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最果ての森編
29. ライのお出かけ②
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書店で時間を潰したライは、ギルドへ戻る。中へ入ると、買い取り窓口にバッカスがいた。
「ライ、待たせたな。査定終わったぜ」
「あ、バッカス君。解体お疲れさま」
「おう。ほら、これが買取価格だ」
バッカスがライに硬貨の入った袋を渡す。
「へえ、結構いい金額になったんだね」
ライが袋を覗いて言う。
「ああ、解体手数料は引かせてもらったが、大きな個体で状態も良かったからな。それに久々の大物だ。高く買い取らせてもらったぜ」
「ふふ、ありがとう」
「また森にいる弟子が魔物を倒したら持って来てくれや」
ここで、ギルド内がザワつく。
「あの、ライナーが弟子?」
「確かにそう言ってたよな」
「弟子は今までいなかったよな?」
「ああ。俺、断られたって奴、知ってるぜ」
ギルド内のざわめきに、ライが困惑する。
「あちゃあ、知られちゃった。まだあの子のこと、公にする気はなかったんだけどね」
「そうか、そりゃすまんかったな。だがなぜだ?お前が気に入るやつなんだ。弟子だと言うのが恥ずかしいとか、そんなことはねえんだろ?」
「それはもちろんだよ。ふふ、あの子はすごく面白くて、可愛いんだ」
ライが思わず浮かべた笑顔に、ギルド内がさらにザワつく。
「あのライナーが気に入る子か···」
「森にいるって···まさか、最果ての森に住んでんのか?」
「その子、面白くて可愛いんだってよ。見てみたいよな」
「う、美しい···」
ちょっと怪しい奴もまだいたようだが、みんなライナーの弟子について興味津々のようだ。
「ふふ、それじゃあバッカス君、またね」
「おう」
ギルドを出ようとしたライは、冒険者達の、もっと聞きたい!という視線を受け、足を止める。
「私が最近魔法とか色々教えている子がいるんだけどね、少なくとも数年は森から出る予定はないんだ。だからそっとしておいてくれると嬉しいな」
「「「はい!」」」
キラキラオーラが眩しいライにお願いされたら、答えなんて一つしかない。みんな、考えるよりも先に返事をしていた。
ライが弟子をとったという話は、冒険者の間でまたたく間に広がった。
ギルドを出たライは、再び上機嫌で街を歩き、ある店に入った。ライが度々利用している服屋だ。
「おや、ライさん、いらっしゃい」
個人経営ながらも、確かな品質と品揃えが評判の店だ。店主の気さくな人柄も、またここで買おうと思える一因なのだろう。
「キャシーさん、久しぶりだね」
「久しぶりだねえ。今日はどんな服をお求めかい?」
「今日は、子どもの服を買いに来たんだ。一歳くらいの子なんだけど、あるかな?」
「おや!ライさん、ついに子どもができたのかい?」
キャシーのその言葉に、店内にいた女性客の間に緊張が走る。全員何気ない風を装いながらも、耳に全神経を集中させている。
「ふふ、私ではないよ。友人の子なんだ」
店内の緊張が緩む。
「そうかい。早とちりしちまったねえ。でもライさんも、子を持ってもおかしくないんじゃないかい?」
店内の空気が張り詰める。
「ふふ、私が子を持つなんて、千年早いよ」
それはハイエルフジョークなのだろうか。冗談か本音か判断がつかなかったキャシーは、とりあえず笑って流す。女性客は、骨すら残っていないかもしれない千年後の自分を想像し、肩を落とす。
「はは、そうかい。で、一歳くらいの子なんだね。この辺りに置いてるよ。肌着から外出着まで取り揃えているから、ここで一通り揃うはずだよ。性別はどっちなんだい?」
