60 / 115
旅行編
58. 郷土料理
しおりを挟む
ライが選んでくれた料理は、一言で言うなら、どれも美味しかった。
野菜と果物の栽培が盛んな国だけあって、種類が豊富で新鮮で、味も文句なしに美味しい。特に果物は、初めて目にするものもたくさんあって、目でも楽しめた。いわゆる南国フルーツというやつだろうか。
それに、さまざまな料理に果物が使われていて、郷土料理という感じがした。
果物をスパイスと煮詰めたものは、甘くてフルーティーなカレーのようで、パンにつけて食べると美味しい。フルーツの甘さはあるがさっぱりとした後味で、何よりスパイスの香りが食欲をそそるから、もう一口、もう一口と食がすすむ。
お肉を柑橘系の果物で煮た料理は、びっくりするくらい柔らかくて、お肉が口の中でほろほろとほどけた。そして爽やかな味と香りで飽きが来ない。
果物を練り込んだパウンドケーキもあった。果物自体が甘いから、生地は甘さ控えめだ。だから甘いのに軽くて、これもどんどん食べられそうなケーキだ。
「果物、美味しいねー!」
「だな!カラフルで楽しいしよ!」
「ふふ、そうだね。あ、今ウィル君が食べているのは、この国でしか食べられないと言われている果物だよ」
そうなのか!白い果肉がとても柔らかくて食べやすく、気に入ってたんだ。それにすっごく甘くて、でも爽やかな酸味もある。ずっと食べていたいと思うくらい美味しい。
「美味しいんだけどね、繊細で劣化が早いんだ。だから遠くへ運ぶのが難しくて、採れた場所で消費する感じだね」
なるほど。あ、マジックバッグなら、運べるのでは···?テム特製のものは時間経過がほとんどないから、劣化する前に届けられそうだ。僕がマジックバッグをちらりと見たのに気づいたライがくすっと笑う。
「ふふ、時間停止のマジックバッグなら、大丈夫だね。だからジルがたくさん買っていたよ。その果物、リーナさんの大好物なんだ」
なんと!ジル、やりおるな。リーナさんの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
「ふふ、リーナさん、ものすごーく喜ぶだろうね」
ライが笑顔で言う。本人はニヤッとした顔をしているつもりなのかもしれないが、もともとの造形のせいか、随分と爽やかな笑顔だ。
「あうあう」
だから僕がニヤッとしてみた。
「ブハハ!半目だな!」
···ちょっと失敗したようだ。
「お腹いっぱーい。美味しかったー!」
「だな!あんなに果物を食べたの、久しぶりだぜ!」
「ふふ、ダレン君のお店でたくさん買ったからね。まだしばらくはたくさん食べられるよ」
「わーい!ライ、ありがとー!」
「ライ、お前最強だな!」
最強はテムお気に入りの褒め言葉だ。よほど嬉しかったのだろう。僕も、食べられるかな?
「たくさん買ったから心配するな。それに、無くなったらまた買いに来ればいい」
どんだけ甘やかしてくれるんですか。もうね、激甘だね。でもその愛情が、すごく嬉しい。
「あいあと!」
僕の頭を撫でる大きな手のぬくもりが、僕に幸せと安心を与えてくれる。いつか僕も、与える側になれたらいいなと、そう思った。
「さて、お腹も満たしたことだし、移動を始めようか」
ライの言葉に、本来の目的を思い出す。リーナさんのいる国、ソルツァンテに行くんだ!
