上 下
67 / 86
第五章:王都

5※マックス

しおりを挟む
今日は王宮主催のパーティーだ。

ジネウラ様は忙しいのにとぷりぷりしながら支度をされる。

部屋を追い出された旦那様と廊下でお話しする。

「旦那様、今日もやりすぎのようですね。」

「そのようだ。」

そう言いつつ、喜色満面の笑みだ。

「でもジネウラの支度は俺も手伝いたい。」

困った顔にちょっと手伝いたい気持ちになる。

「うまくいくか分かりませんが。ちょっとそこにしゃがんでください。…頭を下げて、そうそう。ちょっとお待ちください。」

扉を叩いてメイドが隙間を開ける。

「ジネウラ様、廊下で旦那様が落ち込んでらっしゃいますよ。」

メイドも旦那様を見つけ驚いて中に戻る。

しばらくすると、ガウンを羽織ったジネウラ様が扉に顔を出して、しゃがむ旦那様に目を見開く。

「だ、旦那様。私、怒ってません。落ち込まないで。入っていいから。」

隙間から手を出して袖を引く

「困って拗ねただけです。もう側にいて。」

「いていいのか?」

旦那様が顔をあげて見つめると、困った顔でこくこくと頷く。

「支度、見てていいから。そんなに見たかったんですか。」

「ありがとう。ジニー。可愛いジニーが綺麗になるのを見るのが好きなんだ。」

「も、もう入って。ジジ。」

入る際、俺に手を振ってにぎにぎと手の動きを見せる。

とりあえず感謝されたのだろう。

あとは旦那様が口を滑らせなければいい。

ついでに俺まで叱られる。

いや、そうでもないか。

仲直りのきっかけだ。

またベッドに連れ込まない限りは。

姉もいるし。

大丈夫なはず。

時間がたつと心配になり様子を見に行く。

部屋の中でメイド達と旦那様の喜ぶ話し声が聞こえた。

全員で可愛い、綺麗だとはしゃいでる。

仲良さそうでよかった。

俺達も支度がある。

着替えて3人でお互いの姿を確認する。

ビスはムスタファの民族衣装の色違いを着ている。

大きな袖とゆったりと流れる裾だ。

足元の裾をひっくり返す。

「すけべ。ムスタファ、助けて。」

ムスタファも察して手伝って覗きに来る。

「これ外せ。」

太ももやふくらはぎにベルトで巻いた暗器をどんどんほどく。

「ビス、暗器の持ち込みはやめてください。」

袖をひっくり返して体を触ってひとつずつ取り上げる。

「せっかく着たのに崩れる。やめてよ。」

「直してやる。安心しろ。」

「ズボンを腰ひもで止めて、あとは上から羽織るか被るタイプじゃないですか。動きやすくて戦闘向きな感じですね、て、…この人、服にも仕込んでますよ。ムスタファ、細かく見てください。」

「めんどくせぇなぁ。」
 
縦のラインに仕込んである針や縫い目の隙間の金物類を見つける。

「これなら。」

指輪を見せて仕込みの刃が飛び出す。

「やめとけ。見つかると面倒だ。すべて置いていけ。どうせお前の体が凶器だ。」
  
大人しくビスも外し始めた。

テーブルにガチャンガチャンと見つけた金物を置く。

「ムスタファもマックスも同じだよ。全身凶器じゃん。」

「軍や正規兵仕込みと違う。お前の体術はかなり曲者だ。初見で勝てる奴はいねーよ。」

「分からないでしょ。暗器がないと不安。」

「なくてもその辺のもの使うんだろ。」

「まあね。この、髪の飾り紐から何もかも。でも、愛用品とは違うよ。」

「戦いに行くんじゃないんですからいりませんよ。」

「戦いでしょ。」

「女のだな。刃物は役に立たんぞ。口だ。」

「怖いなぁ。どうやって守るんだよ。」

肩をすくめる。

確かに恐ろしい。

目に見えない、慣れない攻撃が出てくるのだ。

拳や武器の方が分かりやすい。

「ジネウラ様が仰ったろ。男には不利だって。とにかく女の愛でられ勝負だ。旦那様だけじゃないところをしっかりアピールするぞ。」

「大旦那様も会場で待ってらっしゃいます。事情は伝えてるのでご存じです。会場で来賓の対応が忙しくあまりご一緒出来ないそうですが、顔を出すそうです。リトグリ公爵家1番の宝物を見せびらかしてやりましょう。」

