56 / 67
第三章※その後
10
しおりを挟む
「う、」
体が痛い。
動かせない。
髪を優しく撫でる手の感触。
「…イルザン?」
こうやって俺を子供扱いするのはあいつだけだ。
目を薄く開けたが視界がぼやけてよく見えない。
薄い狐色の髪、俺とは違う白い顔。
「残念。僕だよ。」
「あ?…ビスか。」
床に転がされて、隣に座っていた。
「失神したのか?」
「まさか。終わったあと寝てただけ。」
うっすらと何をやったか思い出した。
日が高いのにしつこくヤられたんだ。
最後は焦らされて尻を振ってねだった。
思い出したくない。
「…そうか。…喉、乾いた。」
口の中、すべてが張り付くほどカラカラだ。
「起きれる?」
「…無理だ。」
体が痛くて動かない。
そう言うとビスが革袋を俺の口許に寄せて咥えさせる。
「少しずつね。」
「ん、」
革袋を押して口の中へ水が流れてくる。
こくこくと喉が鳴る。
「ふ、…はあ。」
「まだ飲む?」
「飲む。」
あ、と薄く口を開けるとまた革袋を寄せて水を飲ませた。
「まだいる?」
「いや、もういい。」
「わかった。」
口から垂れた水をビスが指の背で拭った。
終わったあとは患者に接するように優しくなる。
「…なんで、いつもこんな荒っぽいんだよ。」
あとから優しくなるなら最初から優しくしろ。
「こうでもしなきゃヤらせないでしょ?」
「嫌がる相手にヤりたがるな。」
「僕はヤりたいから。それに気持ちよかったでしょ?」
記憶が飛んで頭が真っ白になるくらいな。
死ぬかと思った。
頬をしつこく撫でられて顔を背けた。
「もう、やめろ。」
「分かってるよ。2日もここに足止めしちゃったからね。もうしないから安心して。明日、夜が明けたら出立しよう。」
「…お前が仕切るな。」
「そのフラフラの体で戻れるの?強盗に遇ったら死ぬんじゃない?」
「…。」
否定できん。
今なら昨日の娘にも負けそうだ。
「言うこと聞きなよ。ちゃんとお嬢様のところに届けてあげるから。」
くしゃくしゃと頭を撫でられて諦めから目をつぶり、大人しくした。
睡眠はたっぷりとった。
あとは体が動けばいい。
無理に起き上がるとビスが手足の筋を動かして施術をする。
「どう?」
「…軽い。」
「そう。あとは休んでたら?」
「ああ。」
体が軽くなっても疲れてるのは変わらない。
毎回、疲れてこいつに突っかかる元気もないからな。
「…なんでお前はこんなに容赦ないんだ?」
体は動かんが口は動く。
いつまでも床に転がっていたくない。
よろけながら椅子に座った。
ビスは明日の支度に部屋の掃除をしている。
「…さあ?」
箒を使う手を止めて不思議そうな顔でこっちを見る。
聞きたいのは俺の方だ。
「逆に僕はなんでそんな悠長なのか聞きたいね。君もだけど。…イルザンとか。」
ちらっと目線を向けると思案げに、顎に手を当てて考え込んでいた。
「どういう意味だ。」
「そのままの意味だよ。」
また箒を動かして掃除を始めた。
「鈍いのも君らしくていいけど。」
「あ?バカにしてんのか?」
「気にしなくていいよ。僕と感覚が違うってだけだから。」
「感覚ならだいぶ違う。お前もイルザンも。俺相手に勃つのがわからん。」
背もたれに体を沈めて天井を見上げた。
「そうかな。」
「女でもない。華奢でもない。意味がわからん。」
「…自分のこと、わかってないの?」
見上げていた視界の中にビスの顔が覗いてきた。
「お嬢様はミルクチョコレートだと仰っていた。美味しそうだってね。」
「子供の頃だろう。」
「ふふ、最近も聞いたよ。艶のある黒い髪。チョコレートの肌。黒い目の中にはきらきらの星がいくつも見えると。」
「…そうか。」
お嬢様の言葉は何よりも嬉しい。
何もかも捧げても構わないほどあの幼い姫君に傾倒している。
「いつもそう聞かされていた。どんな男かと思ったらブロンズ像みたいな男で驚いたね。」
顎をさすって耳を撫でる。
「それに、お嬢様のお言葉通り。君は誰よりも綺麗だよ。」
お嬢様と相対してる時のような穏やかな笑み。
臆面もなく。
さらっとこぼれた言葉に息が詰まった。
