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最果ての森編

7. 名付け

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「さあ、次は君の番だよ」

 ライはそう言うが、喋れないので自己紹介のしようがない。
 どうしたものかと思っていると、

「君、転生者だね?」

「あう!?」

 何故分かった。

「ごめんね、君のステータスを見させてもらったんだ」

 人のステータスが分かる魔法があるのか?それともスキル?

「私のスキルに『鑑定』というのがあってね、本来は物の名前や簡単な情報が分かるスキルなんだけど、鍛えるとステータスも覗けるようになるんだ」

 チートや!羨ましい!

「ライの鑑定は凄いからなー。かなり鍛えた『隠蔽』を持っていない限り、個人情報は丸裸だぜ」

「ふふ、そういうこと」

 パチンとウインクをするライ。
 歯軋りしたいくらいカッコイイ。

「『異世界からの転生者』って面白い称号だね」

 面白い?

「前世の記憶を持って生まれる者は稀にいるが、その記憶はこの世界での記憶だ」

「そうそう、だから面白いんだよ。それから、リイン様の加護もあるね。今まで色んな人のステータスを覗いてきたけど、この加護を目にしたのは初めてだよ。昔、持ってる人がいるって聞いたことならあるけど、それも一人だけだし」

 ほえー、そんなに珍しいのか?

「オレもそいつの話、聞いたことあるぜ!確か、すげー強かったんだよな。でも最初は弱かったって噂だぜ」

「ふふ、そんな話もあるね。君が持ってる『成長力促進』のスキルを、その人も持っていたのかもしれないね。リイン様の加護に付随したスキルかな」

 おお、やはりそうなのか。
 リイン様、ありがとうございます。

「リイン様って、運命を司る神様だよねー。転生者ってことは、前世で死んじゃって、魂だけになった君が、リイン様の目に留まったんだろうねー。よっぽど魂の存在が大きかったのかなあ?」

 魂の存在に大小があるのかと思ったが、あの白い空間で意識があったのは多分僕だけだ。

「これまでの君の反応を見る限り、君は前世の記憶を持ったまま前世とは異なるこの世界に転生し、そしてそのことをきちんと認識している」

「あう」

「それと、前世で君が何歳で亡くなったのかは知らないけど、おそらく十代後半といったところかな?幼い子供にしては理解力があるようだけど、大人といえるほどの落ち着きや老獪さは感じられない。どう?違うかい?」

「あうあう」

 違いません。
 ライに丸裸にされた気分だ。

「それで、ライ。こいつの名前は?」

 ジルが聞くと、ライは一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、いい笑顔でこう言い放った。

「それが無いんだよ。だからさ、ジル。君が名前を付けてあげたらどうかな?」

 え?ジルが僕の名前を付けるのか?
 ジルはそんな提案をされると思っていなかったのだろう。無表情で驚いている。

「・・・お前は、それでいいのか?」

 僕には前世の記憶があって、名前も覚えている。だがその名前は前世の僕のものだ。今は生まれ変わって新しい人生を歩もうとしている。だから、名前も新しくしていいんじゃないかと思う。
 それに何より、ジルに付けてもらえる。
 会って間もないが、彼の細やかな優しさや思いやりはすごく伝わっているし、一緒にいて安心する。頼っていいんだと、甘えていいんだと思わせてくれる。

 だからジルから名前を貰えるなら、嬉しい。
 そんな思いを込めて、

「あう!」

 返事をする。

「・・・そうか」

 ジルがどことなく嬉しそうに目を細めて僕の頭を撫でる。

 ほら。また甘えさせてくれる。

「・・・ウィル」

 ウィル?

「ウィルシュアード、古代語で『神からの光』という言葉からとった」

「あう!」

 ウィル!
 僕の名前!

あうあうーありがとう!!」

 嬉しすぎて視界がじわっと滲む。
 込められた意味に恥じないように生きていきたいと、強く思った。

「ふふ、ウィル君かあ。いい名前だね」

 ライが微笑む。
 この笑顔、既視感を感じる。

「ジルはさ、昨日ウィル君が森で寝ている所を保護したんだよね?」

「ああ」

「この子の近くに何か落ちてなかったかい?もしくは人がいた形跡とか」

「ないな」

「だよねえ。この辺りは森の最深部に近いから、人が入って来れるとは思えない。だから、リイン様が転生者であるウィル君をここに送り込んだと考えるのが一番自然なんだ」

 ふむ。そうなのか。
 出来れば一歳児ではなくもう少し大きい方が良かったと思うのは贅沢だろうか。

「ということはね、彼には親がいないと思うんだ」

 ライの笑みが深まる。

「だからさ、ジル。ウィル君の父親になってみない?」

 いつもは優しげに揺れるエメラルドが驚きに固まった。
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