「男の子だよ。結構たくさんあるんだね。肌着と、普段着は必要だなあ。うーん、どんなのがいいんだろう?」
「ほお、男の子ねえ。肌着なら、これはどうだい?ファージュルム王国から取り寄せた生地を使ってるんだ。肌触りが良くって、吸湿性・通気性にも優れてるから、赤ちゃんの肌には最適だよ」
「へえ、ほんとだ。生地が柔らかくて気持ちいいね」
「赤ちゃんの肌は敏感だからねえ。こんな生地が適してるのさ。それと、こっちは普段着にどうだい?色や柄は子ども服としては落ち着いてるんだけどね、機能がいいんだ。吸湿性・通気性はもちろん、さらに汚れが付きにくいんだよ。赤ちゃんは服を汚しやすいからねえ。それを気にせず着せられるんだ」
「あの子には、柄物よりこれくらい落ち着いてた方がいいんじゃないかなあ。服を汚す子でもないと思うけど···まあ、汚れにくい方がいいよね」
キャシーとライの会話はその後も続く。女性客はそれを一言も聞き漏らすまいと、聞き耳をたてる。
結局ライは、勧められたものをほとんど買っていた。だがその顔に、悔いはない。むしろ嬉しそうだ。
「キャシーさん、今日もありがとう。いい買い物ができたよ」
「こちらこそ、たくさん買ってくれてありがとねえ。また仕入れとくから、是非おいで。子どもの成長は早いからねえ」
「ふふ、そうだね。また来るよ」
子どもの服を買ってご機嫌な様子のライに、店中の女性客が、結婚して···!と心の中で叫んだ。
顔が良く、背も高く、収入があって、さらに人柄も良い。ライは長年、世の女性にとって結婚したい男ナンバーワンなのだ。そう、長年。
ライが一歳の子どもの服を買ったという話は、女性達の間でまたたく間に広がった。
その話が冒険者達の間で広がる話と合わさったとき、様々な憶測が飛び交ったが、弟子と一歳の子どもをイコールで結びつける者は誰もいなかった。
いつの時代も女性を虜にし、男性の憧れでもある罪な男ライは、上機嫌で森へ入っていく。
「ふふ、ウィル君、気に入ってくれるといいな」
ライがウィルの投げライトに驚くまで、あと少し。
「ライ、待たせたな。査定終わったぜ」
「あ、バッカス君。解体お疲れさま」
「おう。ほら、これが買取価格だ」
バッカスがライに硬貨の入った袋を渡す。
「へえ、結構いい金額になったんだね」
ライが袋を覗いて言う。
「ああ、解体手数料は引かせてもらったが、大きな個体で状態も良かったからな。それに久々の大物だ。高く買い取らせてもらったぜ」
「ふふ、ありがとう」
「また森にいる弟子が魔物を倒したら持って来てくれや」
ここで、ギルド内がザワつく。
「あの、ライナーが弟子?」
「確かにそう言ってたよな」
「弟子は今までいなかったよな?」
「ああ。俺、断られたって奴、知ってるぜ」
ギルド内のざわめきに、ライが困惑する。
「あちゃあ、知られちゃった。まだあの子のこと、公にする気はなかったんだけどね」
「そうか、そりゃすまんかったな。だがなぜだ?お前が気に入るやつなんだ。弟子だと言うのが恥ずかしいとか、そんなことはねえんだろ?」
「それはもちろんだよ。ふふ、あの子はすごく面白くて、可愛いんだ」
ライが思わず浮かべた笑顔に、ギルド内がさらにザワつく。
「あのライナーが気に入る子か···」
「森にいるって···まさか、最果ての森に住んでんのか?」
「その子、面白くて可愛いんだってよ。見てみたいよな」
「う、美しい···」
ちょっと怪しい奴もまだいたようだが、みんなライナーの弟子について興味津々のようだ。
「ふふ、それじゃあバッカス君、またね」
「おう」
ギルドを出ようとしたライは、冒険者達の、もっと聞きたい!という視線を受け、足を止める。
「私が最近魔法とか色々教えている子がいるんだけどね、少なくとも数年は森から出る予定はないんだ。だからそっとしておいてくれると嬉しいな」
