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一目惚れ
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「ねぇ、トリスはどうやってモルガナを選んだの?」
「え、私ですか」
ぽっと頬を染めて恥じらう。
「相性が良かったんですよねぇ。一目見てお互いに恋に落ちて。150年ほど前です」
「どこで知り合ったんだ?」
ブラウンも興味を引かれて問いかけるとトリスがしんみりする。
「うちの群れとかち合って捕獲したんですよ。オババ達は死肉を好むので殺そうとしてて、私は後学のために立ち会ったけど黒くてつやつやの綺麗な蝙蝠羽根に感動したんです。気に入ったから連れて逃げました。もう里には戻らないつもりで二人で」
「そうなの、死肉を」
恋物語のはずなのに殺伐とした内容だった。
死肉を食べると聞いてエヴは身を引いている。
「今はモルガナと同じ食事で大丈夫ですよ。たまに人里に潜り込んで暮らしていました。人間の食事は美味しいですね」
エヴが料理の乗った皿を進めると喜んで食べていた。
どれも美味しいと笑う。
「人間はすごいですね。料理に関しては人族が一番です。調味料とか、鍋やら包丁やら道具も揃っててモルガナに習わなかったら知りませんでした」
自分で作るのかと問うと、したことないしあり得ないと首を振る。
ハーピィは死肉か残飯を好むのは調理の技術がないからか。
トリスの手足は私達と変わらないがいずれ年老いたハーピィと同じ鳥のかぎ爪になるはず。
そうなると調理のような繊細な作業は出来なくなる。
ぼんやり考えているうちに大食漢で有名なハーピィが次々と皿を空にする。
どうやら食欲を我慢していたらしい。
エヴが驚きつつももっと食べていいと料理を勧めていた。
「繁殖はどうする?」
ハーピィは女しかいない。
討伐をしたことはあるがどうやって増えるのか考えたことはなかった。
疑問に声をかけると卵を生むと答えた。
年頃になると勝手に生むそうだ。
「無精卵ですけど。子種があれば簡単にハーピィが生まれます。でも女同士でも魔力をお腹に流せばモルガナとの子が出来ます」
「女同士なのにか?」
ブラウンが驚いて声をあげた。
私も知らなくて目を丸くする。
「ええ、だからモルガナは能力を高めようとしているんです。今のままでは力が弱くて核が出来る前に流れてしまうから。お嬢様、だから私達を長くお側に置いてください。夢魔の力を私達に授けてください」
「声に出すな」
手を合わせて拝むトリスの口を塞ぐともごもごと手を掴む。
「すいません」
ヤン達にきつく言われているのだろう。
青ざめて震えだした。
「大変。口に出して、言ってしまった」
手が震えて模様が手に浮いた。
「これは?」
隠しているが顔にも浮いているようだ。
痛むようで前のめりにゆっくり倒れる。
「ラウルか」
ブラウンは何かを察して頭に手拭いをかけて隠す。
「私達は抜けるから、あとでラウルを寄越して」
「お嬢様、時間が立てば治まると聞いてます」
「私、こんなの聞いてない。何を打ったの?外させる。部屋に呼んで」
「旦那様の許可があります」
ブラウンのはっきりした物言いにエヴが顔を歪ませる。
「お父様の?」
離れたジェラルド伯を睨み、仕方がないとため息を吐いた。
「もう楽しくない。私はトリスを連れて戻る」
「お嬢様、ヤン達を連れてください」
「三人とも知ってたんでしょ?顔を見たくない」
エヴが抱えようとするのを止めて私がトリスを横抱きに持ち上げる。
「侍女部屋に運べばいいか?」
「私が運びます。団長はいいです」
「行くぞ。どうせ誰か供がいなくては動けん」
ブラウンもロバート殿の側を離れるわけにいかないと言うと渋々頷いて城内へ向かう。
