50 / 115
最果ての森編
48. 爆発
しおりを挟む
「あ、壁が綺麗だね。···ははは」
元・アースウォールがガラスウォールと化した惨状に、気まずそうに笑うライ。まあ、僕も参加してたけど。というか、元凶は僕だ。
「よ、よし。新しく作り直そう!ガラスが飛び散ると危険だからね!」
ライがぐっと拳を握って気合いを入れる。作り直すと言っても、一度ガラスウォールを取り除かないといけないと思うのだが、どうするのだろうか。
「ジル、あれをお願いできるかい?」
「···分かった」
ライがジルに何かを頼んだ。「あれ」って、もしかしてあれか?
「···『黒炎』」
ジルがぽつりと呟いた。···やっぱり!ゴブリンの山に放ったのと同じ魔法だ!
ゴブリン達、灰すら残らなかったんだよな···。目の前で黒い炎に焼かれるガラスウォール達に、あの時に受けた衝撃を思い出す。今回も、あのゴブリン達のように跡形もなく消えてしまうのだろう。
そう思っていたのだが、炎が消えても無傷で残っている壁がいくつもあった。あ、ガラスになっている時点で決して無傷ではないのだが、黒い炎に焼かれていないのだ。どうしたのだろうか。
「ふふ、ジルならそうするんじゃないかと思っていたよ」
ライには、想定内だったようだ。
「ふふ、相変わらず親バカだね」
その言葉にハッとして、残った壁をよく見る。こ、これって全部、僕が作ったアースウォールじゃない···?
「息子の作品だ。俺が消す訳ないだろ」
な、なんてことだ!
ジルは、僕が魔法の的として作り、実際に魔法を撃ちまくってどろどろにした土壁を、僕の作品だと言っているのだ。···なんだか色んな意味で恥ずかしい。
こ、これは作品ではなくて、壁の残骸だよ···?消してくれて、いいんだよ?···というか、消してください。
こんな物まで残そうとしてくれるジルの愛情に、むずがゆくなる。我が父親ながら、親バカだ。ま、まあ、めちゃくちゃ嬉しいんだけどね。
「ふふ、それじゃあとりあえず、空いたスペースを使おうか」
これ以上頼んでも消してくれないと判断したのだろう。さすが、ライはジルのことをよく分かっている。
僕達は、壁が消えた場所に新たなアースウォールを作ることにした。
「これくらいでいいかな。それじゃあ、風属性から始めようか」
いくつかアースウォールを作ると、ライがそう言った。
「まずは見ててね。···『風弾』」
ライが魔法名を唱えた。次の瞬間、アースウォールからドスッと音が聞こえた。は、速い···!
全然見えなかった。あ、風はもちろん不可視だから魔力感知をしていたのだけど、速すぎて目で追えないのだ。見えない上にめちゃくちゃ速いって、かなりの脅威なんじゃないか?
「ふふ、こんな感じだよ。今ので分かったと思うけど、風の魔法は目で捉えにくいんだ。でも破壊力が特別高いわけではないから、基本的にはスピードや手数を生かした戦い方になるよ」
確かに、ウィンドショットが当たった壁はそんなに抉れていない。でも使い方次第で大きく化けそうな魔法だ。
「ウィンドショットのイメージとしては、空気の塊を発射する感じかな」
ふむふむ。空気の塊か。さっきのライの魔法みたいに、超スピードで発射される空気の弾をイメージする。
「『風弾』」
バシュンッと発射された弾が、ドスッと壁に当たる。おおお、速い!
