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それから数日、何事もなく日々は続いた
春は特に誰かと積極的に関わることがないようで、基本は一人で席についていた

何をしているのか見ても大体は本を読むか、スマホで本を読んでいた

友達と話しているのも見かけない

こいつ、友達いないのか…と不安になるくらい人との関りを見ない


「なあ、春」

「…」

「おーい、春ー」


返事がない…
少しイラっとしてしまう

ツン、と肩をつついてみる


「へ…?」


やっと気づいたのか、情けない声をあげ、俺のほうを振り返る


「たくみくん、呼んだ?」

「呼んだよ、てか、声もかけた」


不機嫌なのも隠さずそう言い放つと春は小さく縮こまってうつむいた


「ごめんね、全然気が付かなくて…」

「いや、いいんだけど」


予想以上に落ち込む春に申し訳なくなり、話を変えようとコホッとわざとらしい咳をして話をきりだす


「な、なぁ、お前ってさ誰かと遊ばねぇの?」

「うん」


真顔で即答されてしまった…


「人が苦手なんだ。僕」

「なのに俺とは話すの?」


率直な疑問だった
春はいつもの笑顔で俺を見た


「たくみくんは大好きだから」

「へ…」


勘違いしてしまいそうになる言葉に思考が止まる
胸がきゅうっとする

好き…好きって……


「え、おま、え??」

「どうしたの?」


キョトンとした表情で俺を見る

そうだ、普通に友人としてだよ
何動揺してんだ、俺は

変な妄想を忘れ、深呼吸する


「あー、いや、なんでもない」

「あ、僕に好かれるなんて迷惑だよね、ごめん」


申し訳なさそうに笑う春に少し苛立つ

俺が好きな笑顔はそれじゃない


「いや、俺もすきだから、迷惑じゃないよ」


俺の言葉に瞳をキラキラさせる春


「ほんと!?えへへ、嬉しいなぁ」

「お、おう」

「たくみくんは僕の2人目の友人だよ」


嬉しそうに笑う春に、何か反論する気も起きなくてそれでもいいか、と苦笑する


「2人目って、お前友達少ないんだな」

「まぁね、でも……」


そう言って少し悲しそうな表情で窓の外を見る春にドキッとした

いつもの子供っぽい表情じゃなくて大人びた色っぽい表情だった


「彼は、二度と会えないから」

「会えないって…」

「うん、会えない。離れてしまったから」


悲しげな表情もするんだな、なんて思うより先に羨ましいと思った

それはきっとそのにしか向けられない顔

俺の知らない顔が他にもあるんだろう
そう思うだけで胸が苦しくなった


「亡くなった、人なのか?」

「…ううん、いや、どうなんだろう…わからないんだ」


その言葉で余計に胸を痛めてしまう

くそ、こんな気持ちなんていらないんだって


「わかんないんならまた会えるって」

「だといいな」


何か言おう、そう思った瞬間に授業開始のチャイムが鳴る


「あ、始まるね」


そう言って前に向き直る春を止める言葉も思いつかず、その日の授業は何一つ頭に入らないのだった
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