林を抜けて門邸の見張りに残った数名から、どうしたのかと問われて、トリスの具合が悪いと返す。
「どうしたんですか?トリス、飲みすぎたのか?」
聞かれてもトリス本人は答える余裕もなく呻いていた。
「いや、どうやら具合が良くなかったようだ」
誤魔化しにそう答えると見張りの一人が運ぶのを変わると答える。
「団長とお嬢様の手を煩わせるわけにはいきません」
「ああ、それがいい。モルガナさんが心配するよ、トリスさん。薬を用意するけど何がいる?ハーピィには何がいいんだ?お嬢様、どうしたらいいすか?」
若い一人が医務室行ってくると声をかける。
「い、いえ、もう」
よく見ると浮いていた紋様が消えて顔色はもとに戻っていた。
「尊き方、申し訳ありません」
下ろすがふらついてしまい、急いで肩を支えた。
見かねて見張りが木箱を置いて座らせる。
「ラウルに、お父様に文句言ってくる」
「へ?お嬢様?なんでですか?」
「待て!お前らはトリスを部屋へ休ませとけ!」
「は!はい!」
目をつり上げたエヴが振り返ってもと来た道を駆け出したのでそれを追いかける。
強化をかけていないからあっさり捕まえた。
「離してよ!」
怒鳴って暴れそうな気配から脇に抱えて側の茂みに放り込む。
「きゃん!」
すぐに追いかけてごろんと転がったところを首根っこ捕まえて立ち上がらせた。
木に寄りかからせて落ち着けと叱ると涙目にこちらを睨む。
「やだ!文句言うの!」
「外せと言うのか?必要と判断したから二人はトリスにあれをかけた。実際に口が軽い。秘密を晒す気か?」
「だ、だって、あんなに苦しめることない」
「それは話し合いの余地がある。だが、後日にしろ。今、あちらには事情を知らない奴らが多い。そんな中で話題に出すつもりか?」
軽率さを指摘すると顔色を変えてパクパクと口を喘がせるだけで二の句を継げず固まった。
「でもっ、だって、」
言葉が続かないがジェラルド伯達のところへ行こうとする。
行かせまいと寄りかかった木へ肩を押さえつけて縫い止める。
苦しくないようにとは思うが難しい。
「いい加減にしろ。うちの団の者も王都から来た魔導師長もいるんだ。知らせていないクレインの団員らもいる。もっと後先考えろ」
この辺りにも酔い醒ましにうろつく奴もいるかもしれないのだから声を押さえろと顔を寄せて静かに叱った。
「うー!ううー!」
言い負かされた悔しさにじたばたと泣きながら胸を叩いて膝を蹴る。
強化をかけないエヴなら平気だ。
女の力なぞ大したことはない。
「泣くな」
「うるさい、です。団長は、番のくせに、全然言うこと、聞かない」
忠告を聞き入れて泣きべそに小声で答える。
「聞いた方がいいか?」
首を横に振る。
「団長、間違ってない。分かってます」
頬の涙を指で拭うとそっぽを向いてしまった。
背を向けて木にしがみついて寄りかかる。
「こちらを向け」
「いや、馬鹿にしてる」
「何のことだ」
「どうせ馬鹿だもん」
拗ねて背を向けたまま泣くので分からない。
「投げたのは悪かった」
「別に。守護持ちは怪我しません」
早い即答にその事ではないと分かる。
「馬鹿にしたと怒るのが分からない。教えてくれ」
耳が下がって尻尾も丸まってしまった。
先程の威勢はない。
エヴの不利になると思えばああやって強硬な態度で挑めたが、そうでないならエヴの機嫌一つで不安になる。
「私は、皆が分かることが分かりません。だからお父様は言わなかったんです。言葉覚えても、色々勉強しても馬鹿ですもん」
悔しい、そう言うと首筋からぬぅっと黒猫が出てくる。
慰めにぐるぐる泣きながら頭をすりよせて、エヴが胸に抱き締めた。
木に寄りかかったままヒムドを抱いてじっとするので頭を撫でたら叩かれた。
