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序章

最期の記憶

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 アルバイト先からほど近いコンビニのATM。

 パラララララ···という音に緊張が高まる。
 パカッと空いたそこには数十枚のお札。それを素早く掴んで封筒に入れ、カバンに突っ込む。
 つい辺りをキョロキョロと見てしまうのは、こんな大金を持つのに慣れていないせいだろう。

「やっと、やっと目標金額に到達した!」

 死んだ母さんの墓代。
 母さんは物心つく前に僕を置いて家を出て行ったから、あまり覚えていない。
 だから死んだと聞かされてもピンとこなかったが、僕を産んでくれたことには感謝しているから、せめてきちんとしたお墓くらいは立ててあげたい。

 酒やギャンブルにお金をつぎ込む父親には期待できないから、アルバイトをしてお金を稼ぐことにしたのだ。

 高校入学直後からアルバイトを始め、コツコツ貯めてきたお金だ。
 込み上げてくる様々な感情をなんとか抑え、コンビニを出る。

「よお、優斗。機嫌良さそうじゃないか」

 かけられた声にビクリとして思わずカバンを抱きしめる。

「さっきATMの前にいたよな?そのカバンに金が入ってんのか?大事に抱えてるもんなあ」

 ニヤけた赤ら顔で声をかけてきたのは僕の父親だ。

「また昼間から酒か···」

「うるせー!黙って金を寄越せ!」

 小声のつもりだったが聞こえていたらしい。

 いつもなら、いくらか渡していた。そうしないと喚いたり殴ってきたりして手に負えないのだ。

 だが今日は、今日だけはダメだ。

 カバンを抱え直して父親を睨む。
 
「渡せるお金はない」

 ニヤニヤしていた父親の形相が変わる。

「はあ?ふざけんなよ!金持ってんだろーが!つべこべ言わずに渡せよ!」

 手を伸ばし一歩踏み出した父親から逃げるように後ずさる。

「このお金は渡せない」

 更に数歩下がり、そのまま逃げようしたときクラクションが鳴り響いた。
 ハッと振り返ると甲高い急ブレーキの音を出しながら近づいてくるトラック。

 父親に気を取られ過ぎて、いつの間にか道路に出てしまっていたようだ。

 時間を引き延ばしたような感覚の中で、意識だけが動く。
 ああ、これはぶつかるな。

 次の瞬間、全身を衝撃が襲った。


 死の直前に見たのは、投げ出されたカバンと、さっきまで赤かった顔を真っ青にさせて手を伸ばす父親の顔だった。

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