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旅立ち

妹との別れ

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何不自由ない家に生まれた私
そんな私はある日利用価値をなくしてしまったらしい
それは胸元にできた切り傷
軽い擦り傷なら治るから良かった
胸元に斜めに剣に斬られたような切り傷ができてしまったのだ。

10歳の頃……妹、シンフォが盗賊のような輩に襲われてしまいそうになった時に庇った際にできた傷
後悔はしていないし、何より妹が無事だったことが嬉しかった
でも…
両親は嘆いた

私には利用価値がなくなってしまったと…
政略結婚にも使えない
ただのゴミだと言わんばかりに私を罵倒した
そして私は、16になった

妹は11歳になった。
幼かった妹は覚えていないのだろう、この傷を原因を
私の傷を馬鹿にした発言をするようになった

「お姉様、何時どこでそんな傷をつけてらしたの?はしたないわ」
「お姉様にはお似合いですわね」

なんて
醜いものを見るような目で私を見る

自分で言うのもなんだが容姿は整っている自信がある

大きな二重の目。その瞳は両親と少し違い青ベースに赤い色が混じっている。
髪も両親が金髪に対して私は黒髪だ。
でも髪自体は手入れしているだけあって、触り心地もいい。
長さは腰くらいまであるだろう

これでもお茶会などに呼ばれた時はみんなに手入れ方法などを聞かれたりしたものだ

妹は両親に似て金髪にゆるふわカール。肩までの髪の長さ。瞳の色は青。
私が異端に見えるのも仕方ない

だけれどこの容姿のおかげで今まで両親に優しくしてもらえてたのも事実

そして見た目に傷がついてしまったが故に
私は存在価値をなくしてしまった

あの日からずっと罵声を浴びせられ、暴力もたまに加わり、そろそろ限界と言うところで私はすべてを思い出した

まったく同じことを経験したことがあることを…

そう…私は過去に戻ってきたのだ
こんな苦しい過去に戻って今更何をするんだ、とも考えた

でもこれはいい機会だと私は思い
ある準備を始める

この家を出る準備だ

私が死ぬまであと9年。
死んだ原因までは忘れたがそれまではせめて幸せに過ごしたい

だから旅をしようと決めた
自由にこの世界を旅して自由に生きてみたい
そんな最後のわがままを叶えるべく両親に直談判すると
あっさりと許可をもらえた。

それだけ不要なもの、と言うことだろう。

自室で荷物をまとめているとドアを開ける音が聞こえる


「シンフォ、ノックをちゃんとしなさい」
「お姉様にノックなんていらないでしょう?何を気取ってるの?」
「お父様達に叱られても知らないわよ」
「あら、これからこの家は私だけのものになるのにお姉様を守る人なんて居るのかしら?」


クスクスと笑いながらシンフォは部屋に入ってくる
これももう終わりなんだな、と思うと少し寂しい気持ちになった


「シンフォ、貴方は立派に育ちなさい」
「お姉様、私がお姉様みたいにはしたない傷を作るとでも?笑わせないでくださいな」
「そうやって人をあざ笑うのもやめなさい。いい人に巡り会えませんよ」
「嫉妬ですか?自分は出会えないからと惨めですね」


これ以上会話をしても平行線のようだ。
私は、小さく息を吐き準備を続ける

あわよくば、シンフォの未来だけでも変えたかったのだが
この様子じゃ何を言っても無駄だろう。
妹の幸せまでは高望みなのかもしれない
準備を済ませ、私はシンフォに向き直る


「どうかしまして?」
「シンフォ、来なさい。」


私の言葉に首を傾げつつも近づくシンフォ。
こういう素直さは変わらない
私がシンフォを嫌いになれない理由でもある

そっとシンフォの首に青い石の入ったペンダントをかける


「これは…?」
「シンフォ、貴方には幸せになってほしいの。だからこれは私が祈りを込めた魔法石です」
「お姉様…魔法適性がおありで…?」
「両親にも言っていません。だからシンフォ、貴方にだけのお守りです」


優しく微笑むとシンフォは俯いてしまった
少し寂しさを感じるがこれでシンフォが少しでもいい方へ行ってくれるといい

そう願い私は、部屋を後にした

門まで出ると街まで馬車で連れてってくれるというので大人しく馬車へ乗った


服装も動きやすい服装に変えた。
髪も束ねてポニーテールの様にした

シンフォに魔石を渡すことができたし、シンフォだけでも結末が変わることを願うだけだ

馬車が動き出した時、シンフォが走って馬車へ駆け寄ってきた


「シンフォ?」
「お姉様っ…私、お姉様の事大好きですっ」


ポロポロ泣きながら私の目を見てそういったシンフォは昔のような幼い表情に戻っていた


「私もよ、シンフォ。お元気で」


それだけ告げ、シンフォから目をそらす
シンフォは泣きながら何かを叫んでいたが、もう馬車の音で聞こえない

外を見ると草木が過ぎ去る
いや、過ぎ去っているのは私なのだが…

ぼんやりと外を見ながらポツリとつぶやいた


「幸せ…だなぁ…」


壊れたはずの心。
なのに、目尻からは一筋の涙が流れた…
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