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お役御免
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「…これは、ラウルか」
「…ぐ、…ちょうど遠見で、見ていたか。分かっていたのに迂闊だった」
額の汗を手の甲で拭い、苦痛に顔を歪めたヤンが横倒しに転がった。
しばらく届いた内容と痛みで三人揃って動けずにいた。
申し訳ありませんと床に倒れたままヤンが苦しげに声をかけた。
私とダリウスも同じように床に転がったまま謝った。
呼吸がやっと整ったところで、腹に手を当て、ソファーに寄りかかりながら身体を起こした。
「うえ、ふえっ、ええっ、ひっく、」
その間、エヴはソファーの上で丸まって泣いていた。
「悪かった」
再度謝って捲れて剥き出しの太ももを隠すためにスカートに触れた。
「いやっ」
突っ伏したまま目もくれずに、ぱちんと私の手を払いのけてスカートを叩くように伸ばして爪先まで隠した。
「自分でするっ」
「分かった」
今のやり取りで涙は止まったようだ。
静かに丸まった背中が深呼吸するように上下していた。
「…なんで、俺まで。ヤンが馬鹿したのに。いで、いて、」
「うるさい。馬鹿をしたのは認めるが、お前まで乗ってくるな」
転がったヤンが足元に突っ伏すダリウスをガンガンと足蹴にした。
「お前達も不能にすると来たか?」
「…いえ。…そちらはそれでしたか。それより恐ろしい。…ああ、でも仕方ない。…粛に受けるしかない」
「だから、なんで、俺まで」
項垂れて顔を覆う二人。
間を置いて通路からバタバタ走る音が複数響く。
「またか!お前らは!」
「エヴ!」
抜刀した溺愛の父兄の登場に私も頭を抱えた。
どうやら鳥は二人にも送ったらしい。
「ダリウス!ヤン!このままうちに来ていただけ!」
こいつにまで送ったのか。
「やかましい!娘が望むならまだしも、この状況でこの馬鹿が!野次馬のお前が一番腹が立つわ!」
後ろから走ってきたベアードに激しい突きを立て続けに打つ。
「おおっと、私に八つ当たりしないでください。ほら、あっちの人狼、」
「うるさい!娘にちょっかい出されて揶揄するお前が一番気に入らんのだ!」
「揶揄なんてとんでもない。うちで大事にするし、旦那様も副団長に、」
「今、言うな!ロバート!良しなにしとけ!」
ベアードを引きずって連れて出ていった。
「お前は警護があるだろうが!何でお前まで来たんだ!ラウルはお前にまで送ったのか!」
「え?鳥ですか?いえいえ、ロバート様が鳥を受けとると一人で急に走り出したので追いかけたんですよ。内容は知りませんが
、部屋見たら一目瞭然じゃないですか。魔人でもないし、エヴ様と床に正座した三人」
正座していたのは二人だ。
通路から聞こえる声に心の中で答えた。
「ふえぇ、お兄様がいい」
ソファーから裸足で飛び出して広げた腕に抱きついた。
「みぎゃあっ」
挟まったヒムドが叫んでる。
「ごめんね?ヒムド」
ぬるっとエヴの肩に身を乗り出して首筋に消えていった。
ぐずぐず泣くエヴを腕に包んで眉をひそめた。
「…こんなに泣かせて。…堪え性がないのは困ります、団長。…お前達もだよ」
「申し訳ない」
「エヴ様、申し訳ありません」
ダリウスは納得のいかない顔でヤンと頭を下げた。
「三人が取り合いして襲ってると知らせが来て驚きました」
「…俺、何もしてないです。本当に、何も」
眉を下げた情けない顔で訴えた。
「エヴ、そうなの?」
「だ、ダリウスはしてないけどぉ」
「信用出来なかった?」
「…うん」
ダリウスがショックで頭を床に突っ伏した。
「…やはり、男手に任すのは無理かな。ちょうど二人、新しいのが入ったし」
ヤンとダリウスの顔色が変わる。
意味は私も分かる。
「自室では侍女として羽根の二人をつけて寝室の見張りも今日から変える。それ以外は変わらない」
やらかした失敗にこめかみを揉んだ。
「団長、いち令嬢でしかない妹の警護をありがとうございました」
「…自ら願い出て引き受けたことです。信用をなくした自分に後悔してます。ご令嬢に失礼しました」
「待って。夜の見張りをモルガナ達に変えるんですか?」
慌てたエヴがロバート殿に問い掛けた。
「エヴの安寧が大事だ。心配しなくても別室で待機させるなり方法は、」