この後は、どんなルートで行くのだろうか。
「いったん街の外に出て、転移しようか。テム、転移先の場所はこの辺で頼めるかい?」
ライが地図を広げて指した場所は、ファーティスの街からまっすぐ西に行った場所で、ファージュルム王国が国境とする大河を越えて少し進んだ辺りだ。
「おう!行けるぜ!でも、そこからの転移は翌日になりそうだぜ」
「十分だよ。今日は、転移先にある宿で一泊しよう」
「わーい!お泊りだー!」
「うおー!楽しそうだな!」
お泊りと聞くと、妙にテンションが上がるのはなぜだろうか。修学旅行での枕投げを思い出す。なぜだか、あれが異常に楽しいんだよな。ただ、テムとファムに枕投げを教えたらいけない気がして、胸の内に秘めておくことにした。
まずは街の外に出て、しばらく歩く。僕はジルに抱えられているが。人が周りにいなくなったら、転移をするらしい。
このとき、僕は不覚にも寝てしまった。歩くときの心地よい揺れが眠気を誘い、抗えなかったのだ。
目が覚めると、知らない天井があった。
「起きたか?」
あ、ジルだ。ぐるっと周りを見ると、どこかの部屋にいるようだ。もしかして、もう宿に着いたのだろうか。
「ライ達は隣の部屋にいる。あちこち連れ回したからな。疲れただろう」
そう言ってジルが僕を労ってくれる。だが、思い返すと今日はほとんどジルに抱えられていた。
申し訳ないとは思うが、一歳のわがままボディは、ときおり襲ってくる睡魔に抵抗できないのだ。
「夕食のときに呼びに来るとライが言っていた。それまではゆっくりしてくれ」
「あう」
ジルもライも、優しいね。こういう優しさを何気なく発揮できる大人に、僕はなりたい。そして願わくば、将来イケメンになれますように。そして、「待たせたな」とか、「おいで」とかいうセリフを格好良く言えるようになれますように。そして、そして、あ、ちょっと願望が多過ぎたかもしれない。
大事なのは、人に優しくできることだよね。願いはいっぱいあるけど、僕はやっぱり、そういうことを大切にしていきたい。
僕はライ達が呼びに来てくれるまで、ジルの言葉に甘えて、ベッドでごろごろしたり、本を読んだりして過ごした。
野菜と果物の栽培が盛んな国だけあって、種類が豊富で新鮮で、味も文句なしに美味しい。特に果物は、初めて目にするものもたくさんあって、目でも楽しめた。いわゆる南国フルーツというやつだろうか。
それに、さまざまな料理に果物が使われていて、郷土料理という感じがした。
果物をスパイスと煮詰めたものは、甘くてフルーティーなカレーのようで、パンにつけて食べると美味しい。フルーツの甘さはあるがさっぱりとした後味で、何よりスパイスの香りが食欲をそそるから、もう一口、もう一口と食がすすむ。
お肉を柑橘系の果物で煮た料理は、びっくりするくらい柔らかくて、お肉が口の中でほろほろとほどけた。そして爽やかな味と香りで飽きが来ない。
果物を練り込んだパウンドケーキもあった。果物自体が甘いから、生地は甘さ控えめだ。だから甘いのに軽くて、これもどんどん食べられそうなケーキだ。
「果物、美味しいねー!」
「だな!カラフルで楽しいしよ!」
「ふふ、そうだね。あ、今ウィル君が食べているのは、この国でしか食べられないと言われている果物だよ」
そうなのか!白い果肉がとても柔らかくて食べやすく、気に入ってたんだ。それにすっごく甘くて、でも爽やかな酸味もある。ずっと食べていたいと思うくらい美味しい。
「美味しいんだけどね、繊細で劣化が早いんだ。だから遠くへ運ぶのが難しくて、採れた場所で消費する感じだね」
なるほど。あ、マジックバッグなら、運べるのでは···?テム特製のものは時間経過がほとんどないから、劣化する前に届けられそうだ。僕がマジックバッグをちらりと見たのに気づいたライがくすっと笑う。
「ふふ、時間停止のマジックバッグなら、大丈夫だね。だからジルがたくさん買っていたよ。その果物、リーナさんの大好物なんだ」
なんと!ジル、やりおるな。リーナさんの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
「ふふ、リーナさん、ものすごーく喜ぶだろうね」
ライが笑顔で言う。本人はニヤッとした顔をしているつもりなのかもしれないが、もともとの造形のせいか、随分と爽やかな笑顔だ。
「あうあう」
だから僕がニヤッとしてみた。
「ブハハ!半目だな!」
···ちょっと失敗したようだ。
「お腹いっぱーい。美味しかったー!」
「だな!あんなに果物を食べたの、久しぶりだぜ!」
「ふふ、ダレン君のお店でたくさん買ったからね。まだしばらくはたくさん食べられるよ」
「わーい!ライ、ありがとー!」
「ライ、お前最強だな!」
最強はテムお気に入りの褒め言葉だ。よほど嬉しかったのだろう。僕も、食べられるかな?
