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57、距離

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不機嫌なお母様と困った顔のお父様について挨拶回りを行いました。

挨拶している間ならお母様は笑顔になられてお父様と私は安心して笑顔になります。

どの方もデビューしたばかりの私を可愛がって下さいますが、お母様はそんな皆様に否定的であまり良くは話してくれませんでした。

時折、仲の良いお姉様方が誘いに来てくださって、今日はお母様達と過ごすように言われていると伝えると残念そうではありますが、すんなり離れていきます。

遠くにアンバー様を見つけましたが、迎賓館に招かれている侯爵令嬢のロイス様と仲良く腕を組んで過ごされています。

アンバー様に気づいてほしくてじっと見つめますが、先に気づいてたロイス様にきつく睨まれアンバー様を連れて遠くに行ってしまいました。

お母様達は、夫婦での挨拶を終えてそれぞれの社交に勤しみます。

その間もお母様に黙ってついていました。

機嫌がコロコロ変わるお母様と大勢の大人に囲まれ、私は黙って微笑んでいただけなのに疲れました。

喉が乾いて飲み物を選びに行きたいとお願いするとすんなり解放され、果実水を取りに行きました。

お母様からゆっくり選んできなさいと言われ、周りの方も他の方と楽しんできなさいと送り出されたので、大人同士で過ごしたいと思われたのだと察しました。


ドリンクサーバーのあるバルコニーから中庭や室内に微かに見える休憩用の椅子を眺めますが、どこも人が多く、逆に見える範囲に親しい方は見当たらずどうしようかと思案します。

給仕から受け取った果実水をひとくち飲み、向かう宛のなさに心細くなりました。

予想外の家族からの叱責に思いの外、疲れて何もする気が起きません。

朝はあんなに楽しみだったのにとため息を吐きます。

側の給仕に、飲みながら花を眺める場所はないか尋ねると中庭を案内してくれました。

いくつかのテーブルと椅子が設置されたスペースへ誘導し、空いている一つの席を勧められます。

それだけで十分だと思ったのに、気を利かせて食べ物を一緒に勧めてくれましたが、お腹は空いていないので断りました。

「あの、でも王宮のお菓子は素晴らしいのでしょう?お腹が空いたら食べるからおすすめだけ教えて。」

本当は食べたいのです。

でも、今日はいつも以上にコルセットがぎゅうぎゅうに絞められて残念ながらあまり食欲が湧きません。

給仕は察したようでニコニコ笑い、残して構わないのでと小さくカットされた数種類のケーキと繊細な花のチョコレートを用意してくれました。

ありがとうと給仕にお礼を言う自分の顔に、今日初めて心から笑えたと感じました。
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