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第一章※本編

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朝起きて、1階に降りたら隊長がいた。

「よお、お前の部屋すごかったなぁ。」

「そうですか。」

「噂通りだったわぁ。すげえな。」

女を抱いてもあんなもんだ。

みんな、よく鳴く。

本人の好むようするだけだ。

おかげでタダでいいからヤってくれと言われる。

別段、どうにもヤりたい体位だのなんだのはない。

「なあ、どうやるんだ?教えてくれ。」

肩に腕を巻かれて捕まった。

「はあ。」

気の抜けた返事を返す。

「相手の好むのに付き合えばいいかと思います。」

後ろからパタパタと走る音が聞こえてきた。

「ムスタファ、待って。」

「あ?」

昨日の相手が後ろから呼び掛けてきた。

「あ、あのさ、次はいつ来る?」

駆け寄って袖を引かれる。

下から窺って恐る恐るといった様子だった。

「さあ。」

今日は隊長の奢りだった。

俺の給料じゃこんな高い所いつ来れるかわからない。

「今日は奢りだったから来れた。俺の給料じゃそんな簡単には来れない。」

静かに泣き出したので訳を話す。

「いつ来てもいいから。」

「それはだめだろ。」

「え、と。でも、また会いたい。…お願いだ。」

どうしたもんかと思案する。

俺もこいつを気に入った。

「…字はかけるか?」

「少しなら。」

「手紙を出せ。」

パアッと明るくなり頷いていた。

どうにも泣かれると弱い。

黙って頭を撫でた。

「か、書くから返事を、」

「わかった。」

明るい日差しで見ても可愛い顔をしていた。

目元は赤く腫れてる。

「目を冷やせ。仕事があるんだろ。」

「う、うん。」

手で顔を隠してうつ向いた。

「またな。」

「うん!またね!」

玄関まで見送ると言うので好きにさせた。

往来に出ると、ひゅーっと隊長は口笛を吹く。

「流石だな。」

「何がですか?」

「あの子、売れっ子だぜ?」

「ああ、そうなんですね。顔も可愛いし、納得です。」

気遣いもあった。

「それなりに高い娼館だ。そこの売れっ子まで落とすのか。」

玄関まで見送るのもあり得ないと言う。

知ってる。

まわりから聞かされてるからな。

「な?どうってことなかったろ?」

「そうですね。」

抱いたからと変わらない。

ケツは守ると、それだけだ。

まわりには俺が男を抱いた話はあっという間に広がった。

「隊長、言いふらしたんですか?」

「いや、朝晩の食堂でこぼしただけだ。」

黙って睨んだ。

確信犯じゃねぇか。

男を抱いたことで掘られたがる奴らは色めき立っていた。

だが、相手が花街いちの売れっ子だったことで、勝手に敗北して引っ込んだ。

たまに負けじとあいつと張り合う奴がいたが、部屋に侵入されることはなくなった。

なんでかは知らん。

「男を抱いただけでこうも静かになるんですね。」

「そりゃあな。相手がなぁ。」

ぽんと手紙を渡された。

「ほら、返事書いてやんな。」

お嬢様に負けない歪な字。

可愛いと思った。

「お前、笑うといい感じだな。」

「あ?あ!いや、失礼しました。」

また言葉遣い。

慌てて頭を下げる。

「はは、癖は抜けんなぁ。」

「すいません。」

苦笑いで濁す。

「ちょっと剣呑さが抜けた。」

「そうですかね?」

自分の顎をさする。

「ああ、悪くない。」

「そうですか。」

部屋に戻って中身を見た。

好きだ、また会いたいと大きく書かれていた。

よがんでる。

頑張って書いたのだろう。

下に名前が書いてある。

ハシント。

聞いたことがあるとしばらく考える。

「ハシント、…ハシント。あ、」

ヒヤシンスか。

親戚の使う言語を思い出した。

手紙にはその事を書いた。

ちょくちょく会うつもりはないのでいつ会うかとは書かなかった。

あいつからの手紙もフノーに預ける。

触られたくない。

たまに会うくらいでいい。

まわりの熱気が落ち着いたら、イルザン達ともまた普通に付き合えるようになった。

ハシントのおかげで花街遊びは落ち着いた。

たまに付き合いで付いて行くが、女も男も買わなかった。

ハシントとはたまに会う。

仕事前でいいと言うので、裏口で少し喋る。

ねだられたらキスをするくらい。

気に入っただけで好きじゃないと伝えたら、そんなの知ってるよと笑っていた。

思ったよりあっさりした気性で楽だった。

「悪いな、客になれなくて。」

「いいよ、ムスタファのおかげで客が増えた。」

「へえ?」 

「褐色の君を落としたってことでね。」

「そうか。」

ほくほく顔にまた気楽になった。

落ち着けばイルザンが部屋に訪れるようになった。

ちょっかいかけて来なければそれでいい。

「さすがのムスタファも売れっ子男娼に首ったけか。」

あの子供っぽい手紙は好きだが、惚れてはいない。

言うのが面倒で曖昧に濁した。

「俺のことは嫌がったのに。」

イルザンの言葉に手が動いた。

顔を握ろうとしたら、さっと離れる。

「怒るなって。本当のことだろ?」

「お前のせいでイライラした。」

もう一度、頭に手を被せる。

次は捕まえたのでぎゅっと力を込める。

「いてえー!!やめろー!」

今回はすぐやめた。

こんくらいで良かろう。

「2度とするな。」

こいつとは友達でいたい。

あの構い方は嫌いだ。

「わかったよ。」

口ではそういうが腕を掴まれた。

黙って睨むが視線を逸らして口ごもっていた。

「やっぱり、あと1回だけ。」

震える手ともう片方の手で顔を覆って声は上擦っている。

必死なのはわかった。

「ごめん。」

黙ってると謝ってきた。

別に1回くらいいいか。

2回も1回も変わらん。

「掘られるのは嫌いだ。」

握らた方の手首を掴む。

「…うん。」

こいつのことだ。

また頃合いを見計らってねだってくるだろう。

まあ、いいか。

こいつなら。

「こっちを向け。」

からかいたい気分になり耳元で低く囁いた。

ひく、と肩が跳ねた。

「1回だけだな?」

こくこくと頷くのを確認してから、耳を食んだ。

「まわりに知られるのも嫌いだ。」

「顔掴まれるのはごめんだ。あれ、本当にいてぇ。」

くっと笑いが出た。

「あんたとキスくらいならいい。だが、囃し立てられるのは嫌いだ。」

「わかった。気を付ける。」

振り向いて背伸びしてきた。

そしたらちょうどよく唇が当たる。

部屋で二人。

キスをした。

前とは違って柔らかかった。
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