「ふふ、上手だよ、ウィル君」
ライがにこやかな笑顔を浮かべる。このときライがその笑顔の下で、『普通はこんなに速くないんだけどね···。私がつい強めに魔力を込めちゃったからなあ···。まあ、森では強いに越したことはないし。ふふ、どうせウィル君が改良するだろうしね。これくらいは誤差だと思っておかないと、これから先、やっていけないよね!』と思っていたことは、だいぶ後になってから知った。
その後も何度かウィンドショットを繰り返していると、あることを閃いた。···空気って、圧縮できるよね?むしろ水よりぎゅっと体積減るよね?確か、圧縮した空気を動力に使う機械もあったはずだし···ぎゅっと圧力をかければ、エネルギーが増大しそうだ。
そう考えて、ウォーターショットの時のように、ぎゅっと空気に圧力をかけるイメージをする。魔力でぎゅっと押し縮めて、壁に衝突したら圧力を開放すればいい。うん、そうしよう。
「···『風弾』!」
念入りにイメージを固めて、魔法を放つ。次の瞬間、壁が爆ぜた。内側から。
ぽかんと固まるライと僕。
「···ふふふ、ウィル君、何が起きたのかな?」
硬直を解いたライが、顔を引つらせながら聞く。
えーっと、僕もよく分かっていないのだけど···。あ、もしかして、圧力を開放したから?圧縮された弾は、壁にめり込み、壁の中で自然な空気圧に戻ろうとしたんだ。その際のエネルギーに耐えられず、壁が爆発したのだろう。
僕の仮説を、地面に描いた絵とジェスチャーで説明する。
「ふふふ、なるほど···。ウィル君、なかなかエグい魔法を考えたね」
そ、そんなつもりはなかったのだけど。
「不可視の攻撃で体内から爆発させられるなんて···。ふふ、魔物が気の毒になるよ」
そ、そんなつもりじゃなかったんです!
なんだか僕がものすごいデンジャラスな人みたいじゃないか。
「ふふ、冗談だよ。これは、固い魔物にはいいんじゃないかな?私も練習してみるよ」
冗談だったのか。僕の純情を弄ばれた気分だ。
これが有効な魔物もいるなら、腕を磨かねば。ということで、ライと二人で圧縮版ウィンドショットを練習した。
ライは、とても楽しそうに壁を爆発させていた。···ストレスでもたまっていたのだろうか。
元・アースウォールがガラスウォールと化した惨状に、気まずそうに笑うライ。まあ、僕も参加してたけど。というか、元凶は僕だ。
「よ、よし。新しく作り直そう!ガラスが飛び散ると危険だからね!」
ライがぐっと拳を握って気合いを入れる。作り直すと言っても、一度ガラスウォールを取り除かないといけないと思うのだが、どうするのだろうか。
「ジル、あれをお願いできるかい?」
「···分かった」
ライがジルに何かを頼んだ。「あれ」って、もしかしてあれか?
「···『黒炎』」
ジルがぽつりと呟いた。···やっぱり!ゴブリンの山に放ったのと同じ魔法だ!
ゴブリン達、灰すら残らなかったんだよな···。目の前で黒い炎に焼かれるガラスウォール達に、あの時に受けた衝撃を思い出す。今回も、あのゴブリン達のように跡形もなく消えてしまうのだろう。
そう思っていたのだが、炎が消えても無傷で残っている壁がいくつもあった。あ、ガラスになっている時点で決して無傷ではないのだが、黒い炎に焼かれていないのだ。どうしたのだろうか。
「ふふ、ジルならそうするんじゃないかと思っていたよ」
ライには、想定内だったようだ。
「ふふ、相変わらず親バカだね」
その言葉にハッとして、残った壁をよく見る。こ、これって全部、僕が作ったアースウォールじゃない···?
「息子の作品だ。俺が消す訳ないだろ」
な、なんてことだ!