「たくさん買ったから心配するな。それに、無くなったらまた買いに来ればいい」
どんだけ甘やかしてくれるんですか。もうね、激甘だね。でもその愛情が、すごく嬉しい。
「あいあと!」
僕の頭を撫でる大きな手のぬくもりが、僕に幸せと安心を与えてくれる。いつか僕も、与える側になれたらいいなと、そう思った。
「さて、お腹も満たしたことだし、移動を始めようか」
ライの言葉に、本来の目的を思い出す。リーナさんのいる国、ソルツァンテに行くんだ!
この後は、どんなルートで行くのだろうか。
「いったん街の外に出て、転移しようか。テム、転移先の場所はこの辺で頼めるかい?」
ライが地図を広げて指した場所は、ファーティスの街からまっすぐ西に行った場所で、ファージュルム王国が国境とする大河を越えて少し進んだ辺りだ。
「おう!行けるぜ!でも、そこからの転移は翌日になりそうだぜ」
「十分だよ。今日は、転移先にある宿で一泊しよう」
「わーい!お泊りだー!」
「うおー!楽しそうだな!」
お泊りと聞くと、妙にテンションが上がるのはなぜだろうか。修学旅行での枕投げを思い出す。なぜだか、あれが異常に楽しいんだよな。ただ、テムとファムに枕投げを教えたらいけない気がして、胸の内に秘めておくことにした。
まずは街の外に出て、しばらく歩く。僕はジルに抱えられているが。人が周りにいなくなったら、転移をするらしい。
このとき、僕は不覚にも寝てしまった。歩くときの心地よい揺れが眠気を誘い、抗えなかったのだ。
目が覚めると、知らない天井があった。
「起きたか?」
あ、ジルだ。ぐるっと周りを見ると、どこかの部屋にいるようだ。もしかして、もう宿に着いたのだろうか。
「ライ達は隣の部屋にいる。あちこち連れ回したからな。疲れただろう」
そう言ってジルが僕を労ってくれる。だが、思い返すと今日はほとんどジルに抱えられていた。
申し訳ないとは思うが、一歳のわがままボディは、ときおり襲ってくる睡魔に抵抗できないのだ。
「夕食のときに呼びに来るとライが言っていた。それまではゆっくりしてくれ」
「あう」
ジルもライも、優しいね。こういう優しさを何気なく発揮できる大人に、僕はなりたい。そして願わくば、将来イケメンになれますように。そして、「待たせたな」とか、「おいで」とかいうセリフを格好良く言えるようになれますように。そして、そして、あ、ちょっと願望が多過ぎたかもしれない。
大事なのは、人に優しくできることだよね。願いはいっぱいあるけど、僕はやっぱり、そういうことを大切にしていきたい。
僕はライ達が呼びに来てくれるまで、ジルの言葉に甘えて、ベッドでごろごろしたり、本を読んだりして過ごした。
53
お気に入りに追加
5,857
あなたにおすすめの小説
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
選ばれたのはケモナーでした
竹端景
ファンタジー
魔法やスキルが当たり前に使われる世界。その世界でも異質な才能は神と同格であった。
この世で一番目にするものはなんだろうか?文字?人?動物?いや、それらを構成している『円』と『線』に気づいている人はどのくらいいるだろうか。
円と線の神から、彼が管理する星へと転生することになった一つの魂。記憶はないが、知識と、神に匹敵する一つの号を掲げて、世界を一つの言葉に染め上げる。
『みんなまとめてフルモッフ』
これは、ケモナーな神(見た目棒人間)と知識とかなり天然な少年の物語。
神と同格なケモナーが色んな人と仲良く、やりたいことをやっていくお話。
※ほぼ毎日、更新しています。ちらりとのぞいてみてください。
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる