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旅行編

72. 帰宅

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「ふふ、それじゃあ、新しい家族も一緒に移動を始めようか」

 あ、そういえば移動中にゴブリンを狩っていたんだった。
 僕がスパッとやっちゃった三匹はもう跡形もない。ジルが黒炎で消してくれたのだろう。

「オレが転移で送るぜ!」

「いいのかい?もう少し飛んで距離を稼ごうと思っていたんだけど」

「おう!ここからなら、最果ての森の入口までは行けるぜ!そこでポーションを飲んで転移すれば、家に到着だぜ!そんでよ、今日はジルの家に泊まっていいか?」

「ああ」

「いいなー!ぼくもお泊りしたーい!」

「ああ、もちろんだ」

「わーい!ありがとー!」

「やったぜ!」

 テムが転移を頑張ってくれるようだ。そして二人のお泊りも決定した。

 転移をするので、クゥクゥと寝入ってしまったティアをよいしょと抱える。ギリギリ僕でも抱っこできた。
 ティアはあったかくてふわふわしていて、体に顔をうずめたくなる。

 そしてそんな僕を、ジルが軽々と抱える。さり気なくティアの体重も支えてくれていて、もはや僕はティアを抱きしめているだけだ。

「それじゃあテム、よろしくね」
 
 ファムを抱えたライが言う。

「おう!任せとけ!」

 頼もしい言葉が聞こえ、転移が発動した。


 目の前に、森が広がっている。森は森でも、先ほどまでいた森とは、やはりどこか違う。他を寄せ付けないような、そんな雰囲気の森だ。中に住んでいるとあまり分からないが、外から見た最果ての森はこんな感じなのか。

「ファム、ポーションもらうぜ!」

「いいよー」

 テムが空間収納からポーションを取り出し、グビグビッと飲む。

「プハーッ!これで魔力回復したぜ!もういっちょ、転移いくぜ!」

 森の入り口を満喫する間もなく、再び僕達は転移した。

 次の瞬間、僕とジルの家が目に飛び込んできた。離れていたのはほんの一週間程度だが、とても懐かしく感じる。

 家に帰るって、こんなに嬉しいことなんだ。ただいまって、大きな声で言いながら家の周りを走り回りたい衝動に駆られる。
 ここが、僕の家。僕が帰る場所なんだ。

「着いたぜ!もう魔力が空っぽだぜ~」

 テムは魔力を振り絞ってここまで送ってくれたんだな。

「あいあと!」

「お、おう!オレはやれば出来る男だからな!ブハハ!」

「ふふ、テム、本当にありがとうね」

「ありがとー!」

「助かった」

「お、おおう!ブハハハハ!」

 照れ隠しだろうか。ほんのり顔を赤くして笑うテムが可愛い。


 家に入ると、家に着いたという実感がじわじわと増す。

「ふわー、なんだか落ち着くねー」

 ファムに同意だ。
 この家はとても居心地がいいのだ。というか、ジルが作る空間は、どこでも居心地がいい。

「夕飯を準備するから、待っててくれ」

 ジルが僕とティアを降ろして言う。
 家に着いて早々、ありがたい。

「あ、私も手伝うよ」

「助かる」

 そんな会話をしながらジルとライがキッチンへ向かう。

 僕は、テムとファムの三人でお喋りをしながらティアを撫でるという充実した時間を過ごしながら、夜ごはんを待った。

 夕食中にティアが起きるかと思っていたが、ずっと眠り続けていた。鼻がピクピク動いていたから、美味しいものを食べている夢だといいなと思った。

 そして夜。
 今日はあまりお昼寝をしていないし、帰ったばかりで疲れているだろうからと、早めに寝る準備をすることになった。

「···そいつも一緒に寝るのか?」

 僕がティアをがしっと抱えていると、ジルがそう聞いてきた。

「あう」

 僕はコクリと頷いてティアに頬ずりをする。このふわふわ、最高だ。

「·········そうか」

 ジルの返事までの間がちょっと長かった気がしたが、僕とティアをまとめて抱えてくれる。

「あはは!ぼくもウィルくんと一緒に寝るー!」

「あ、オレもだぜ!」

「ふふ、私は挨拶だけさせてもらおうかな」

 みんなで僕の部屋に移動する。
 ベッドに僕とティア、それからテムとファムが入ることになるが、みんな小さいので全然問題なかった。

「あはは!お泊り楽しいねー!」

「だな!」

「ふふ、でも早く寝なよ?」

「はーい!」

「分かったぜ!」

 なんだかライって幼稚園の先生もできそうだなと思ってしまった。

「それじゃあみんな、おやすみ」

「おやすみ」

 ジルとライが部屋を出る。
 ティアは相変わらず爆睡している。このふわふわの毛並みにくっついていたら、すぐに眠気が来そうな気がする。

「···なあ、ウィル。お前に礼を言いたいんだけどよ、こいつを色で判断せずに受け入れてくれて、ありがとな」

 僕がティアを撫でていると、テムがそんなことを言ってきた。

「外見で拒絶されるつらさは、オレもよく分かるんだ。···オレにも経験があるからよ。だから、拒絶されたことがあっても、最終的に受け入れてくれるヤツがいてくれるだけでだいぶ救われるのも、分かるんだぜ。···だから、ありがとな」

 テムの優しい笑顔に、言葉が詰まる。いつも無邪気なテムにそんな経験があったなんて、想像もしていなかった。

「ブハハ、そんな顔すんなよ。オレはお前らがいてくれるから幸せなんだぜ!」

 僕の背中をバシバシ叩いてテムが笑う。

「ぼくもねー、お喋りできるスライムはいなかったから、ずっと寂しかったんだー。だから今は大好きな友達がいて、毎日すっごく楽しいよー!」

 僕はこの世界に来てすぐにジルに見つけてもらえた。それってすごく幸運なことだったんじゃないだろうか。
 そして今ではこんなに大好きな人達といつも楽しい時間を過ごしている。

「ぼくも、しあわしぇ。みんな、だいしゅき」

 溢れる気持ちを口にする。

「ぼくもね、みんな大好きだよー!」

「オ、オレもだぜ!」

 三人で笑い合う。

「こいつも、そう思ってくれるといいな」

 テムがティアに優しい視線を向ける。

「きっと大丈夫だよー!だってウィルくんがいるからねー!」

 そうだといいな。
 でもそれは僕だけじゃなくて、みんながいてくれるからだと思う。

「そんじゃ、そろそろ寝るか!」

「そうだねー、おやすみー!」

「おあしゅみ!」

 僕は、みんながいてくれて本当に幸せだ。

 そしてティアには、つらい経験をした分うんと幸せを感じてほしい。
 僕達は、ティアの味方だよ。

 僕はティアを抱きしめて眠りについた。
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