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適性
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あいつ個人だけを見ればただ逃げ回ってるだけと思っていたのかもしれない。
班で見た時にはっきりする。
あいつが入った班だけでなく、まとめ役にした班も不思議なほど死傷者を出さない。
私が広言すれば足を引っ張る馬鹿が出るから黙っていた。
気づく奴は気づいている。
特に専門部隊の奴らはリーグの采配の上手さを頼りに動いている節がある。
「あいつはうちの団のやり方と言うよりチームワークを重視するクレインと似ている。ジェラルド伯らが気に入るのも頷ける。ついでに非力すぎてお前の戦法には向かないのもな」
身体も精神も打たれ強い質だからなのか、エドは正面突破の力業に頼った戦法が多い。
残念ながらリーグは陸上の魔獣経験が少なく海中での銛突きや揺れるごちゃつく船上の白兵戦を得意としていた。
入団させた当初は内地で当たり前に知られてる魔獣の種類も討伐方法のひとつも知らず、海中なら自由自在なのに平地の討伐や対人戦は陸に上がった魚の状態でぼこぼこにされて通常の鍛練もこなせないから、毎日辞めたいと土下座しに来ていた。
毎年、雨季に多発する水辺の大型討伐用に便利だから逃がす気なんかなくて、物で釣って懐柔してたまに騙して脅して何としても退団をはぐらかしたことを思い出す。
私の口八丁に騙されない奴は久々でリーグを口説くのはかなり楽しかったと、昔のことを思い出して笑みを浮かべた。
「自分の役に立たなければ評価が低くなるのも当然だ」
「はい、それは分かります」
今の話に心当たりがあるのだろう。
会得した顔で手を顎に添えてひとり頷き続けている。
「私にとってあいつは使い勝手がいい。上手いこと育てば後方支援も前線もこなせる。容態がはっきりするまでまだ手放すには惜しい」
しかもすでにエヴの治療は確定している。
確実に全快になる予定だと、ここで言うつもりはないのでぼかして話す。
あとはどのタイミングで方法はどうするか考える必要がある。
どうやってエヴの秘密を守るかが重要だ。
ジェラルド伯に一計があるやもしれない。
話し合いを重ねる必要がある。
ぼんやり考えながら機械的に口を動かして咀嚼した。
「その話を聞いて私も惜しくなりました」
「上手く使えるならお前の手元に引き取れ」
もともとスミスかエドに回したかったんだ。
「無理ですね。使いこなせません。私が諜報には向きませんので話を得ても何が何やら。そういう悪巧みは団長のお得意でしょう?」
「人聞きの悪い」
「失礼しました」
にっと笑う顔に呆れたが的を得た言葉なら叱る気にならない。
「それでリーグの抜けた穴は塞いだか?」
昨日の時点で私の指揮のもと、討伐に向かうことにした。
エドも連れて行けるなら良かったが、街道の整備に回さねばならない。
隣国との開通にこちらも急ぎだ。
あちらへ逃げた魔獣の対応で早急に協力体制を求められている。
クレイン側は身分のある20人もの罪人相手にロバート殿とベアード殿が二人で対応してジェラルド伯も執務室に籠ってお忙しい。
あちらは上官の人手が足りていない。
それなら城内の守りはクレインに任せて動いた方がいい。
「昨日のうちに指示された編成に変えました。うちの二個小隊を各小隊ごとに分けましたが、よかったんですか?範囲が狭まりますし、他の小隊の人数を増やしたところで不安があります」
「私も不安だ。だが、仕方ない。予定より期間を伸ばして討伐する。目標は死傷者を極力出さないことだ。今回、専門以外の団員らも穴のでかさを痛感するぞ」
ここまで規模のでかい水辺の討伐は経験がない。
リーグを中心に動いていた専門部隊は苦戦するだろう。
「確かに、そうですね。クレインの小隊にもうちのを数名混ぜましたが、上手くやれるでしょうか?どうにも相性が悪ければまた入れ換えを検討しなくてはいけませんね」