これでもかと溺愛してやると皆が意気込んでいる。

屋敷のメイド達に可愛がられまくって輝くジネウラ様は旦那様と姉をつれて馬車に。

俺達は馬に乗って王宮へ向かう。

「ジネウラ様が綺麗だったね。」

「ムスタファ以外にもそう思うんですか。」

ムスタファがビスのツボなのではないのか。

「ジネウラ様はムスタファと似てるよ。生きるエネルギーが濃い。それがすごく濃厚で綺麗。」

よくわからない。

ビスには何が見えているんだ。

「それ、分かる人いるんですか?」

「旦那様は納得していたよ。」

「…分かるのか。似てるからか。」

「ムスタファも分からないですよね。俺もです。」

会場前では大旦那様が待っていた。

「お父様、お仕事を抜けてらしたのね。ご心配おかけします。」

「ジニー、ジネウラ。私の娘。愛する妻の形見。」

手を握り、こめかみにキスをされた。

「リトグリ公爵、申し訳ありません。あの場で私は役立たずでした。」

「お父様、旦那様は、」

「よい。お前の大事な婿殿だ。父親の私は悲しませてばかりだった。」

領地での相思相愛ぶりは大旦那様の耳に入っている。

今回の王都の屋敷もわざわざ二人で過ごすようにと他の屋敷へ移られた。

二人の時間を奪いたくないと。

大旦那様と大奥様のご夫婦として過ごしたお時間は、2年ほどだったと聞く。

今も大奥様の絵が大旦那様の寝室に飾られてるそうだ。

「二人仲良く。時間は足らないからな。」

「もっとお母様と過ごしたかった?」

「もちろん。最後はお前を託された。私は幸せ者だよ。ジネウラ、婿殿と幸せにおなり。」

「私はお父様にも愛されてますのね。」

「そうだよ。可愛い娘。今日は一段と輝いてる。キスをさせておくれ。」

ジネウラ様が顔を寄せると額、頬に。

お返しにジネウラ様も頬に返した。
 
「お父様、大好き。私、子供で何も分かってなかった。」

「私が不出来な父親だからだよ。さあ、婿殿のもとへ。」

大旦那様は旦那様へ、愛娘を託す。

紹介の声とともに入場し、お二人は会場の視線を一身に浴びる。

リトグリ公爵家の宝物。

お二人のお姿は会場に波紋を広げ徐々に静けさを増す。

遠くからも集まる視線の熱が太く大きくなる。

大旦那様も私達もその引き立て役。

お二人の後ろに付き従い、ムスタファもビスも悠々と尊大に見えそうな優雅さで振る舞う。

俺達の心には我らがお仕えする公爵家の対の宝物への思いが溢れてる。

入場の階段を降りて、お二人のまわりには周囲がおののくように下がり自然と頭を垂れる者までいる。

音楽は鳴り響き、喧騒の静まった会場では息の飲む音まで聞こえてくる。

旦那様にエスコートされ中央を遮るもののいない道が開き、奥へと進む。

背後から聞こえる次の来賓の入場で少しずつ場の空気が戻り始めた。

「掴みは良さそうだが。」

「旦那様の変身も一役買ってますね。」

「ああ、そうだな。」 

ムスタファと小声で会話をする。

俺達は別邸にいたので本邸で過ごしていた当初の旦那様を詳しく知らない。

遠目からも分かる白く背が高く太ましかった印象しかない。

大男に見慣れた俺でもあの外見に驚いた。

1度、ジネウラ様に初見で驚かなかったかと尋ねたら、大きいくせに背中や肩を丸めて小さくなろうとするのが可愛いかったそうだ。

最終的に外見よりも気遣いが出来たから良しと思ったらしい。

ジネウラ様の回りにいないタイプが新鮮だったのだろう。

若いのは筋肉だるまの俺様ばかりだから。

それに、大人しい様子は先代に似てる。

ババ様にわーわー言われても、いつも笑顔で穏やかにわかったと答える人柄だった。

俺も姉やジネウラ様の前では大人しいが、ネズミに会えば多少は本性を出す。

本性は尊大なタイプだ。

まさか、旦那様があそこまで豹変するタイプとは思わなかったが。

大人しい大きいだけの牛か羊に見えたのに、あれはヒグマか虎だ。

並外れた回復力、大食らいで性欲まで強い。

王家の血筋だ。

詳しく王家の歴史を調べてみたら、祖先のエピソードと合致する。

戦いの神とされる王家の祖。

歴戦の戦いで一夜にして矢傷が治っただの毒が効かなかったとか、武勇を武器に領土を広げただの子沢山だとか。

