上 下
259 / 315

対戦

しおりを挟む
次は魔導師長とベアードの対決らしい。
しかし、よく見ればその後ろにヤン達と同じように縄を身体に巻いて並べられたジェラルド伯とロバート殿がいた。
「お父様?お兄様?」
「やあ、エヴ。びっくりだろ?賞品に希望する馬鹿が多かった」
いつもの困った顔で肩をすくめて余裕そうだ。
「こんな年寄り相手に何考えてるか分からんがそういうことらしい」
二人とも半泣きのダリウスとは違いしれっとした態度で答える。
「縄はいらんと言うのに。馬鹿か?魔導師長は」
「いや、お似合いですよ。ぞくぞくします」
呆れたジェラルド伯の蔑んだ視線に魔導師長は興奮を隠せぬ様子で満足そうにしている。
「さすがにうちの旦那様と坊っちゃんをこけにするなら本気出さないとなぁ」
青筋を立てたベアードが仁王立ちで魔導師長を睨み付けて、こいつなら面白がって笑いそうなのにと意外に思って何も言えずに見つめてしまう。
イグナスの紹介でロバート殿を破ったベアードとジェラルド伯を破った魔導師長と大声で告げる。
「ああ、大物同士の対戦があったのか。組み合わせが悪かったみたいですね」
ブラウンの言葉にガードも納得と頭を揺らした。
「魔導師長の方が強いのか」
ジェラルド伯の方だと思ったのに予想が外れた。
魔導師長の魔法の全てを把握している訳ではないとは言え意外な結果に驚く。
どうやるのかこの試合で見られると楽しみに尻尾が揺れた。
二人が樽の上で手を組み合わせる。
大きさはベアードが魔導師長よりふた回りも大きい。
先程、瞬発力が間に合わないうちに魔法で転ばされるとこぼれ聞いたがどうなるやら。
「行きますよぉ。旦那、魔導師長、よろしいですか?」
「いつでもいい」
「ふふ、私もだよ」
二人から二歩離れて長い棒の先にひらひら揺れる旗を二人の眼前に垂らす。
「いいですかい?旗を上げたらですよ。お二人とも。それでは、始め!」
ばさっと振り上げて地面から光る縄が伸びてベアードの体に一瞬で絡まる。
しかし、さすがオーガ。
絡んだ縄を引きちぎり、肘をついた樽を割りながら魔導師長を身体ごと地面に投げて倒した。
「あいたた、えー?うそだろぉ?」
横倒しにされた身体を起こすと尻餅をついて起き上がり、魔導師長は目を丸めてベアードを見上げた。
「何か加護があるのかい?何故かからない?」
「ん?何がですか?」
引きちぎった時の痛みで腕をさすっていたベアードが首をかしげる。
「幻覚をかけたのに」
「ああ、見えましたよ。無視して動いただけです」
「こわっ。伯も他の者もそうだったが、クレインの者は幻覚を気にせず突っ込んでくる」
「分かってるのにまたかけたんですか?戦略としてどうかと思いますけど」
「君らに魅了はかからないし、瞬間的に使えるものとなると少ないんだ」
他の魔法だと怪我させると答えた。
「それより約束ですよ」 
「分かってるよ、ほら」
すぐにジェラルド伯とロバート殿の縄が消えた。
どうやら二人の取り決めだったらしい。
勝敗をイグナスが高らかに宣言しているうちに内容が気になってベアードへ声をかけた。
「団長、何ですか?」
さすっていた腕を見ると紐状の痣が至る所に残っていた。
「幻覚の話が気になった」
「この騒ぎの中、よく聞こえましたね」
人狼だからかと勝手に納得して幻覚の話を教えてくれた。
目の前の旗が上がると大量の大型魔獣に囲まれていたそうだ。
「それでも決めた通りに身体を動かしたんです。勝ててラッキーでした」
それでも痛みはあるらしく、話ながら腕を動かしたり手をにぎにぎと開いたり閉じたりと関節の確認をしていた。
「次も出るのか?」
「そのつもりなんですけどねぇ。…いてて、そちらの副団長とやるのは難しいかなぁ」
思ったより肩を痛めているらしい。
エヴが心配しているとニコニコと笑ってこのくらい平気だと慰める。
「一晩寝れば治ります」
ダリウスもだと付け足して大袈裟に話す様子はない。
オーガの回復力は人狼より高いのかもしれない。
「エドの他にスミスもいる。ベアードの相手にならないか」
「最後に相手するんで。先に副団長辺りが潰すでしょう」
決勝は八人全員の総当たり戦だそうだ。
対戦表は木の板を床に並べているらしい。
「姫の人数が多いがどう采配するんだ?」
「上位五名が相手を指名するんですよ。ヤン目当ての奴らは全員脱落したから、ほら、あいつだけあの余裕」
見ると暇そうに胡座をかいてのんびりと試合を観戦していた。
その隣でしくしくとダリウスは突っ伏している。
魔導師長が退く気配はないからな。
「ジェラルド伯とロバート殿は余裕だな」
「男色は王都でよくあることとのんびり受け止めてます。それにお二人のことだから簡単に相手する気はありませんよ」
どうやってと尋ねたが、話の途中で次の対戦だとすぐに離れていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...