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最果ての森編

37. 冒険者ギルド

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 目が覚めたとき、僕は自分の部屋にいた。またジルがベッドに寝かせてくれたのだろう。外はまだ明るいから、昨日ほどは寝ていないようだ。少しぼけーっとした後、ぐぐっと伸びをして起き上がる。

 あ、そうだ。ベッドから降りてみよう。いつも忘れてジルを待ってしまうが、今日の僕は一味違うのだ。クールな笑みを浮かべながら、ベッドから床を見下ろす。···ちょ、ちょっと高いかな。大人にはなんてことない高さなんだろうけど、僕は一歳児だからね。計画変更だ。ぴょんと飛び降りるつもりだったけど、ベッドにうつ伏せになる。そして縁にしがみつきながら、足の方からずるずると降りた。よし、ミッションコンプリートだ。

 軽やかな足取りで部屋を出ようとするが、ここであることに気がついた。ドアノブに、手が届かない···!台になりそうな物も見当たらず、肩を落とす。
 こうなったら、最終手段だ。

「『りゃいちょ』」

 魔法を使えば、ジルが気づいてくれるはずだ。結局いつもと同じになってしまったが、まあいいんだ。僕の成長はこれからなのだ。

「起きたか?···降りたのか」

 早速ジルが来てくれた。僕がベッドの上にいなかったことに驚いている。

「ウィルくん、起きたのー?」

 あ、ファムも来た。

「お、ウィル起きたかー!こっち来いよー!」

 リビングの方からテムの声が聞こえる。

「あれ?ジル、どうかしたのー?」

 ベッドとドアを見ながら考え込んでいるジルに、ファムが訊ねる。

「台があれば···いや、だが···」

 そう言いながら、僕を抱えるジル。

「···なるほどー。あはは!ジル、かわいいねー!」

 そんなジルを見て笑い出すファム。どうしたのだろうか。

「ウィルくん、台はもうしばらく我慢してあげてー?」

「あ、おいファム」

 あはは!と笑いながらファムはリビングの方へ跳ねて行った。
 二人とも、察知スキルは高いと思う。ジルは僕が何も言わなくても台が必要なことに気づいてくれた。ファムも、そんなジルを見て、台を我慢するように僕に言った。でもなんで我慢なんだ?

「あう?」

 疑問に思って、ジルを見る。あ、あれ?ちょっと顔が赤くない?
 ここで僕の頭にピカーンと来た。脳細胞が、ニューロンが、スパークを起こした。も、もしかして、ジルは僕を抱っこしたかったのでは···?台があれば、僕は自分で移動出来るから、葛藤していたのでは···?

「···」

 無言でリビングへ向かうジルを、じっと見つめる。じーっと凝視する。

「···ドアノブに届くようになるまで、いいだろ」

 僕の熱視線に耐えられなかったのか、ジルがぽつりと呟いた。
 も、もちろんですー!部屋でおとなしく待たせていただきます!!!

「あうー!」

 ああ、僕の父親が可愛すぎる。


「ふふ、ウィル君、おはよう」

「あはは、ウィルくんも分かったみたいだねー!」

「んあ?なにがだー、ファム?」

 ファムの意味深な発言に、テムが首を傾げる。

「あはは、かわいいねーって話だよー!」

「んん?ウィルのことか?ま、そうだな!」

 うまく濁したファムの言葉に、テムが納得していた。まあ、そういうことにしておこう。

 僕が寝ている間も、三人はここに残っていたようだ。起きてもみんながまだいてくれて、なんだか嬉しい。ジルが膝に乗せてくれて、僕も輪に入る。

「あ、そういえばあのオーガ、ウィル君が倒したからね、私がギルドに持って行くよ」

 そうライが話しかけてきた。ギルド?そういえばマンティコアの時も、ライが持って行くって言ってたな。

「ふふ、冒険者ギルドっていう組織があるんだ。この大陸中にいくつも支部があって、国をまたぐ大きな組織なんだよ。そしてそこに登録した人を、冒険者っていうんだ。ギルドはあちこちから仕事を受注して、それを冒険者達が受けるんだよ」

 冒険者ギルド!僕のライトノベル知識は役に立つのだろうか···!

「仕事の種類は、多岐に渡るよ。家の修理や荷物運びみたいな雑用もあるけど···採取、護衛、魔物の討伐が主な内容かな。どこからか受注したものじゃなくて、ギルドが直接冒険者にお願いする仕事もあって、そういうのはだいたい常設依頼が多いかな。安定した需要のある薬草の採取とか、ゴブリンみたいに繁殖力のある魔物の討伐とかね。あとは魔物が大幅に増えたときに緊急クエストとして討伐依頼が出ることもあるよ」

 ふむふむ!イメージ通りだ!

「今回みたいに仕事を受けてなくて魔物を倒した場合でも、買い取りはしてくれるんだ。だからマンティコアも買い取ってもらったんだよ。あのオーガも、そうしてもらうね」

 おお!ありがたい!

「ウィル君の年齢ではまだ登録はできないけど、いつかしてみる?冒険者としてのランクが上がったら、もちろん仕事の難易度も上がるけど、その分報酬もたくさんもらえるよ。冒険者として上を目指すのもありなんじゃないかな」

 ふおお、かっこいいぞ。···強くなれたら、いいんだけどね。僕にできるのだろうか。

「ふふ、そんな顔しないで。私達が教えるんだから、大丈夫だよ。というか、一歳でマンティコアを倒すなんて前代未聞なんだからね」

 そ、それはそうか。事故だけど。

「ふふ、それに他にも道はたくさんあるからね。ウィル君が将来どんな大人になるか、楽しみでたまらないよ」

 本当に楽しそうにライが言う。
 愛弟子の称号をもらったことだし、教えてもらえることは、何でも吸収したい。あとは僕の努力次第かな。才能は···リイン様がくれた成長力促進スキルに期待しよう。

 自分の将来について、むふふ、と妄想していると、ライがにこやかに提案してきた。

「ふふ、ウィル君。今日はまだ明るいし、ちょっと魔法の練習、してみない?」

 おお!したい!まだ使えるのは二つだし、室内に限るとライトだけだ。もうちょっとバリエーションが欲しいと思ってたんだ。

「お!魔法の練習か?オレもやるぜー!」

「ぼくもやりたーい!」

「ふふふ、そうだね、メニューは個別に違ってもいいからね」

 ライが遠くを見つめて笑う。ぼ、僕も、別メニューがいいな。

「それじゃあ、外に出ようか」

 ライに促されて、みんな外へ出る。もちろん僕はジルに抱えてもらった。
 どんな魔法を教えてもらえるのだろうか。わくわくする!
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