上 下
5 / 7

4日目

しおりを挟む
まどろみの中夢を見た

何十年ぶりだろう
もしかしたら忘れている1年間にも見たことがあるかもしれないけれど

それはとても暖かい夢で
まだ見ていたくなるくらいで……


「ぃ……ぉ…………」


優しい声が聞こえる
もう少し、もう少しだけ


「お……ろ」


もう少しだけ寝かせてってば…


「起きろー。椛ー」

「んー………」

「起きないとキスするぞ」


慌てて目を開けて体を起こす
横を見ると笑いをこらえているカスミがいた


「オハヨーゴザイマス」


思ったより距離も近くてつい棒読みになってしまった
変に思われなかっただろうか…


「俺のこと、わかる?」

「カスミセンセー」

「あれ、覚えてた?」


その言葉に少しカチンとする
いくら私が記憶が飛ぶと言っても失礼だと思う

少しムッとしつつも、自分の記憶が眠る前からほぼ変化がないとこに気がついた

空白の時間が殆ど無い


「なんで……」


動揺している私を見て、カスミは真剣な眼差しを私に向けてきた


「椛」

「なんですか?」


カスミの顔がさっきより真面目になり、その瞳で私をじっと見つめてくる
なんだかいたたまれなくて目をそらす


「椛がさ、俺と一緒にいる間は記憶がほとんど無くならないって言ったら、信じる?」


カスミの言葉に私は茫然としてしまう
この人は一体何を言っているのだろう
カスミがいるときは記憶をほとんどなくさない?

そんなことがあるわけがない


「馬鹿な事言わないでください!!」

「ちょ、椛…」


頭にきたせいで、カスミの声は私にはもう届いていなかった


「先生のそばに居るだけでずっと悩んできたことがどうにかなるなら、私の病気はとっくに治ってます!!」


イラついているせいか口調もきつくなってしまう
こんなのただの八つ当たりだ

わかってる

でもこの人はなんでも受け入れてくれそうで……

いつの間にか閉じていた目を開け、カスミを見ると、優しいけどどこか寂しそうな眼をして私を見ていた


「そうだよな。ごめん」

その言葉に胸が痛くなる


無くした記憶の一年弱……
カスミの存在が私の中でどんな存在だったのかなんて知らないけど

私の中で大切な存在だったということは痛むこの胸が教えてくれた



でも

私の中の何かがこの人を拒絶する……


「先生なんて大っ嫌いです」

「うん。知ってる」


カスミの言葉に、動揺してしまう


「な……んで」

「なんでって……」


クスっと笑ってカスミは私の頭をなでた

「変わんないな。おまえ」

「意味わかりません」

「それでいいよ。今は」

わからないけど、もう少し……この人に甘えてみたいと思ってしまった
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

処理中です...