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最果ての森編

48. 爆発

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「あ、壁が綺麗だね。···ははは」

 元・アースウォールがガラスウォールと化した惨状に、気まずそうに笑うライ。まあ、僕も参加してたけど。というか、元凶は僕だ。

「よ、よし。新しく作り直そう!ガラスが飛び散ると危険だからね!」

 ライがぐっと拳を握って気合いを入れる。作り直すと言っても、一度ガラスウォールを取り除かないといけないと思うのだが、どうするのだろうか。

「ジル、あれをお願いできるかい?」

「···分かった」

 ライがジルに何かを頼んだ。「あれ」って、もしかしてあれか?

「···『黒炎』」

 ジルがぽつりと呟いた。···やっぱり!ゴブリンの山に放ったのと同じ魔法だ!
 ゴブリン達、灰すら残らなかったんだよな···。目の前で黒い炎に焼かれるガラスウォール達に、あの時に受けた衝撃を思い出す。今回も、あのゴブリン達のように跡形もなく消えてしまうのだろう。
 そう思っていたのだが、炎が消えても無傷で残っている壁がいくつもあった。あ、ガラスになっている時点で決して無傷ではないのだが、黒い炎に焼かれていないのだ。どうしたのだろうか。

「ふふ、ジルならそうするんじゃないかと思っていたよ」

 ライには、想定内だったようだ。

「ふふ、相変わらず親バカだね」

 その言葉にハッとして、残った壁をよく見る。こ、これって全部、僕が作ったアースウォールじゃない···?

「息子の作品だ。俺が消す訳ないだろ」

 な、なんてことだ!
 ジルは、僕が魔法の的として作り、実際に魔法を撃ちまくってどろどろにした土壁を、僕の作品だと言っているのだ。···なんだか色んな意味で恥ずかしい。
 こ、これは作品ではなくて、壁の残骸だよ···?消してくれて、いいんだよ?···というか、消してください。
 こんな物まで残そうとしてくれるジルの愛情に、むずがゆくなる。我が父親ながら、親バカだ。ま、まあ、めちゃくちゃ嬉しいんだけどね。

「ふふ、それじゃあとりあえず、空いたスペースを使おうか」

 これ以上頼んでも消してくれないと判断したのだろう。さすが、ライはジルのことをよく分かっている。
 僕達は、壁が消えた場所に新たなアースウォールを作ることにした。


「これくらいでいいかな。それじゃあ、風属性から始めようか」

 いくつかアースウォールを作ると、ライがそう言った。

「まずは見ててね。···『風弾ウィンドショット』」

 ライが魔法名を唱えた。次の瞬間、アースウォールからドスッと音が聞こえた。は、速い···!
 全然見えなかった。あ、風はもちろん不可視だから魔力感知をしていたのだけど、速すぎて目で追えないのだ。見えない上にめちゃくちゃ速いって、かなりの脅威なんじゃないか?

「ふふ、こんな感じだよ。今ので分かったと思うけど、風の魔法は目で捉えにくいんだ。でも破壊力が特別高いわけではないから、基本的にはスピードや手数を生かした戦い方になるよ」

 確かに、ウィンドショットが当たった壁はそんなに抉れていない。でも使い方次第で大きく化けそうな魔法だ。

「ウィンドショットのイメージとしては、空気の塊を発射する感じかな」

 ふむふむ。空気の塊か。さっきのライの魔法みたいに、超スピードで発射される空気の弾をイメージする。

「『風弾ういんどしょっと』」

 バシュンッと発射された弾が、ドスッと壁に当たる。おおお、速い!

「ふふ、上手だよ、ウィル君」

 ライがにこやかな笑顔を浮かべる。このときライがその笑顔の下で、『普通はこんなに速くないんだけどね···。私がつい強めに魔力を込めちゃったからなあ···。まあ、森では強いに越したことはないし。ふふ、どうせウィル君が改良するだろうしね。これくらいは誤差だと思っておかないと、これから先、やっていけないよね!』と思っていたことは、だいぶ後になってから知った。

 その後も何度かウィンドショットを繰り返していると、あることを閃いた。···空気って、圧縮できるよね?むしろ水よりぎゅっと体積減るよね?確か、圧縮した空気を動力に使う機械もあったはずだし···ぎゅっと圧力をかければ、エネルギーが増大しそうだ。
 そう考えて、ウォーターショットの時のように、ぎゅっと空気に圧力をかけるイメージをする。魔力でぎゅっと押し縮めて、壁に衝突したら圧力を開放すればいい。うん、そうしよう。

「···『風弾ういんどしょっと』!」

 念入りにイメージを固めて、魔法を放つ。次の瞬間、壁が爆ぜた。内側から。
 ぽかんと固まるライと僕。

「···ふふふ、ウィル君、何が起きたのかな?」

 硬直を解いたライが、顔を引つらせながら聞く。
 えーっと、僕もよく分かっていないのだけど···。あ、もしかして、圧力を開放したから?圧縮された弾は、壁にめり込み、壁の中で自然な空気圧に戻ろうとしたんだ。その際のエネルギーに耐えられず、壁が爆発したのだろう。
 僕の仮説を、地面に描いた絵とジェスチャーで説明する。

「ふふふ、なるほど···。ウィル君、なかなかエグい魔法を考えたね」

 そ、そんなつもりはなかったのだけど。

「不可視の攻撃で体内から爆発させられるなんて···。ふふ、魔物が気の毒になるよ」

 そ、そんなつもりじゃなかったんです!
 なんだか僕がものすごいデンジャラスな人みたいじゃないか。

「ふふ、冗談だよ。これは、固い魔物にはいいんじゃないかな?私も練習してみるよ」

 冗談だったのか。僕の純情を弄ばれた気分だ。

 これが有効な魔物もいるなら、腕を磨かねば。ということで、ライと二人で圧縮版ウィンドショットを練習した。
 ライは、とても楽しそうに壁を爆発させていた。···ストレスでもたまっていたのだろうか。
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