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「たーくん。いいことあった?」

「んぁ!?」


いつものメンバーで昼飯を中庭で食ってると百合が変なことを言い出す

俺は慌てて百合を見る


「ねぇねぇ、たーくん。いいことあったでしょ」

「ねぇよ、んなの」

「あやしーなぁ」


百合はニヤニヤしながら俺の顔を見る

いいこと、なんて言われても……
そう考えたと同時に頭に浮かぶのはあいつの笑顔……


「ないない!!」


笑顔を振り払うように首をブンブンと横に振る


「余計にあやしーなぁ」

「まぁまぁ、そこまでにしてやりなよ、百合ちゃん」

「そうですよ。たくみの惚れっぽいのがまた出たんでしょう」

「なぁっ!伊野!誰が惚れっぽいって!?」


食って掛かると伊野は面倒くさそうにため息をつく


「じゃあ惚れたんじゃないとしたらなんですか?ほら、言ってみてください」

「ぐっ……」


言い返す言葉もなしに、歯を食いしばる

悔しいけど本当の事だしな…

でも悔しい!!


「まーた誰かに恋しちゃったの?百合の身にもなってよー偽装恋人、大変なんだから」

「ぅ……」

「なら俺が変わろうか?」

「いや、黒谷だと…女子からの視線が怖い」

「えぇ、そこ?」

「そこに決まってんだろ!」


黒谷の周りのファンクラブ?のような女子たちを思い出すだけで身震いする

男の俺でさえ少しでも黒谷に近づいてるとじーっと見られるのに…


「ところで…誰なの?恋しちゃった人」

「あー、いや…」


ズイッと顔を近づけてくる百合の迫力に負け、後ずさる
ガシッと黒谷に掴まれ逃げ場を失う


「く、黒谷!裏切り者!」

「俺も気になるからねぇ、たくみの好きな人」


ハートが付くくらい甘ったるい声で言われて胸焼けがする

うぇ、っと心の中で呟いて、どう答えるべきか悩んでいた


「たくみくーん!」


大きな声で呼ばれてドキッとする…
この声に振り向いちゃいけない
だって……絶対アイツだから


「これ、さっきのお礼なんだけどよかったら食べてよ!お友達さんたちもどうぞ!」

「わー、ありがとうございます!」


百合が嬉しそうに何かを受け取る


「えっと…サンキュ」


物はわからないが、礼を言うしかない
少し照れくさくて頬が赤くなる

くそ、うまくいかない…


「じゃあまたね、たくみくん」


嬉しそうな声を出して、春は走り去って行った


「たーくん、今の人?」

「なっ!!」


顔が一気に赤くなる
顔を隠して、小さく頷く

これじゃまるで恋する乙女じゃねぇかよ…クソ……


「意外だね、いつもみたいにガッシリした体型の男の子って感じの子かと思ったけど…」

「ねー、たーくんの好みに見えないなぁ…」

「そうでもないでしょう。彼、笑顔が綺麗でしたから、たくみの好みですね」


黒谷や百合の言葉に被せるように言われた伊野の言葉に更に顔が熱くなる


「うるせぇ…」


なんとか絞り出せたのはその言葉だけだった

結局、春がくれたのは購買で売ってあるお菓子の入った袋だった


これから外でもあいつと会う可能性が増えたのかと思うとメガネを割っとくべきだった、と後悔したのだった
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