「…それは、女に言う言葉だ。…俺には、違う。」
「ふふ、これが感覚の違いだよ。」
目を細めて笑った顔に何も言えなかった。
俺が知るのは目をギラギラさせた獰猛な顔か、あとは人をだまくらかすような、張り付けた笑み。
今の微笑みはお嬢様だけに向けるものだ。
「…縄を使うのは?」
おかげで全身うっ血だらけだ。
「縄?…ああ、あれは君に似合うから。」
満面の笑みにこいつの変態さがわかった。
誉められても所詮変態だ。
意味はないと思い直した。
体が痛い。
動かせない。
髪を優しく撫でる手の感触。
「…イルザン?」
こうやって俺を子供扱いするのはあいつだけだ。
目を薄く開けたが視界がぼやけてよく見えない。
薄い狐色の髪、俺とは違う白い顔。
「残念。僕だよ。」
「あ?…ビスか。」
床に転がされて、隣に座っていた。
「失神したのか?」
「まさか。終わったあと寝てただけ。」
うっすらと何をやったか思い出した。
日が高いのにしつこくヤられたんだ。
最後は焦らされて尻を振ってねだった。
思い出したくない。
「…そうか。…喉、乾いた。」
口の中、すべてが張り付くほどカラカラだ。
「起きれる?」
「…無理だ。」
体が痛くて動かない。
そう言うとビスが革袋を俺の口許に寄せて咥えさせる。
「少しずつね。」
「ん、」
革袋を押して口の中へ水が流れてくる。
こくこくと喉が鳴る。
「ふ、…はあ。」
「まだ飲む?」
「飲む。」
あ、と薄く口を開けるとまた革袋を寄せて水を飲ませた。
「まだいる?」
「いや、もういい。」
「わかった。」
口から垂れた水をビスが指の背で拭った。
終わったあとは患者に接するように優しくなる。
「…なんで、いつもこんな荒っぽいんだよ。」
あとから優しくなるなら最初から優しくしろ。
「こうでもしなきゃヤらせないでしょ?」
「嫌がる相手にヤりたがるな。」
「僕はヤりたいから。それに気持ちよかったでしょ?」
記憶が飛んで頭が真っ白になるくらいな。
死ぬかと思った。
頬をしつこく撫でられて顔を背けた。
「もう、やめろ。」
「分かってるよ。2日もここに足止めしちゃったからね。もうしないから安心して。明日、夜が明けたら出立しよう。」
「…お前が仕切るな。」
「そのフラフラの体で戻れるの?強盗に遇ったら死ぬんじゃない?」
「…。」
否定できん。
今なら昨日の娘にも負けそうだ。
「言うこと聞きなよ。ちゃんとお嬢様のところに届けてあげるから。」
くしゃくしゃと頭を撫でられて諦めから目をつぶり、大人しくした。
睡眠はたっぷりとった。
あとは体が動けばいい。
無理に起き上がるとビスが手足の筋を動かして施術をする。
「どう?」
「…軽い。」
「そう。あとは休んでたら?」
「ああ。」
体が軽くなっても疲れてるのは変わらない。
毎回、疲れてこいつに突っかかる元気もないからな。
「…なんでお前はこんなに容赦ないんだ?」
体は動かんが口は動く。
いつまでも床に転がっていたくない。
よろけながら椅子に座った。
ビスは明日の支度に部屋の掃除をしている。
「…さあ?」
箒を使う手を止めて不思議そうな顔でこっちを見る。
聞きたいのは俺の方だ。
「逆に僕はなんでそんな悠長なのか聞きたいね。君もだけど。…イルザンとか。」
ちらっと目線を向けると思案げに、顎に手を当てて考え込んでいた。
「どういう意味だ。」
「そのままの意味だよ。」
また箒を動かして掃除を始めた。
「鈍いのも君らしくていいけど。」
「あ?バカにしてんのか?」
「気にしなくていいよ。僕と感覚が違うってだけだから。」
「感覚ならだいぶ違う。お前もイルザンも。俺相手に勃つのがわからん。」
背もたれに体を沈めて天井を見上げた。
「そうかな。」
「女でもない。華奢でもない。意味がわからん。」
「…自分のこと、わかってないの?」
見上げていた視界の中にビスの顔が覗いてきた。
「お嬢様はミルクチョコレートだと仰っていた。美味しそうだってね。」
「子供の頃だろう。」
「ふふ、最近も聞いたよ。艶のある黒い髪。チョコレートの肌。黒い目の中にはきらきらの星がいくつも見えると。」