「それはだめです。あの二人飛べるだけだからアモルに敵いません。すぐに八つ裂きにされちゃう。他の魔人にも。私の発揮した魔力にも耐えられないもん。それなら一人がいいです。暴れられるから」
二人に何かあったら嫌だとごねた。
どうやら羽根二人組はエヴに気に入られたようだ。
「彼らならいいのかい?」
「ヤン達なら負けないもん。団長も強いし。私より弱い二人はつけないで。何かあってからじゃ遅いもん」
ふむ、と一声頷いてしばらく考え込んだ。
「父上と検討する。だが、今夜はその場しのぎとして羽根二人と同室にしなさい。ヤン達の見張りは別室だ」
「この間みたいにお兄様が一緒に寝てくれたらいいのに。それがいい!そうしましょう?」
「は?エヴ、ちょっと、」
「お兄様と一緒に寝るぅ」
胸にグリグリと頭を埋めてねだり始めた。
「だめだよ?そんな年齢じゃないから」
「やだぁ、一緒がいいもん。お願い」
「んー…、だめなんだけどなぁ」
妹のおねだりには弱い。
可愛いようで頭を両腕で抱き締めるように撫でている。
「ふう、まずは父上と相談しようか」
「だめって言うもん」
「うん、そうかも。でも統主に従うべきだよね?」
「…はぁい」
エヴを私達から離れた椅子に座らせてロバート様が床に座る私達の身体を検分する。
「それにしても、揉め事の度に怪我をされては…」
青ざめたヤンは痛みでまだ息が詰まって立てず、ダリウスは暴れたエヴから顔を叩かれて口の端を切っている。
「…ごめんなさい」
しょんぼりと頭を下げる。
「ロバート様、私をエヴ様の侍従から外していただけませんか?」
「ヤン?」
ロバート殿はヤンへと意外そうに目を向けた。
「や、やだぁ、ヤンがいないと。ごめんなさいぃ、謝るから怒らないで、ごめんん、」
慌てたエヴが走ってヤンの膝で泣き伏した。
「エヴ様の副官としての務めは全ういたします。警護も他に必要なことももちろん指示の通りに。しかし、身の回りのお世話をすることは私にはもう出来かねます。側から離れることをお許しください」
「なんでぇ、やだよぉ」
痛みで苦しげな声を拒絶と感じて余計に不安がって嫌がる。
今まで通りがいいと泣いて謝った。
ヤンの色が戻ってきた顔色と晴れ晴れとした表情に決心したのかと見つめた。
「…ぐ、…ちょうど遠見で、見ていたか。分かっていたのに迂闊だった」
額の汗を手の甲で拭い、苦痛に顔を歪めたヤンが横倒しに転がった。
しばらく届いた内容と痛みで三人揃って動けずにいた。
申し訳ありませんと床に倒れたままヤンが苦しげに声をかけた。
私とダリウスも同じように床に転がったまま謝った。
呼吸がやっと整ったところで、腹に手を当て、ソファーに寄りかかりながら身体を起こした。
「うえ、ふえっ、ええっ、ひっく、」
その間、エヴはソファーの上で丸まって泣いていた。
「悪かった」
再度謝って捲れて剥き出しの太ももを隠すためにスカートに触れた。
「いやっ」
突っ伏したまま目もくれずに、ぱちんと私の手を払いのけてスカートを叩くように伸ばして爪先まで隠した。
「自分でするっ」
「分かった」
今のやり取りで涙は止まったようだ。
静かに丸まった背中が深呼吸するように上下していた。
「…なんで、俺まで。ヤンが馬鹿したのに。いで、いて、」
「うるさい。馬鹿をしたのは認めるが、お前まで乗ってくるな」
転がったヤンが足元に突っ伏すダリウスをガンガンと足蹴にした。
「お前達も不能にすると来たか?」
「…いえ。…そちらはそれでしたか。それより恐ろしい。…ああ、でも仕方ない。…粛に受けるしかない」
「だから、なんで、俺まで」
項垂れて顔を覆う二人。
間を置いて通路からバタバタ走る音が複数響く。
「またか!お前らは!」
「エヴ!」
抜刀した溺愛の父兄の登場に私も頭を抱えた。
どうやら鳥は二人にも送ったらしい。
「ダリウス!ヤン!このままうちに来ていただけ!」
こいつにまで送ったのか。
「やかましい!娘が望むならまだしも、この状況でこの馬鹿が!野次馬のお前が一番腹が立つわ!」
後ろから走ってきたベアードに激しい突きを立て続けに打つ。
「おおっと、私に八つ当たりしないでください。ほら、あっちの人狼、」
「うるさい!娘にちょっかい出されて揶揄するお前が一番気に入らんのだ!」
「揶揄なんてとんでもない。うちで大事にするし、旦那様も副団長に、」