「「「はい!」」」
キラキラオーラが眩しいライにお願いされたら、答えなんて一つしかない。みんな、考えるよりも先に返事をしていた。
ライが弟子をとったという話は、冒険者の間でまたたく間に広がった。
ギルドを出たライは、再び上機嫌で街を歩き、ある店に入った。ライが度々利用している服屋だ。
「おや、ライさん、いらっしゃい」
個人経営ながらも、確かな品質と品揃えが評判の店だ。店主の気さくな人柄も、またここで買おうと思える一因なのだろう。
「キャシーさん、久しぶりだね」
「久しぶりだねえ。今日はどんな服をお求めかい?」
「今日は、子どもの服を買いに来たんだ。一歳くらいの子なんだけど、あるかな?」
「おや!ライさん、ついに子どもができたのかい?」
キャシーのその言葉に、店内にいた女性客の間に緊張が走る。全員何気ない風を装いながらも、耳に全神経を集中させている。
「ふふ、私ではないよ。友人の子なんだ」
店内の緊張が緩む。
「そうかい。早とちりしちまったねえ。でもライさんも、子を持ってもおかしくないんじゃないかい?」
店内の空気が張り詰める。
「ふふ、私が子を持つなんて、千年早いよ」
それはハイエルフジョークなのだろうか。冗談か本音か判断がつかなかったキャシーは、とりあえず笑って流す。女性客は、骨すら残っていないかもしれない千年後の自分を想像し、肩を落とす。
「はは、そうかい。で、一歳くらいの子なんだね。この辺りに置いてるよ。肌着から外出着まで取り揃えているから、ここで一通り揃うはずだよ。性別はどっちなんだい?」
「男の子だよ。結構たくさんあるんだね。肌着と、普段着は必要だなあ。うーん、どんなのがいいんだろう?」
「ほお、男の子ねえ。肌着なら、これはどうだい?ファージュルム王国から取り寄せた生地を使ってるんだ。肌触りが良くって、吸湿性・通気性にも優れてるから、赤ちゃんの肌には最適だよ」
「へえ、ほんとだ。生地が柔らかくて気持ちいいね」
「赤ちゃんの肌は敏感だからねえ。こんな生地が適してるのさ。それと、こっちは普段着にどうだい?色や柄は子ども服としては落ち着いてるんだけどね、機能がいいんだ。吸湿性・通気性はもちろん、さらに汚れが付きにくいんだよ。赤ちゃんは服を汚しやすいからねえ。それを気にせず着せられるんだ」
「あの子には、柄物よりこれくらい落ち着いてた方がいいんじゃないかなあ。服を汚す子でもないと思うけど···まあ、汚れにくい方がいいよね」
キャシーとライの会話はその後も続く。女性客はそれを一言も聞き漏らすまいと、聞き耳をたてる。
結局ライは、勧められたものをほとんど買っていた。だがその顔に、悔いはない。むしろ嬉しそうだ。
「キャシーさん、今日もありがとう。いい買い物ができたよ」
「こちらこそ、たくさん買ってくれてありがとねえ。また仕入れとくから、是非おいで。子どもの成長は早いからねえ」
「ふふ、そうだね。また来るよ」
子どもの服を買ってご機嫌な様子のライに、店中の女性客が、結婚して···!と心の中で叫んだ。
顔が良く、背も高く、収入があって、さらに人柄も良い。ライは長年、世の女性にとって結婚したい男ナンバーワンなのだ。そう、長年。
ライが一歳の子どもの服を買ったという話は、女性達の間でまたたく間に広がった。
その話が冒険者達の間で広がる話と合わさったとき、様々な憶測が飛び交ったが、弟子と一歳の子どもをイコールで結びつける者は誰もいなかった。
いつの時代も女性を虜にし、男性の憧れでもある罪な男ライは、上機嫌で森へ入っていく。
「ふふ、ウィル君、気に入ってくれるといいな」
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