「…そうか。」
お嬢様の言葉は何よりも嬉しい。
何もかも捧げても構わないほどあの幼い姫君に傾倒している。
「いつもそう聞かされていた。どんな男かと思ったらブロンズ像みたいな男で驚いたね。」
顎をさすって耳を撫でる。
「それに、お嬢様のお言葉通り。君は誰よりも綺麗だよ。」
お嬢様と相対してる時のような穏やかな笑み。
臆面もなく。
さらっとこぼれた言葉に息が詰まった。
「…それは、女に言う言葉だ。…俺には、違う。」
「ふふ、これが感覚の違いだよ。」
目を細めて笑った顔に何も言えなかった。
俺が知るのは目をギラギラさせた獰猛な顔か、あとは人をだまくらかすような、張り付けた笑み。
今の微笑みはお嬢様だけに向けるものだ。
「…縄を使うのは?」
おかげで全身うっ血だらけだ。
「縄?…ああ、あれは君に似合うから。」
満面の笑みにこいつの変態さがわかった。
誉められても所詮変態だ。
意味はないと思い直した。
0
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
ガチムチな俺が、性癖がバレてイケメンと結ばれちゃうお話
朝顔
BL
どこにでもいるリーマンの俺には、女性の下着を穿くのが好きだという性癖がある。
誰にも話せないことが恋愛面にも影響して、女性と交際してもフラれてばかりいた。
そんな時、職場で異動が決まり、ランジェリーを扱う部署になってしまった。
社員のほとんどが女性という環境だったが、一人だけランジェリー部の王子様と呼ばれる男がいた。
チャラそうだし、キラキラした美形の王子様と親しくなんてなれないと思っていたのに、飲み会帰りにホテルに泊まった日の翌朝、気がつくと二人で裸で寝ていた。
自分が襲ってしまったのだと思い懺悔する俺に、王子はもっと仲良くなりたいと言ってきて……。
□□□□
みんなのアイドルイケメンチャラ王子×ガチムチだけど臆病な優しいクマさん
完結済み
ラブコメディ、職業設定はユルいです。
本編後におまけのストーリーが付いてます。
2022/06/02番外編追加。
ホントの気持ち
神娘
BL
父親から虐待を受けている夕紀 空、
そこに現れる大人たち、今まで誰にも「助けて」が言えなかった空は心を開くことができるのか、空の心の変化とともにお届けする恋愛ストーリー。
夕紀 空(ゆうき そら)
年齢:13歳(中2)
身長:154cm
好きな言葉:ありがとう
嫌いな言葉:お前なんて…いいのに
幼少期から父親から虐待を受けている。
神山 蒼介(かみやま そうすけ)
年齢:24歳
身長:176cm
職業:塾の講師(数学担当)
好きな言葉:努力は報われる
嫌いな言葉:諦め
城崎(きのさき)先生
年齢:25歳
身長:181cm
職業:中学の体育教師
名取 陽平(なとり ようへい)
年齢:26歳
身長:177cm
職業:医者
夕紀空の叔父
細谷 駿(ほそたに しゅん)
年齢:13歳(中2)
身長:162cm
空とは小学校からの友達
山名氏 颯(やまなし かける)
年齢:24歳
身長:178cm
職業:塾の講師 (国語担当)
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
獣の国
真鉄
BL
巨大狼獣人・犬獣人×人間高校生の異種姦3P
トラックに轢かれて死んだ――と思ったのに、目を開けるとそこは見知らぬ森の中だった。さまよう蓮の前に現れたのは犬に似た獣人の盗賊団で、人間は高く売れるとむりやり拉致されてしまう。
異種姦/3P/獣人×人間/結腸責め/潮吹き
妻を寝取られた童貞が18禁ゲームの世界に転生する話
西楓
BL
妻の不倫現場を見た後足を滑らせ死んでしまった俺は、異世界に転生していた。この世界は前世持ちの巨根が、前世の知識を活かしてヒロインを攻略する18禁ゲームの世界だった。
でも、俺はゲームの設定と違って、エッチに自信なんかなくて…
※一部女性とのエッチがあります。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる