上 下
7 / 34

7

しおりを挟む
なんとなくしゃべることもなくてダラダラ繁華街を抜けてたら、ダグに腕を捕まれた。

「お酒、買ってくるから待ってて」

「あ?」

酒屋の前でダグが俺を置いて中へ。

すぐに戻ってきて普通のワインの瓶を楽しそうに見せびらかす。

「何?お前、飲むの?」

下戸のくせに。

飲むはずがない。

だったら、出兵中のアリオンへかとよぎって顔をしかめた。

「うん、飲むよ。ロニーのうちに行く?それとも俺んちに来る?」

「あぁ?飲むって何が?」

「飲み直ししよー」

俺はこっちね、ともうひとつ瓶を見せる。

薄いワイン。

酒の弱い女や子供の風邪なんかに飲ませるような奴。

「飲めねぇくせに?」

「うん、だから薄い奴にしたの。で、どうする?」

ニコニコ笑ってクッソ可愛い。

俺の心臓を刺しに来るな。

胸も顔もぐわぁぁって熱いし目尻もにじむじゃねぇか。

「うわ、わ」

がっと頭を掴んでゆさゆさと揺らした。

「さすが。気が利く。利きすぎ」

「わ、とと、え?今ので撫でたつもり?鷲掴みで?マジか?」

呆れながら、ふらふらとよろけて踏ん張った。

「で、どこで飲む?」

「うち来い。あ、やっぱりお前んち」

使用人経由で親父達に知られたら文句言われる。

出兵してる親父と弟が戻ったら、ズルいズルいと騒ぐし、嫁った姉貴にまで話がいったら馬車で駆けつけて飲み会のやり直しを要求される。

こいつ、スケジュールはカナン様に振り回されて無茶苦茶だし、めんどいし。

てか、今日くらい俺が独り占めで構ってもいいんじゃねえ?

アリオンもカナン様も、兄貴分のベイル部隊長も。全員留守だし。

エール一杯で調子に乗った。

馬鹿な俺は欲が出た。

こいつが可愛いせいだ。


**********


「おっじゃまー」

「いらっしゃーい」

二人でちゃかちゃかコップを出して持ち帰った摘まみ出した。

以前は一人暮らしの内装と食器類だったのに、あっちこっち二人分。

アリオンの気配に面白くねぇとふて腐れながら、今日は俺が独り占めと気分がいい。

親友の特権だな。

こいつはうっすいワインを飲んで俺は普通のワイン。

ちょっと甘くて良い奴買ってくれてる。

スッゴい良いのじゃなくて、ちょっとってのが俺の好み。

気楽で嬉しい。

大袈裟にされると逆にへこむわ。

適当にお互いしゃべってゲラゲラ笑った。

機嫌良すぎて頭が馬鹿だ。

テーブルを挟んで向かい合わせてたのに、調子に乗った俺は椅子を隣に移動して、しかもダグに肩を回して飲んでいた。

酒に弱いダグもぽやぽやで可愛い。

ぶっちゃけこいつは一切アルコールは飲めねぇ。

グラス半分で眠くなるからって。

外で飲んだら誰かを頼らねぇと帰れなくなる。

ベイル部隊長か俺がいないと私兵団の飲み会も参加しねぇ。

二人揃ってこいつのおんぶ係だ。

匂いだけでクラクラするってんだから相当な下戸。

「あー、もう、ほーんと。ちゃのしいねぇ。ん?あ、……ぷはぁ!ちゃって何だよ。たのしいだし!あは、舌回ってない。あはは、」

子供用のうっすいワインを二杯飲んだだけでこの舌っ足らず。

1人で騒いで手を叩いてケラケラ笑う。

「あー可愛い可愛い」

小馬鹿にしながら頭に腕を巻いて小さい頭頂部を混ぜるように撫でる。

照れ隠しだ。

こいつが可愛いのが悪い。

「うわぁ、やめてぇ、脳ミソがぐるぐるするってぇ、きもちわる、うえっ」

「げ、吐くなよ」

パッと手を離して距離を取る。

「うわ、ロニーのせいなのに薄情だ。汚物食らえよ。おらぁ、」

腹の辺りの服を両手で掴まれて胸にごつっと頭突き。

おえーっと大袈裟に言って遊んでる。

「あはは、ごめんって?マジで吐くなよ、悪かったから」

両腕を巻いて背中をさすって、すっぽり収まることにハッとしてしまい、急に胸がどぎまぎした。

俺がデカイからなんだけど。

ダグだって団の鍛練に参加して鍛えてるし、普通の男の体格で、普通の女よりは男らしい。

それでも俺より細い。

上から抱き込んでその守りたくなる細さを堪能した。

「ちっちゃ」

「はぁ?……うるさい。このデカぶつ」

あ、怒らせた。

体格はこいつのコンプレックス。

「うっ、」

懐に入った利点で、ぼすっと鳩尾を殴られたけど大したことない。

「ごめんって」

手加減したんだろうなぁって思えば可愛い。

ぼすぼすと繰り返すそれを腹に力を入れて受け止める。

背中に手を乗せてよしよしと撫でながら。

「くそ!効かねえ!」

いきなり、がばっと上げた顔と台詞に本気で殴ってたと察して吹き出した。

「うそぉぉ!?ぶはははは!マジかよ?!今のが本気の拳?!よっわぁ!」

いくら腕の中に閉じ込められて腕の振り上げが浅いからって!

あり得ないとゲラゲラ笑うと顔を真っ赤にしてふて腐れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼 *全12話+後日談1話

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...