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「うぉ、い、てぇ」

親父の手当てにダグが呟くとアリオンは俺をちらっと一瞥して眼差しに非難が混じる。

続いて医務室に駆け込んだのは青筋立てた団長。

「トロンソ、カナン様がお呼びだ。医務の管理不届きについて」

「手当てが終わってからです。こいつにはもう頼めませんから」

団長と親父にぎろっときつく睨まれて頭を下げた。

今回の悋気の原因は俺だ。

「団長、俺もですか?」

謝罪に。

「来るな。説教も兼ねてる」

ダグのこの様子なら久々のドクターストップだ。

団長と親父で叱る予定なんだろ。

了承に首を頷かせた。

「お前だけじゃない。お前らの部下の一人もアホだ」

何のことかと団長を見るとこめかみを揉みながら渋面。

「新入りに岡惚れのアホがいたろ。あいつがヤらせてくれと直談判に来たぞ。ダグがいいと言ったと言うし、ありゃなんだ?」

「はああ?」

親父の呆れた声を聞きながら顔をしかめた。

あのアホが。

それで余計にカナン様を怒らせたわけか。

「ロニーさん、何かご存じですね」

「ぐお、お」

顔色ひとつでバレた。

がっと後ろから冷えた声音のアリオンに首を捕まれ背面に引きずられた。

仰け反って苦しむ俺に団長も顔を寄せて睨む。

秘密にすることでもないので報告。

ダグの肉食具合も。

別に他意はない。

事実の報連相は大事。

そのくらいの感覚だったんだけどアリオンが豹変した。

「奥をお借りします」

「え?何?アリィ?」

鬼のような殺気をばら蒔いて治療の済んだダグを横抱きに運ぶと仮眠室に鍵をかけてとじ込もった。

「ダグ、どういことだ?」

「え、いや、アリィ?え?」

「納得出来ない。本気で許せない。たった1週間の不在で私以外に触るなどどういうつもりかと聞いている」

「ご、ごめん、アリィ」

「相手が若い男だからか?10も離れた年上の私に飽きたのか?他に遊びたくなったとか?それを許すと思ったか?何か言い訳してみろっ」

「わわっ、ご、ごめんってばぁ」

二人の漏れる痴話喧嘩に親父が閉ざした扉を数回殴った。

「ヤるなよ!こじ開けるぞ!」

「トロンソおじちゃぁん、団長ぉ、」

「こんな状態のダグに何もしませんよ!ダグ!逃げるなっ!私との話は終わってない!」

ヤられるのはお前だしな。

中からの反論を黙って聞いていた。

アリオンに問い詰められてダグが必死で謝っている。

「アホだ。とことんアホ。男の扱いがクソすぎる。わざとか?」

団長がぼそっと呟いた。

「お前もだ。あいつの前でべらべらと」

「この馬鹿息子」

親父と団長に叱られた。

んなこと言っても。

どうせあいつに白状させられる。

半ばキレていたアリオンに握られた首筋はまだ痛んだ。

団長と親父はもうこれ以上待たせられないからとカナン様のもとへ。

俺は留守番。

ヤバかったら開けろと。

その間に仕事を進める。

扉越しのイチャイチャにムカつく。

いや、聞こえるのはガチの説教なんだけど。

ダグが優しくアリィだけだと言うと、誤魔化すな、黙れと一蹴してる。

不在の1週間で俺と部下の二件、どれだけ無防備の節操なしかと責めてる。

あいつ、しつこい。

こわ。

しばらくしてベイル部隊長が顔を出した。

「ロニー、何事だ?ヤバかったら仮眠室をお前とこじ開けろって言われたんだが」

「痴話喧嘩です」

アリオンの説教が続く部屋へ指をさす。

「ふーん」

説教と謝罪の声を聞いて興味なさげに鼻を鳴らすと扉を眺めてすぐに扉を殴った。

「アリオン!ダグ!ふざけた喧嘩は止めろ!出てこい!」

アリオンがすぐに開けて、失礼しましたと一言。

腕の中に心底うんざりした顔のダグ。

「謝ったんだから許してやれ。どうせ離れられないんだろ?時間の無駄だから喧嘩するな」

眉間にデカイシワを入れて頷くアリオンを見て、くっと苦笑いのベイル部隊長。

「ダグ、アリオンを困らせるな。俺達も」

「はい、すいません」

ごめん、アリオンと何度目か分からない謝罪を口にし、アリオンは黙ってダグを抱き締めた。

目の前のイチャイチャにムカつくし、アリオンはあんだけ怒りまくってたのになんだかんだでぎゅうぎゅう抱きしめて顔緩んでる。

ダグもお返しとばかりにアリオンの胸に顔を埋めて引っ付いてる。

羨ましくない羨ましくない。

そんなことされたことないけど羨ましくない。

くそ。

……羨ましい、チキショー。

「お前ら、仲いいな」

懐かしい、と小さく口の中でベイル部隊長の呟きが聞こえた。

盗み見すると手をかざして隠しているけど俺のように嫉妬した気配もなく微笑んでいた。

アリオンにも聞こえたらしい。

目を細めて微かに首をかしげた。

もちろん俺も。

何が懐かしいんだ。
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