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食欲不振

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川辺でのやり取りを頭の片隅に思い出しつつ、その場でエドと簡単な打ち合わせをしていたら若い団員が声をかけてきた。
「クレインから中休みに魚を焼くのでいかがですかとお誘いがありました。希望した分だけ焼くそうです」
「数に限りがあるだろう。皆で食べろ。あとを考えて多く求めるな」
冬支度用に配る分も考えればそう沢山はもてなせない。
そう忠告すると皆にそれを伝えに戻る。
川魚は水辺の魔獣の肉より小ぶりだが、身が柔らかく香りがいいので子供のいる家庭に人気がある。
特に海から離れた内地では魚は肉とはまた違ったご馳走だった。
エドが惜しそうにするのを見て、くっと笑った。
「お前は好きにしろ」
「はい」
「食べ過ぎるな」
昼食に行くと告げるとエドが急いで先程の団員を追いかけた。
機嫌のいい後ろ姿に苦笑いをしながら、食事処に向かう前にエヴを探した。
「エヴ、昼食はどうする?」
「ガードさん達と取ります」
「は?」
「良ければですけど。そのあと一緒にリーグのところに」
エヴの目線の先にはダリウスがガードへ話しかけているところだった。
納得して頭を揺らすが面白くない。
「私とは?」
「ご一緒しますか?」
しばらく考えて遠慮することにした。
共に取りたいが、あいつらが気疲れするのが分かっている。
そうなればエヴも面白くなかろう。
過保護すぎて疎ましがられるのは困る。
ダリウスと話を終えたのかガードがこちらへ小走りで走ってきた。
「お誘いいただきましたが、昼食はご遠慮致します。食後のお見舞いなのですが、団員らはそれぞれ身支度がありますのでお待たせしてしまいます」
濡れ鼠の団員らは解散後は各々の判断で食事なり着替えなりと好きに動くからと説明した。
「では、中休みにいかがですか?焼いた魚をラウルとリーグに差し入れするので」
ラウルには食べやすい献立にしてと頼んでますと言うとガードが目を丸くする。
「わざわざ、ですか?」
穏やかな微笑みを浮かべて頷き、それを見たガードが感謝から頭を下げると慌てたエヴも反射的に頭を下げる。
「え?え?あれ?」
「いや、エヴ嬢はお辞儀されないで、ああ、申し訳ない、」
二人がペコペコと頭を下げあうのをダリウスと目を合わせて微笑んだ。
「なら、昼食のお誘いは私が代わりに参加して構わないかな」
「ええ、ぜひそうされてください。こちらも中休み前には見舞いの人間を選んでおきます」
ガードの後押しで了承を得て食事処へと付き添った。
途中、整備を担当したらしいクレインの団員らとすれ違い、何度も今日の討伐を尋ねられ、食事処の側で急に立ち止まった。
「…団長、ごめんなさい。…食欲が消えました」
「は?」
「エヴ様?何かお加減が?」
青ざめたエヴに心配すると手で顔を覆って項垂れた。
「あれ、思い出したら無理!お腹が気持ち悪いぃ!」
人が食べてるのを見るのもと舜巡し、首を横に振る。
魔獣の臓物は平気なのに。
エヴはヤンとダリウスに食べてこいと遠慮していたが、あとで交代するからとダリウスが付き添い二人でその場を離れた。
「ヤン、明日は休ませるか?」
「どうでしょうか。嫌がりそうです。そのうち慣れるかもしれませんし」
「陸上の魔獣は最初から平気なのか?」
「いえ、泣いていました。獣型の見た目なら触っても平気ですが、ふわふわの生き物が好きなので心苦しいと」
「そうか」
イグナスがピーピー泣いていたと評したのはこのことかと合点がいく。
「食べずにいるのはだめだ。あとで無理にでも何か食わせろ」
「ええ、ロバート様が喜んでお世話されますから」
少し眉をひそめて答えた。
嫉妬が垣間見えて私と同じように仲良すぎることに邪気が孕んでいると察する。
「あそこまでいくと腹が立つな」
「そうですね」
共にテーブルに座って同調を見せると不機嫌そうにあっさり本音を見せる。
意外だと思いながらお互いに愚痴をこぼして話を拒否する様子はない。
「定位置は膝なのか?」
途中の問いかけに黙っていたが、一瞬歪めた顔から答えを理解して頭を揺らす。
その後は手早く食事を終えるとお腹に優しそうな果物を別に貰い、盆に二人分の食事を乗せて城内へ戻った。
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