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第一章※本編

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帰りは狭い馬車道を下る。

「こっちの方が早いんじゃないか?」

「僕は登った方が早い。」

「そうか。」

昨日遅くなったと言いたいのだろう。

俺がいなきゃ午前中にはついていたはずだ。

悔しいがしょうがない。

こいつの身軽さは俺以上だ。

「…すごいな、あんた。」

「どうも。非力だけどね。」

声は笑っている。

機嫌は良さそうだ。

旧道に出る。

「次は?」

「街へ戻る。」

「わかった。」

そのまま道なりに進む。

昨日と違いゆっくりと歩く。

夜になると道沿いに野宿をした。

「火を起こすのか?」

驚いて尋ねた。

「釣り。」

「あ?」

「掃除をする。」

ますますわからん。

「相手は5人組らしいよ。」

「なんのことだ?」

「この辺りで暴れてる奴等がいるって。今日の患者から聞いた。街に品物を卸しに行けず困ってるって。」

「誘き寄せるのか?」

「うん。楽しみ。」

やはり変わってる。

ドル達と回ったがわざわざ火の粉を呼ぶことはしなかった。

「大丈夫なのか?」

「不意より待つ方が楽。自信ないなら引っ込んでていいよ。」

ムッとした。

「そういうことじゃない。」

「ならいいね。」

焚き火の揺らめきにこいつの目が光る。

優男風の見た目に反して中身は好戦的なようだ。

「あんたも、笑ってるね。」

ニコニコと微笑む。

顔を触ると自然と笑っていた。

「ああ、嫌いじゃない。」

身分だ規則だのうんざりしていた。

暴れる方が好きだ。

「良かった。」

「火を炊くなら飯にしよう。食べるか?」

「何作るの?」

「干し肉とその辺の草だな。」

「肉があれば何でもいいよ。何か手伝う?」

「いや、特にない。」

回りに石を並べて簡易の竈を作る。

塩を入れて干し肉が柔らかくなったら出来上がりだ。

「ウマイね。」

「どうも。」

二人で平らげる。

大した量は作ってない。

火をそのままにローブを巻いて懐に剣を抱いて眠る。

今日はあいつも横になって眠るらしい。

特に何も起きないまま朝を迎えた。

神経を研いで寝たから眠い。

「来なかったな。」

「そのうち釣れるよ。」

朝になり支度をして街に戻った。

午後にはまた旧道を。

脇道を通って次の村に。

今度は崖のない坂道を通った。

「近道か?」

「いや、普通の道。」

鼻唄を歌いそうなほど楽しそうな様子だ。

次の村でも同じように手早く対応し順調に終えた。

「もう夕暮れだが、泊まらないのか?」

「そろそろ良さそうだから。」

穏やかに笑う。

こいつもつけている気配を感じてるはずだ。

緊張する様子もなくカチカチと腰にぶら下げた棒を爪で叩いて遊んでいる。

その辺で拾った長い棒を落ち葉の隙間をこする。

何をしてるのか計りかねた。

暗く日が暮れて、街道に降りる直前、少し開けた場所に出た。

こいつは足を止めてじっくりと周囲を眺めた。

棒で溜まった落ち葉を掃く。

分かりかねたが、それをじっと見つめた。

こいつは意味のない行動はしない。

ばざっと、二度デカイ音が聞こえた。

暗がりでよく見えない。

「落とし穴と仕掛け編み。」

あちらこちらからがざざっと複数人の走る音。

上からも飛び降りてきた。

落ちてくる気配を察して咄嗟に後ろに飛び退いたが、頬に刃物がかすった。

「ちっ!…おい。5人組じゃなかったのか?」

多い。

10人はいる。

「ムスタファ、顔を怪我したの?」

「いや、かすり傷だ。」

多少、離れているのに暗がりで見えるのか。

俺はやはりこいつほど夜目が利かない。

避けるので精一杯だ。

あいつの方からは本人以外の叫び声がこだましてる。

距離をとりたくて走る。

「ムスタファ!まっすぐ走れ!そのまま街へ行け!」

「くそ、」

逃げるつもりはなかったが、過信した己を恥じた。

少し走れば街道に出た。

月夜だ。

広くて明かりに照らされた道は先程より夜目がきく。

動きやすくなった。

追いかけてきた4人を殴り倒して動けないように手足を折った。

他に俺を追いかけてくる者はおらず、街へ走った。

街と街道の付近まで警らが見回りしていた。

馬を借りて警らと共に急いでアイツのところへ走った。

「あ、早かったねぇ。」

「あ、…ああ。…無事か?」

「こ、これは?1人でですか?」

連れてきた警ら達が青ざめて尋ねた。

「来てくれて助かった。」

松明に照らされた先には10人ほどの男らが呻きながら転がってる。

三人、積み上げた上に座って、どこから出したのか柄と刃が半々の細い剣を器用に回して遊んでる。

「どうやって運ぼうか悩んでた。」

しゃっと音をたてて柄に刃が入る。

それを腰にぶら下げ、側に置いた荷物を背負った。  

「強いな。」

「多少はね。」

柔らかい笑み。

イルザンを思い出すが、違ったものを感じた。

「どうやったんだ?」

「これ。」

手の内側をかざす。

親指で人差し指と中指の刃物を出す。

首をかく素振りを見せる。

「あとこれ。」

腕をまくり手首の革ベルトには長い針を腕に沿って張り付けているのを見せた。

そして喉や胸の急所をとん、とん、と指で叩く。

「あっという間。」

「殺したか?」

「まさか。お嬢様が怖がる。…まあ、あとは知らないけど。」

この後死ぬ分には関係ないと考えてるのか。

「そうか。…こいつら、相手が悪かったな。」

よく見ると顔や体に針を刺されて呻いていた。

容赦のなさにぞっとする。

「あんたの傷は?」

「あ?」

じっと顔を覗きんで、指をさされた。

「あとは残らなそうだね。」

頬のかすり傷。

「良かった。」

ニコニコと微笑まれても恐ろしさしかない。

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