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女神編

11葬目 −謙虚な華−

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語り部の変わりは物語の変わり

日高の手記に紛れ込む

他の誰かのキオクの欠片

そんなことは気にもせず、日高は今日も館へ向かう

物語を聞きに……






「女神様!」

『日高さん、いらっしゃい』



いつもと変わらない
少し変わったのは日高の鼓動が僅かに早いことくらいだろうか?


「今日もオススメのお話お願いします!」

『そうですねぇ…』


こてっと首を傾げる女神。
そうだ、と口にすれば優しく微笑む


『日高さんはこういう華のお話がききたいとかないかしら?』


「そうですね、個人的にこれだけ華が居るのなら… 変わった病気を持った華とかもあったのでは?」

『…そうですね、ではこちらへどうぞ』


一瞬考えたようだが、女神は部屋へ案内した…


その部屋はいつもの暗い部屋とは違っていた



日高の目に飛び込んだのは先程までの薄暗い部屋とは違い、明るい部屋だった

カーテンの代わりにキラキラしたビーズのようなものがかかっている

そこにいるのは白い服を着た少女のようだった…

目を閉じ、ボロボロの本を抱きしめている




「彼女は……」


『病名はわかりませんが…生まれてから一度しか目を開けたことのない華です…』

「一度? 」


『では…話しましょうか』





コホン…と女神が場を仕切り直す






   
 
 
 
 
  
 
 
 

 
 

 







彼女は生まれたときから目を閉じていた
父や母も不思議に思い医者に問えば
彼女は病気らしい

「この子の目は」

「見えないでしょう。光に弱すぎる」

「私達の姿も」

「えぇ、見えません。それに目を開けてしまえば二度とは目を開けませんよ」


それは………死を意味していた





彼女は大きくなった
自分の目隠しは目を怪我しているからだと

そう習っていた

「とおさま、かあさま」

「なぁに?」

「私はいつになったら目の怪我治るのかなぁ」


彼女は理解してた
治らないことを……


「きっと、すぐ良くなるわ」


ぎゅっと母に抱きしめられる彼女
彼女は嬉しそうに微笑みました

母の存在を、家族の存在を実感できるのは体温のみ

彼女にはひとつだけ夢がありました

いつか、両親の顔を見る、という夢が…


そんなある日、彼女の体調が崩れ…

意識が朦朧とし始めます

彼女は悟りました、死を…

そして


両親に彼女は頼みました


「目隠しを外してください」






「だめよ、あなたが外すと…」

「二人の顔が見たいの…」


かなしげに微笑む彼女に、両親は頷き、そっと目隠しを外しました



「とおさま…かあさま…」


パチっと目を開くと優しい両親の顔…
彼女は嬉しそうに微笑み、そのまま………











                       
 
 

 
 
 
『と、言う話です』

女神の話が終わった途端、日高の瞳には涙が滲んだ


「…すみません……」

『大丈夫ですよ、さぁ、今日は閉めます、お帰りくださいな』

「あの」


『はい?』



「彼女は、なぜここに?」


『…彼女の願いです』


それだけ言うと女神は日高を追い出した



日高は少し悲しい
この話を記事にのせようとそう決めた





ころっ…….ときれいなビーズが日高の足元に落ちる

それを拾い、日高は会社にむかった……








エビネ…花言葉




謙虚、謙虚な恋



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