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女神編

9葬目−甘い甘い果実の華−

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ゆったりと時間が流れる館。
最近は夏だというのに、雨が降りやまない

今日は珍しく、館には誰もいない
ただ一人

日高を除いては…


日高はこの前の少女のことが気になっていた
自分の幼い頃の、知り合い
見た目も何もかも違ったが
自分の知ってる子だったイベリス

女神の言った罪、そして華、というワード

頭の整理のつかなかった日高は館に来ることをきめたのだ…



『あら、またいらしたの?』


日高の姿を見つければ女神は微笑む
女神の手には花瓶が…



「女神様!今日はお土産を持ってきました!」



自信満々に日高は紙袋を差し出す


『あら…?』

「女神様にです!女性には人気だと聞きまして!」


紙袋には苺が入っていた


『……奥で一緒に食べましょうか』

「え?いいんですか?」

『えぇ、ただし、内緒ですよ』


そう言って笑う女神はどこか幼い少女のようだった





……



苺の花だけが入った水槽の前で、日高と女神はお茶を始めていた


「これが苺の…花なんですね」

『好きなんです、私と……元館長が…』

「そうなんですね」

『えぇ…』


ぼんやりといちごを見つめ、女神は思い出す…


昔のことを









「××ちゃん」

『はぁい、なんですの?』



私が返事をすれば優しく微笑んでくれる---。


「今日はね、××ちゃんに苺をもらってきたんよ」


『もろうてええの?』

「当たり前よ、二人で食べるためにもらってきたんよ~」


二人して顔を見合わせ笑う
私の姉のような人。


「××ちゃん、甘くておいしーねぇ」

『本当、甘くて…こんなん久々に食べたわ』

「××ちゃん、嫁入りするかもしれへんもんなぁ、あんまり自由にできんもんねぇ」

『そんなことあらへんよ、私はまだまだ…』


笑っているとふすまが開き、お婆様が入ってきた


「---!またこんなとこへ!××の邪魔をしてはいけないとあれほど」

「はいはい、うちはもういくけん。またね××ちゃん」


いたずらっ子のようにひらひらと手を振り、出ていく---。


「××。あんた、自分の立場がわかってるんかい?」

『えぇ…わかっとります。これでも…』


綺麗な着物。
そっと立ち上がり、姿見で自身の姿を見る

私は…××

ここから出られるのは
あの人が…迎えに来て








誰かの呼ぶ声が聞こえる…





「さま」





「女神様!」




『あっ……』


いつの間にかぼーっとしていた女神はそっと目を伏せる


「どうしたんですか?」

『いえ…少し、思い出していただけです』



イチゴをひと粒つかみ、そっとかじる


『甘い…』


嬉しそうに微笑む女神に日高の胸が高鳴る


『昔から好きなの…とても大切な人が好きだったから…』


悲しげな声に、日高の胸が締め付けられる


「女神様…俺……俺っ…」


『日高さん…?』


そっと女神を抱きしめようと手を伸ばす日高……


『あら…』


女神の言葉に思いとどまる…


『雨、やみましたね
また、雨の日にお会いしましょう…』


いつもの笑みを浮かべ、女神は出口の方へ歩き出す


「…そうですね、今度も何か持ってきますよ、いいものがあれば」

『苺、とても美味しかったです、ありがとう御座いました』

「いえ…」




そっと館をあとにする日高


振り返れば電気の消えた暗い館が見え


女神の姿はもう、どこにもなかった
日高の口に残った甘さが、先ほどが夢じゃなかったと


そう、感じさせてくれた…………


                      






 
 
 
 
 












苺…幸福な家庭。

尊重と愛情











あなたは私を喜ばせる……
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