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最果ての森編

40. 普通の魔法

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「次の魔法ではね、新しい属性に挑戦してもらおうと思っているんだ」

 おお!どの属性なんだろう!

「ふふ、そんなにキラキラした目を向けられるとこちらも嬉しくなるよ。でも、新しい属性と言っても、アースショットを習得したウィル君には簡単かもしれないね」

 そう言うとライは、自分で作ったアースウォールに手を向け『水弾ウォーターショット』と唱えた。するとライの手から水がビュンッと飛び出して壁にバシャッと当たり、弾けた水が飛び散る。壁を見ると、ウォーターショットが当たったところが五センチほど抉れていた。

「おお~」

 魔法名から察するに、アースショットの水属性バージョンかな?

「こんな感じだよ。ショット系の魔法は、初級魔法に分類されていてね、一番最初に習得する攻撃魔法っていう認識だよ。どの属性にもあるから、人に教えやすく習いやすい魔法とも言えるかな」

 なるほど。どの属性に適性があっても、ショット系の魔法は習得できるということか。

「魔法名の通り、水の弾を出すイメージをすれば出来るはずだよ。基本的にはアースショットと変わらないんだけど···。ふふ、あれは改良しちゃったからね」

 おうふ。ここで影響が出てしまうか。アースショットはかなり自由にアレンジしてしまったからな。
 水でも同じようにできたらいいのだが、水は不定形という先入観があるためか、土の弾みたいに溝を作ったりするイメージがどうも難しい。うーん、ここは単純に魔力を込めて発射のスピードを上げるしかないのだろうか。

「『水弾うぉーちゃーしょっと』」

 僕も自分のアースウォールに向って魔法を放つ。バシャッと音がして、水の弾が壁に当たる。壁は、「え、今なにかした?」と言いたげにそのままの形を保っていた。

「ふ、普通のウォーターショットだ···!」

 普通の魔法で、ライに驚かれた。解せぬ。それだと、僕がいつも奇抜なことをしているみたいじゃないか。
 ···なんだか悔しいので、もっと魔力をぎゅっとしてみよう。あ、水もぎゅっとできるかな?高圧洗浄機みたいに圧力を高めたら、威力も高まりそうだ。よし、やってみよう。
 水の弾にぎゅっと圧力をかけるイメージをする。そしてスピードを上げるために、さらにぎゅーっと魔力を込める。

「『水弾うぉーちゃーしょっと』!」

 先ほどよりも速く弾が飛ぶ。バシュッと当たった部分を見ると、ほんの少しだが、土が削られていた。おお!これは成功なんじゃないだろうか。

「え、速くなった?威力も上がったよね?」

 ライが軽く混乱している。
 よし、もっと圧力をかけてみよう。もっと細く、強く、そして速く。

「んー!『水弾うぉーちゃーしょっと』!」

 肉眼で捉えるのが難しいほど速く飛んだ跡には、小さな穴が空いていた。穴の直径は小さいが、数センチほどの深さはありそうだ。

「え?え?」

 ライが混乱している。

「アースショットも速かったけどよ、さっきのはもっと速かったんじゃねーか?すげーなウィル!」

「あはは!速いねー!強いねー!」

 テムとファムがはしゃいでいる。この二人なら、これくらいすぐに出来るようになりそうだけどね。

「ぼくもやってみたーい!」

「オレもだぜ!」

 二人は早速練習を始めた。

「ふふ、ウィル君が普通の魔法にとどまる訳がないよね。うんうん、そうだよね」

 ライは混乱の状態異常から多少回復したようだ。

 その後も、かける圧力の大きさや込める魔力の量を変えて、ウォーターショットの練習をした。魔力をたくさん込めるほど威力は高くなるが、その分発動までに少し時間がかかるので、そこは練習を重ねて時間の短縮を図る必要がありそうだ。魔力操作も練習するようにしよう。

「ふふ、ウォーターショットもだいぶスムーズに出来るようになったね。あとは、思い通りの威力を出せるように練習するといいよ」

 あ、それもそうだ。
 魔法は習得してからも練習を積み重ねていくものなんだな。はっきりとしたゴールはないが、練習した分だけスキルアップしている感覚があって、どこまでも上がれるようでとても楽しい。なにより、みんなと一緒に練習できるのが嬉しい。
 正直、最初はテムとファムが一緒に練習すると危険なんじゃ···と思っていたが、今のところそんな様子はない。もしかして、ライのお説教が効いているのだろうか。僕としてはありがたいが、テムとファムはそれで楽しいのだろうか。
 
「あはは!テム、それなにー?」

「分かんねーのか?ゴブリンだぜ!」

「あはは!テム、下手っぴだねー!」

「んあ!?なんだとー!」

「あはははは!ゴブリンはねー、こうだよー!」

 テムがウォーターショットで壁を削り、ゴブリンを造っていたようだ。それを見てファムもウォーターショットで壁を削り出す。
 う、上手い···!ファム作の土壁ゴブリンは、躍動感があって今にも動き出しそうだ。

「す、すげーなファム···オレの完敗だぜ」

「あはは!ウィルくん、これ楽しいねー!」

「くそー!今度はもっと上手くやるぜ!なあウィル、なんかコツとかあんのか?教えてくれ!」

 僕に聞かれましても···。これはファムが凄いんだと思うよ?
 まあ、楽しんでくれているようで良かった。

「ふふ、魔法にこんな使い方があるなんてね。テムも面白いことを考えるよね」

 うん、実に平和な使い方だ。モデルがゴブリンじゃなければ、ずっと飾っておきたいくらいだ。

「今日の練習はここまでにしよう。そろそろ暗くなりそうだ」

 ジルの言葉で、辺りが少し暗くなっていることに気づいた。また夢中になって、時間を忘れていたようだ。

「あ、そうだね。ウィル君、気づかなくてごめんね。練習は大変じゃなかったかい?もう暗くなりそうだし、家に入ろうか」

 ライも夢中になるタイプのようだ。僕は楽しく練習していたし、もっとやりたいくらいだ。

「あいあと」

 ライに感謝を伝える。

「ふふ、私も楽しかったよ。また練習しようね」

 目を細めて僕の頭を撫でるライに、この人が魔法の先生で幸せだな、と思った。


「夕飯の準備をするから、少し待っててくれ」

 僕を抱えながらジルがみんなに言う。

「ぼくたちも食べていいのー?」

「ああ、もちろんだ」

「うおー!やったぜ!腹減ったぜ!」

「わーい!ぼくもお腹空いてたんだー!」

「ふふ、ありがとう、ジル」

 みんな、ジルの料理が好きだからね。もちろん僕も大好きだ。
 キッチンへ向かうジルを見送り、僕達はリビングでいつものように、夕食までの時間をわくわくしながら過ごした。




 名前:ウィル

 種族:人族ヒューマン
 年齢:1
 レベル:34

 スキル:成長力促進、言語理解、魔力操作、魔力感知
 魔法:土弾アースショットライト土壁アースウォール水弾ウォーターショット
 耐性:

 加護:リインの加護
 称号:異世界からの転生者、黒龍帝の愛息子、雷帝の愛弟子
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