?」
『ん?ああ、ニンゲンからはそう呼ばれていたぞ!』
ティアの前世は、僕が初めて倒した魔物であるマンティコアだった。
僕はティアの前でしゃがみ、そっとティアを撫でる。
「てぃあ、いわなくても、いいよ?」
気にならないと言えば嘘になるが、無理矢理聞き出そうとは思わない。ティアが言いたいと思ったときでいいんだ。
『···いや、これは時間が経つほど言いづらくなりそうだ。···ご主人、話す前に、一つお願いがあるのだ』
そう言って顔を上げたティアの瞳が不安気に揺れている。
「なに?」
『ワレの話を聞いても、家族でいさせてほしいのだ。ワレはこれからも、ご主人の家族でいたいのだ』
···そんな願いなら、お安い御用だ。
「てぃあ、じゅっと、かじょく」
ずっと一緒だから、安心してほしい。そんな思いを込めてティアを撫でる。
『ご主人···ありがとう』
ティアが少し安心した様子で話し始める。
『···実は、ワレはダイアウルフとして生を受ける前、この森に住んでいたのだ』
それはつまり、前世の記憶があるということだろうか。
『この家の近くを縄張りとし、ジルの様子を観察しながら弱点がないかと探していた。ジルは恐ろしく強いが、ワレはそんな強者を倒してみたかったのだ』
なんと。
ジルのことを黒いバケモノと呼んだり、ジルより強くなることを目標としたりしていたのは、そういう過去があったからだろうか。
『ジルを観察していると、ある日ご主人が現れたのだ。小さな体に大きな力を秘めたご主人に、ワレは興味を持った』
ジルが僕を見つけてくれた日のことだろうか。···大きな力だなんて、照れる。
『それで···だな、その、ご主人を、ワレのものにしようと考えたのだ』
···んん?それってつまり、どういうこと?
『ご主人を糧として···、つまり、その、ご主人を食って、強くなろうと思ったのだ』
···なんですと!
僕が無言で驚いていると、ティアが慌てて付け加える。
『も、もちろん今は、そんなこと微塵も考えていないぞ!当時のワレは強さに執着するあまり、正常な判断ができていなかったのだ!』
そ、そうなの?
まあ、魔物なら獲物を狩って糧にするのは当たり前のことなのかな?
僕も肉とか魚とか、日々生き物の命をいただいているわけだし、ゴブリンなどの魔物を倒すことだってある。
ここは、特にこの最果ての森は、弱肉強食の世界だ。だから狙われたことを一方的に糾弾することはできない。
『それである日、ワレはこの庭に出ていたご主人達を見ていたのだ。その時ご主人が放った魔法を避けられず、ワレは命を落としたのだ』
···ん?な、なんですって?
『あ、以前のワレが死んだことに関しては、ワレが弱かっただけなのだ!だからご主人が気にする必要はないぞ!』
ぼ、僕の魔法でティアが死んじゃったの?
僕は、なんてことをしてしまったんだ···!
呆然としてしまった僕に、ティアが焦ったように言い募る。
『ご主人、ご主人!ワレはむしろ感謝しているのだ!このような形で再会し、家族として受け入れてもらえたのだ!ワレは今、幸せなのだ!』
本当に、そうなの?
だって、僕がティアの命を奪っちゃったんだよ?本来なら、もっと長生きできたはずなんだよ?
ティアの前世のこととはいえ、大事な家族の命を僕が奪ってしまった。その事実に、とてつもない罪悪感を覚える。
思わず俯いてしまった僕を見て、ティアが僕から一歩離れる。
『···やはり、以前ご主人の命を狙っていたワレのことを、嫌いになったか?』
え?そんなこと、あるはずない!
『いいのだ、ご主人を狙ったワレに親しみを持ってもらおうなど、身勝手にも程がある。···無理なお願いをして、申し訳なかったのだ』
そう言ってティアは、僕から離れようとする。
僕は咄嗟にティアをがしっと抱きしめる。
「てぃあ、ぼく、ごめんね」
『···何故ご主人が謝るのだ?』
「ぼく、てぃあを···」
『そのことに関しては、むしろありがたいと感じているのだ。ご主人の家族になれたのだからな。···今は、元家族と言うべきか』
ティアがそんな悲しいことを言うので、僕はぎゅうぎゅうとティアを抱きしめる。
「じゅっと、かじょくって、いった!」
ちょっと涙が出てしまったが、仕方ない。だってティアがいなくなるのかと思うと、悲しくてたまらないんだ。
『···いいのか?ワレはこれからも、家族でいられるのか?』
ティアが驚いたようにして僕に聞く。
「てぃあは、いいの?ぼくと、かじょく···?」
僕の問いに、下に垂れていた尻尾が上を向く。
『もちろんなのだ!それがワレの望みなのだから!』
ティアが僕の頬に残った涙をペロペロと舐める。
「てぃあ、あいあと」
『ワレの方が、ありがとうなのだ!ワレは今、幸せなのだ!』
ティアが尻尾をブンブンさせながら僕に頬ずりをする。全身で喜びを表現してくれるティアに、僕も嬉しくなる。
『この体は以前のような羽や毒の尾を持たないが、生きてきた記憶はある。すぐに強くなって、ご主人の役に立つのだ!ご主人、楽しみにしていてくれ!』
羽···、毒の尾···。
思い当たることはあったんだ。
この庭で魔法を使って魔物を倒してしまったことは、二回ある。だからそのどちらかだとは思っていたんだ。
「···てぃあは、まんてぃこあ?」
『ん?ああ、ニンゲンからはそう呼ばれていたぞ!』
ティアの前世は、僕が初めて倒した魔物であるマンティコアだった。
31
お気に入りに追加
5,827
あなたにおすすめの小説
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
中イキできないって悲観してたら触手が現れた
AIM
恋愛
ムラムラして辛い! 中イキしたい! と思ってついに大人のおもちゃを買った。なのに、何度試してもうまくいかない。恋人いない歴=年齢なのが原因? もしかして死ぬまで中イキできない? なんて悲観していたら、突然触手が現れて、夜な夜な淫らな動きで身体を弄ってくる。そして、ついに念願の中イキができて余韻に浸っていたら、見知らぬ世界に転移させられていた。「これからはずーっと気持ちいいことしてあげる♥」え、あなた誰ですか?
粘着質な触手魔人が、快楽に弱々なチョロインを遠隔開発して転移させて溺愛するお話。アホっぽいエロと重たい愛で構成されています。
今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!
ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。
苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。
それでもなんとななれ始めたのだが、
目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。
そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。
義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。
仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。
「子供一人ぐらい楽勝だろ」
夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。
「家族なんだから助けてあげないと」
「家族なんだから助けあうべきだ」
夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。
「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」
「あの子は大変なんだ」
「母親ならできて当然よ」
シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。
その末に。
「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」
この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~
浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。
(え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!)
その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。
お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。
恋愛要素は後半あたりから出てきます。
お祭 ~エロが常識な世界の人気の祭~
そうな
BL
ある人気のお祭に行った「俺」がとことん「楽しみ」つくす。
備品/見世物扱いされる男性たちと、それを楽しむ客たちの話。
(乳首責め/異物挿入/失禁etc.)
※常識が通じないです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる