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あれから数日、両親は相変わらず忙しいらしくバタバタしている
お父様もお母様もお仕事が大変らしい

前の人生の両親に比べれば神と言いたいくらいに良い両親なのだが……
レモンとしての記憶だけだと、寂しいと感じてしまう


「お嬢様?」

「え…」


アンの声に我にかえり、慌てて顔を上げる
読書をしていた最中に考え事をしていたようだった


「どうかしたの?」

「いえ、お嬢様が同じページをかれこれ1時間、開きっぱなしでしたので……心配になっただけです」

「あはは……ごめんなさい」


反省
アンをまじまじと見つめる

彼女はある日フラフラと私の家に来て私専属のメイドにしてほしいと面接と試験を受けたらしい

結果は見ての通り、完璧にこなしたらしく私の専属メイドになった


この辺では珍しい黒い髪に薄紫色のきれいな瞳

そういえば黒い髪はリナリアもだった

アンの故郷とリナリアの故郷は一緒なのだろうか?

私が穴が開くくらいアンを見つめたせいなのか、アンが咳払いをする


「あっ、ごめんなさい!」

「何か気になることでもありましたか?」

「あ、あのね、大したことじゃないのよ?」

「はい?」

「アンは、リアと同じ故郷なのかと思って」


その言葉にいつもお人形の様に顔を崩さないアンが少し目を見開いた

聞いてはいけないことでも聞いたのかな
そう考えて不安になってしまう


「リナリア様…あの方とは、そうですね。同じ故郷です」

「そうなんだ!」


思ったよりすんなりと答えてもらい、思い違いかと思い話題を深堀していく


「アンの故郷はどんなところ?」

「そうですね、こことあまり変わりませんよ」

「そうなの?」

「えぇ、どこも権力争いはありますから」


サラリと言うアンに私は固まってしまう
まだ幼い子供に何を言ってるんだ、アンは


「…私の故郷はここより、激しい権力争いがあるところでした」

「……アンは、なんでここに来たの?」

「……お嬢様のお世話をしたくて、ですよ」


なんだかうまく誤魔化された気がするけど、アンはお母様のように私の頭を撫でてくれる


「アン、アンのお母様はどんな人?」

「とてもキレイで、優しい方です」

「へー!髪の色とかはお母様譲りなの?」

「……えぇ、母にそっくりに育ちましたよ、私は」


紫色の瞳が私を見つめる
とても整った顔立ちで男がほっとくわけ無い美人さんなのにアンはなんで私のメイドをしてくれているのか…

でも、アンはメイドという関係ではあるけど、リアとは別のもう一人の味方だ


「ねぇねぇ、アン」

「今日は沢山お話されますね。どうしました?」

「何があっても私の味方でいてくれる?」

「当たり前です」


間髪入れずに答えてくれるアンに安心する

けれど


「間違ったことであれば正しますしね」


サラリと怖いことを言われてしまった……


「き、肝に銘じます」

「はい」


アンの笑顔を…初めてみた
とても子供のように無邪気な優しい笑顔を浮かべていた

私もつられて笑うのだった
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