代々、そういう者が歴史にあらわれる。

そういう家系なのだろう。

ジネウラ様も、子沢山の恩恵で特異体質のお子様に溢れるかもと思うとあの二人の融合だ。

どんな子供が産まれるやら。

絶対、女性だけの手に終えない。

俺達に子守りが回ってくる。

それも楽しみだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

転生からの魔法失敗で、1000年後に転移かつ獣人逆ハーレムは盛りすぎだと思います!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 異世界転生をするものの、物語の様に分かりやすい活躍もなく、のんびりとスローライフを楽しんでいた主人公・マレーゼ。しかしある日、転移魔法を失敗してしまい、見知らぬ土地へと飛ばされてしまう。  全く知らない土地に慌てる彼女だったが、そこはかつて転生後に生きていた時代から1000年も後の世界であり、さらには自身が生きていた頃の文明は既に滅んでいるということを知る。  そして、実は転移魔法だけではなく、1000年後の世界で『嫁』として召喚された事実が判明し、召喚した相手たちと婚姻関係を結ぶこととなる。  人懐っこく明るい蛇獣人に、かつての文明に入れ込む兎獣人、なかなか心を開いてくれない狐獣人、そして本物の狼のような狼獣人。この時代では『モテない』と言われているらしい四人組は、マレーゼからしたらとてつもない美形たちだった。  1000年前に戻れないことを諦めつつも、1000年後のこの時代で新たに生きることを決めるマレーゼ。  異世界転生&転移に巻き込まれたマレーゼが、1000年後の世界でスローライフを送ります! 【この作品は逆ハーレムものとなっております。最終的に一人に絞られるのではなく、四人同時に結ばれますのでご注意ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

私は貴方から逃げたかっただけ

jun
恋愛
電話の向こうから聞こえた声は、あの人の声だった。 その人に子供が出来たなら、私は邪魔なんだろうな…。 一人で出産し、一人で息子を育てた麻美。 麻美を探し続け、やっと見つけた雅彦。 会えなかった年月は、麻美を強くした。 麻美を失った雅彦は自暴自棄になっていた。

追放されましたが、私は幸せなのでご心配なく。

cyaru
恋愛
マルスグレット王国には3人の側妃がいる。 ただし、妃と言っても世継ぎを望まれてではなく国政が滞ることがないように執務や政務をするために召し上げられた職業妃。 その側妃の1人だったウェルシェスは追放の刑に処された。 理由は隣国レブレス王国の怒りを買ってしまった事。 しかし、レブレス王国の使者を怒らせたのはカーティスの愛人ライラ。 ライラは平民でただ寵愛を受けるだけ。王妃は追い出すことが出来たけれど側妃にカーティスを取られるのでは?と疑心暗鬼になり3人の側妃を敵視していた。 ライラの失態の責任は、その場にいたウェルシェスが責任を取らされてしまった。 「あの人にも幸せになる権利はあるわ」 ライラの一言でライラに傾倒しているカーティスから王都追放を命じられてしまった。 レブレス王国とは逆にある隣国ハネース王国の伯爵家に嫁いだ叔母の元に身を寄せようと馬車に揺られていたウェルシェスだったが、辺鄙な田舎の村で馬車の車軸が折れてしまった。 直すにも技師もおらず途方に暮れていると声を掛けてくれた男性がいた。 タビュレン子爵家の当主で、丁度唯一の農産物が収穫時期で出向いて来ていたベールジアン・タビュレンだった。 馬車を修理してもらう間、領地の屋敷に招かれたウェルシェスはベールジアンから相談を受ける。 「収穫量が思ったように伸びなくて」 もしかしたら力になれるかも知れないと恩返しのつもりで領地の収穫量倍増計画を立てるのだが、気が付けばベールジアンからの熱い視線が…。 ★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。 ★11月9日投稿開始、完結は11月11日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

処理中です...