「今、言うな!ロバート!良しなにしとけ!」
ベアードを引きずって連れて出ていった。
「お前は警護があるだろうが!何でお前まで来たんだ!ラウルはお前にまで送ったのか!」
「え?鳥ですか?いえいえ、ロバート様が鳥を受けとると一人で急に走り出したので追いかけたんですよ。内容は知りませんが
、部屋見たら一目瞭然じゃないですか。魔人でもないし、エヴ様と床に正座した三人」
正座していたのは二人だ。
通路から聞こえる声に心の中で答えた。
「ふえぇ、お兄様がいい」
ソファーから裸足で飛び出して広げた腕に抱きついた。
「みぎゃあっ」
挟まったヒムドが叫んでる。
「ごめんね?ヒムド」
ぬるっとエヴの肩に身を乗り出して首筋に消えていった。
ぐずぐず泣くエヴを腕に包んで眉をひそめた。
「…こんなに泣かせて。…堪え性がないのは困ります、団長。…お前達もだよ」
「申し訳ない」
「エヴ様、申し訳ありません」
ダリウスは納得のいかない顔でヤンと頭を下げた。
「三人が取り合いして襲ってると知らせが来て驚きました」
「…俺、何もしてないです。本当に、何も」
眉を下げた情けない顔で訴えた。
「エヴ、そうなの?」
「だ、ダリウスはしてないけどぉ」
「信用出来なかった?」
「…うん」
ダリウスがショックで頭を床に突っ伏した。
「…やはり、男手に任すのは無理かな。ちょうど二人、新しいのが入ったし」
ヤンとダリウスの顔色が変わる。
意味は私も分かる。
「自室では侍女として羽根の二人をつけて寝室の見張りも今日から変える。それ以外は変わらない」
やらかした失敗にこめかみを揉んだ。
「団長、いち令嬢でしかない妹の警護をありがとうございました」
「…自ら願い出て引き受けたことです。信用をなくした自分に後悔してます。ご令嬢に失礼しました」
「待って。夜の見張りをモルガナ達に変えるんですか?」
慌てたエヴがロバート殿に問い掛けた。
「エヴの安寧が大事だ。心配しなくても別室で待機させるなり方法は、」
「それはだめです。あの二人飛べるだけだからアモルに敵いません。すぐに八つ裂きにされちゃう。他の魔人にも。私の発揮した魔力にも耐えられないもん。それなら一人がいいです。暴れられるから」
二人に何かあったら嫌だとごねた。
どうやら羽根二人組はエヴに気に入られたようだ。
「彼らならいいのかい?」
「ヤン達なら負けないもん。団長も強いし。私より弱い二人はつけないで。何かあってからじゃ遅いもん」
ふむ、と一声頷いてしばらく考え込んだ。
「父上と検討する。だが、今夜はその場しのぎとして羽根二人と同室にしなさい。ヤン達の見張りは別室だ」
「この間みたいにお兄様が一緒に寝てくれたらいいのに。それがいい!そうしましょう?」
「は?エヴ、ちょっと、」
「お兄様と一緒に寝るぅ」
胸にグリグリと頭を埋めてねだり始めた。
「だめだよ?そんな年齢じゃないから」
「やだぁ、一緒がいいもん。お願い」
「んー…、だめなんだけどなぁ」
妹のおねだりには弱い。
可愛いようで頭を両腕で抱き締めるように撫でている。
「ふう、まずは父上と相談しようか」
「だめって言うもん」
「うん、そうかも。でも統主に従うべきだよね?」
「…はぁい」
エヴを私達から離れた椅子に座らせてロバート様が床に座る私達の身体を検分する。
「それにしても、揉め事の度に怪我をされては…」
青ざめたヤンは痛みでまだ息が詰まって立てず、ダリウスは暴れたエヴから顔を叩かれて口の端を切っている。
「…ごめんなさい」
しょんぼりと頭を下げる。
「ロバート様、私をエヴ様の侍従から外していただけませんか?」
「ヤン?」
ロバート殿はヤンへと意外そうに目を向けた。
「や、やだぁ、ヤンがいないと。ごめんなさいぃ、謝るから怒らないで、ごめんん、」
慌てたエヴが走ってヤンの膝で泣き伏した。
「エヴ様の副官としての務めは全ういたします。警護も他に必要なことももちろん指示の通りに。しかし、身の回りのお世話をすることは私にはもう出来かねます。側から離れることをお許しください」
「なんでぇ、やだよぉ」
痛みで苦しげな声を拒絶と感じて余計に不安がって嫌がる。
今まで通りがいいと泣いて謝った。
ヤンの色が戻ってきた顔色と晴れ晴れとした表情に決心したのかと見つめた。
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