ジルは、僕が魔法の的として作り、実際に魔法を撃ちまくってどろどろにした土壁を、僕の作品だと言っているのだ。···なんだか色んな意味で恥ずかしい。
こ、これは作品ではなくて、壁の残骸だよ···?消してくれて、いいんだよ?···というか、消してください。
こんな物まで残そうとしてくれるジルの愛情に、むずがゆくなる。我が父親ながら、親バカだ。ま、まあ、めちゃくちゃ嬉しいんだけどね。
「ふふ、それじゃあとりあえず、空いたスペースを使おうか」
これ以上頼んでも消してくれないと判断したのだろう。さすが、ライはジルのことをよく分かっている。
僕達は、壁が消えた場所に新たなアースウォールを作ることにした。
「これくらいでいいかな。それじゃあ、風属性から始めようか」
いくつかアースウォールを作ると、ライがそう言った。
「まずは見ててね。···『風弾』」
ライが魔法名を唱えた。次の瞬間、アースウォールからドスッと音が聞こえた。は、速い···!
全然見えなかった。あ、風はもちろん不可視だから魔力感知をしていたのだけど、速すぎて目で追えないのだ。見えない上にめちゃくちゃ速いって、かなりの脅威なんじゃないか?
「ふふ、こんな感じだよ。今ので分かったと思うけど、風の魔法は目で捉えにくいんだ。でも破壊力が特別高いわけではないから、基本的にはスピードや手数を生かした戦い方になるよ」
確かに、ウィンドショットが当たった壁はそんなに抉れていない。でも使い方次第で大きく化けそうな魔法だ。
「ウィンドショットのイメージとしては、空気の塊を発射する感じかな」
ふむふむ。空気の塊か。さっきのライの魔法みたいに、超スピードで発射される空気の弾をイメージする。
「『風弾』」
バシュンッと発射された弾が、ドスッと壁に当たる。おおお、速い!
「ふふ、上手だよ、ウィル君」
ライがにこやかな笑顔を浮かべる。このときライがその笑顔の下で、『普通はこんなに速くないんだけどね···。私がつい強めに魔力を込めちゃったからなあ···。まあ、森では強いに越したことはないし。ふふ、どうせウィル君が改良するだろうしね。これくらいは誤差だと思っておかないと、これから先、やっていけないよね!』と思っていたことは、だいぶ後になってから知った。
その後も何度かウィンドショットを繰り返していると、あることを閃いた。···空気って、圧縮できるよね?むしろ水よりぎゅっと体積減るよね?確か、圧縮した空気を動力に使う機械もあったはずだし···ぎゅっと圧力をかければ、エネルギーが増大しそうだ。
そう考えて、ウォーターショットの時のように、ぎゅっと空気に圧力をかけるイメージをする。魔力でぎゅっと押し縮めて、壁に衝突したら圧力を開放すればいい。うん、そうしよう。
「···『風弾』!」
念入りにイメージを固めて、魔法を放つ。次の瞬間、壁が爆ぜた。内側から。
ぽかんと固まるライと僕。
「···ふふふ、ウィル君、何が起きたのかな?」
硬直を解いたライが、顔を引つらせながら聞く。
えーっと、僕もよく分かっていないのだけど···。あ、もしかして、圧力を開放したから?圧縮された弾は、壁にめり込み、壁の中で自然な空気圧に戻ろうとしたんだ。その際のエネルギーに耐えられず、壁が爆発したのだろう。
僕の仮説を、地面に描いた絵とジェスチャーで説明する。
「ふふふ、なるほど···。ウィル君、なかなかエグい魔法を考えたね」
そ、そんなつもりはなかったのだけど。
「不可視の攻撃で体内から爆発させられるなんて···。ふふ、魔物が気の毒になるよ」
そ、そんなつもりじゃなかったんです!
なんだか僕がものすごいデンジャラスな人みたいじゃないか。
「ふふ、冗談だよ。これは、固い魔物にはいいんじゃないかな?私も練習してみるよ」
冗談だったのか。僕の純情を弄ばれた気分だ。
これが有効な魔物もいるなら、腕を磨かねば。ということで、ライと二人で圧縮版ウィンドショットを練習した。
ライは、とても楽しそうに壁を爆発させていた。···ストレスでもたまっていたのだろうか。
73
お気に入りに追加
5,851
あなたにおすすめの小説
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる