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最果ての森編

1. 目覚め

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 白い世界。

 死した生物の魂が訪れるこの場所で、優斗の魂も他と同様、浮遊していた。

「ここは···」

 意識に霞がかかっているような感覚だが、優斗の魂は確かにこの場所を認識していた。

「僕は死んだのか···。もし生まれ変われるのなら、今度はいい父親に恵まれるといいな」

 ふわふわとした意識の中、死の直前の記憶から来世への希望を抱く。

「あら、この場所でここまで意識を保った魂は珍しいわね。良いわ。その願い、聞き届けましょう···」

 返答があったことに驚く。
 鈴の鳴るような可愛らしい声でありながらも、どこか包容力を感じさせる響きに、優斗は遠い記憶の母を思った。


 そして再び意識が途切れる。




「おい」

 ん?誰だろう。
 何だかすごく疲れてるんだ。

「おい」

 もう少し寝かせて欲しい。

「おい」

 ···寝かせてくれないのか。
 閉じようとする瞼を頑張って開ける。

 そこには恐ろしく整った顔の男がいた。
 二十代くらいだろうか。
 浅黒い肌の色に漆黒の髪。

「おい、大丈夫か?」

 感情を感じさせない表情。
 綺麗なエメラルドの瞳。

「おい、聞こえているのか?」

 心地よいバリトンボイス。

「おい、どこか悪いのか?」

 目を開けても何も喋らない僕に、心配そうにエメラルドグリーンが揺れる。

 背中の感触と視界に映る木々から判断すると、どうやら僕は地面に寝っ転がっているらしい。

「あえ?···あう!?」

 誰?と聞きたかったのにうまく喋れず、声も自分のと違って混乱した。

「声は出るか。良かった···」

 そんな僕の困惑を他所に、ほっとした様子の男。表情はあまり変わらないが、瞳の色が暖かい。

「お前、家は?」

「あう?」

「···」

 僕がまともに喋ることができないため、会話を諦めたようだ。
 とりあえず起き上がろうとするが、体に力が入らない。

「お前、かなり弱っているようだから、俺の家に連れて行く。回復するまでいて構わない」

 そう言って僕を腕に抱えると···って腕!?
 背はそんなに高くないとはいえ、高校男児を抱えるなんて体のサイズがおかしい。驚いてバタつくと、自分の手足が視界に入った。

 フニフニのマシュマロ。
 赤ん坊の手足だ。
 ···僕が赤ん坊?

 僕が自分の手足に衝撃を受けてフリーズしている間に、男は俺を抱え直し、飛んだ。

 ···飛んだ!?

 ぴょんぴょん跳ぶんじゃなくて、空を飛んでいる。飛翔している。
 意味が分からない。

「ここだ」

 僕が現実を理解出来ずに固まっているうちに、男の家に着いたらしい。


 深い深い森の中にぽつんと一軒家。
 家の周りは程よく拓けていて、日当たりが良い。畑もあるようだ。

あうああうーお邪魔しまーす

 男が扉を開けたので、言ってみた。

「俺はここで暮らしている。ちゃんと面倒を見るから、心配するな」

 この人優しすぎやしませんか?
 会ったばかりの人だけど、安心する空気感が心地よい。

 色々と衝撃を受けたが、やはり疲れているのか眠気がやってくる。

「しばらく寝ておけ。起きたら飯にしよう」

 その言葉を遠くに聞きながら眠りに落ちた。


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