子供扱いしないでと鋭く叱責されるが、どこかに行けとは言わない。
側にいるのは嫌ではないらしい。
「え、私ですか」
ぽっと頬を染めて恥じらう。
「相性が良かったんですよねぇ。一目見てお互いに恋に落ちて。150年ほど前です」
「どこで知り合ったんだ?」
ブラウンも興味を引かれて問いかけるとトリスがしんみりする。
「うちの群れとかち合って捕獲したんですよ。オババ達は死肉を好むので殺そうとしてて、私は後学のために立ち会ったけど黒くてつやつやの綺麗な蝙蝠羽根に感動したんです。気に入ったから連れて逃げました。もう里には戻らないつもりで二人で」
「そうなの、死肉を」
恋物語のはずなのに殺伐とした内容だった。
死肉を食べると聞いてエヴは身を引いている。
「今はモルガナと同じ食事で大丈夫ですよ。たまに人里に潜り込んで暮らしていました。人間の食事は美味しいですね」
エヴが料理の乗った皿を進めると喜んで食べていた。
どれも美味しいと笑う。
「人間はすごいですね。料理に関しては人族が一番です。調味料とか、鍋やら包丁やら道具も揃っててモルガナに習わなかったら知りませんでした」
自分で作るのかと問うと、したことないしあり得ないと首を振る。
ハーピィは死肉か残飯を好むのは調理の技術がないからか。
トリスの手足は私達と変わらないがいずれ年老いたハーピィと同じ鳥のかぎ爪になるはず。
そうなると調理のような繊細な作業は出来なくなる。
ぼんやり考えているうちに大食漢で有名なハーピィが次々と皿を空にする。
どうやら食欲を我慢していたらしい。
エヴが驚きつつももっと食べていいと料理を勧めていた。
「繁殖はどうする?」
ハーピィは女しかいない。
討伐をしたことはあるがどうやって増えるのか考えたことはなかった。
疑問に声をかけると卵を生むと答えた。
年頃になると勝手に生むそうだ。
「無精卵ですけど。子種があれば簡単にハーピィが生まれます。でも女同士でも魔力をお腹に流せばモルガナとの子が出来ます」
「女同士なのにか?」
ブラウンが驚いて声をあげた。
私も知らなくて目を丸くする。
「ええ、だからモルガナは能力を高めようとしているんです。今のままでは力が弱くて核が出来る前に流れてしまうから。お嬢様、だから私達を長くお側に置いてください。夢魔の力を私達に授けてください」
「声に出すな」
手を合わせて拝むトリスの口を塞ぐともごもごと手を掴む。
「すいません」
ヤン達にきつく言われているのだろう。
青ざめて震えだした。
「大変。口に出して、言ってしまった」
手が震えて模様が手に浮いた。
「これは?」
隠しているが顔にも浮いているようだ。
痛むようで前のめりにゆっくり倒れる。
「ラウルか」
ブラウンは何かを察して頭に手拭いをかけて隠す。
「私達は抜けるから、あとでラウルを寄越して」
「お嬢様、時間が立てば治まると聞いてます」
「私、こんなの聞いてない。何を打ったの?外させる。部屋に呼んで」
「旦那様の許可があります」
ブラウンのはっきりした物言いにエヴが顔を歪ませる。
「お父様の?」
離れたジェラルド伯を睨み、仕方がないとため息を吐いた。
「もう楽しくない。私はトリスを連れて戻る」
「お嬢様、ヤン達を連れてください」
「三人とも知ってたんでしょ?顔を見たくない」
エヴが抱えようとするのを止めて私がトリスを横抱きに持ち上げる。
「侍女部屋に運べばいいか?」
「私が運びます。団長はいいです」
「行くぞ。どうせ誰か供がいなくては動けん」
ブラウンもロバート殿の側を離れるわけにいかないと言うと渋々頷いて城内へ向かう。
林を抜けて門邸の見張りに残った数名から、どうしたのかと問われて、トリスの具合が悪いと返す。
「どうしたんですか?トリス、飲みすぎたのか?」
聞かれてもトリス本人は答える余裕もなく呻いていた。
「いや、どうやら具合が良くなかったようだ」
誤魔化しにそう答えると見張りの一人が運ぶのを変わると答える。
「団長とお嬢様の手を煩わせるわけにはいきません」
「ああ、それがいい。モルガナさんが心配するよ、トリスさん。薬を用意するけど何がいる?ハーピィには何がいいんだ?お嬢様、どうしたらいいすか?」
若い一人が医務室行ってくると声をかける。
「い、いえ、もう」
よく見ると浮いていた紋様が消えて顔色はもとに戻っていた。
「尊き方、申し訳ありません」
下ろすがふらついてしまい、急いで肩を支えた。
見かねて見張りが木箱を置いて座らせる。
「ラウルに、お父様に文句言ってくる」
「へ?お嬢様?なんでですか?」
「待て!お前らはトリスを部屋へ休ませとけ!」
「は!はい!」
目をつり上げたエヴが振り返ってもと来た道を駆け出したのでそれを追いかける。
強化をかけていないからあっさり捕まえた。
「離してよ!」
怒鳴って暴れそうな気配から脇に抱えて側の茂みに放り込む。
「きゃん!」
すぐに追いかけてごろんと転がったところを首根っこ捕まえて立ち上がらせた。
木に寄りかからせて落ち着けと叱ると涙目にこちらを睨む。
「やだ!文句言うの!」
「外せと言うのか?必要と判断したから二人はトリスにあれをかけた。実際に口が軽い。秘密を晒す気か?」
「だ、だって、あんなに苦しめることない」
「それは話し合いの余地がある。だが、後日にしろ。今、あちらには事情を知らない奴らが多い。そんな中で話題に出すつもりか?」
軽率さを指摘すると顔色を変えてパクパクと口を喘がせるだけで二の句を継げず固まった。
「でもっ、だって、」
言葉が続かないがジェラルド伯達のところへ行こうとする。
行かせまいと寄りかかった木へ肩を押さえつけて縫い止める。
苦しくないようにとは思うが難しい。
「いい加減にしろ。うちの団の者も王都から来た魔導師長もいるんだ。知らせていないクレインの団員らもいる。もっと後先考えろ」
この辺りにも酔い醒ましにうろつく奴もいるかもしれないのだから声を押さえろと顔を寄せて静かに叱った。
「うー!ううー!」
言い負かされた悔しさにじたばたと泣きながら胸を叩いて膝を蹴る。
強化をかけないエヴなら平気だ。
女の力なぞ大したことはない。
「泣くな」
「うるさい、です。団長は、番のくせに、全然言うこと、聞かない」
忠告を聞き入れて泣きべそに小声で答える。
「聞いた方がいいか?」
首を横に振る。
「団長、間違ってない。分かってます」
頬の涙を指で拭うとそっぽを向いてしまった。
背を向けて木にしがみついて寄りかかる。
「こちらを向け」
「いや、馬鹿にしてる」
「何のことだ」
「どうせ馬鹿だもん」
拗ねて背を向けたまま泣くので分からない。
「投げたのは悪かった」
「別に。守護持ちは怪我しません」
早い即答にその事ではないと分かる。
「馬鹿にしたと怒るのが分からない。教えてくれ」
耳が下がって尻尾も丸まってしまった。
先程の威勢はない。
エヴの不利になると思えばああやって強硬な態度で挑めたが、そうでないならエヴの機嫌一つで不安になる。
「私は、皆が分かることが分かりません。だからお父様は言わなかったんです。言葉覚えても、色々勉強しても馬鹿ですもん」
悔しい、そう言うと首筋からぬぅっと黒猫が出てくる。
慰めにぐるぐる泣きながら頭をすりよせて、エヴが胸に抱き締めた。
木に寄りかかったままヒムドを抱いてじっとするので頭を撫でたら叩かれた。
子供扱いしないでと鋭く叱責されるが、どこかに行けとは言わない。
側にいるのは嫌ではないらしい。
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