「穏やかなのを入れたんじゃないのか?」
小隊の顔ぶれを思い出すが比較的呑気な奴らなのに。
それにしてもそういう細かいところを見抜いて報告なり間に入るなりするあいつが便利だったと顔をしかめた。
「え?穏やか?いや、ここは戦い方が個性的ですからね。水辺もどんな風にやるのか不思議で入ったうちの奴らが上手くやれるか気になってるんですよ。お互いこんなに大規模な水辺討伐は初めてな上に専門外の慣れない奴らが多く混じってますから。まだ後始末でバタバタで落ち着きませんし」
「…ああ、まあな。…投獄したとはいえ昨日の今日だ。令嬢の件で両団共にまだ浮き足立っている。…しかし、ここの団員はおおらかな方だ。よっぽどの事がない限り、」
ふと、ここの人間の逆鱗が何か思い当たる。
「クレイン家を貶すようなことは死んでも言うなと言っておけ。殺されるぞ」
「ええ?言うわけ無いですよ。それに向こうだってそんなことはない、いえ…ありますね。…ラウルに手を出されてからクレインが豹変しましたね」
身分も性別も関係なく地面に倒して引きずっていましたと呟く。
「ああ。ここの気質なのか知らないが、普段は温厚なのに気に入らなければ豹変する」
私も庇えんと言うとエドが顔を強張らせながら頷いた。
先程より楽な掛け合いで会話が弾む。
仕事が関わる話ならこうもすんなり行くのにエヴが絡むと話しにくい。
向き不向きだとひとり勝手に納得して食事を終えて立ち上がると羽ばたきが聞こえた。
班で見た時にはっきりする。
あいつが入った班だけでなく、まとめ役にした班も不思議なほど死傷者を出さない。
私が広言すれば足を引っ張る馬鹿が出るから黙っていた。
気づく奴は気づいている。
特に専門部隊の奴らはリーグの采配の上手さを頼りに動いている節がある。
「あいつはうちの団のやり方と言うよりチームワークを重視するクレインと似ている。ジェラルド伯らが気に入るのも頷ける。ついでに非力すぎてお前の戦法には向かないのもな」
身体も精神も打たれ強い質だからなのか、エドは正面突破の力業に頼った戦法が多い。
残念ながらリーグは陸上の魔獣経験が少なく海中での銛突きや揺れるごちゃつく船上の白兵戦を得意としていた。
入団させた当初は内地で当たり前に知られてる魔獣の種類も討伐方法のひとつも知らず、海中なら自由自在なのに平地の討伐や対人戦は陸に上がった魚の状態でぼこぼこにされて通常の鍛練もこなせないから、毎日辞めたいと土下座しに来ていた。
毎年、雨季に多発する水辺の大型討伐用に便利だから逃がす気なんかなくて、物で釣って懐柔してたまに騙して脅して何としても退団をはぐらかしたことを思い出す。
私の口八丁に騙されない奴は久々でリーグを口説くのはかなり楽しかったと、昔のことを思い出して笑みを浮かべた。
「自分の役に立たなければ評価が低くなるのも当然だ」
「はい、それは分かります」
今の話に心当たりがあるのだろう。
会得した顔で手を顎に添えてひとり頷き続けている。
「私にとってあいつは使い勝手がいい。上手いこと育てば後方支援も前線もこなせる。容態がはっきりするまでまだ手放すには惜しい」
しかもすでにエヴの治療は確定している。
確実に全快になる予定だと、ここで言うつもりはないのでぼかして話す。
あとはどのタイミングで方法はどうするか考える必要がある。
どうやってエヴの秘密を守るかが重要だ。
ジェラルド伯に一計があるやもしれない。
話し合いを重ねる必要がある。
ぼんやり考えながら機械的に口を動かして咀嚼した。
「その話を聞いて私も惜しくなりました」
「上手く使えるならお前の手元に引き取れ」
もともとスミスかエドに回したかったんだ。
「無理ですね。使いこなせません。私が諜報には向きませんので話を得ても何が何やら。そういう悪巧みは団長のお得意でしょう?」
「人聞きの悪い」
「失礼しました」
にっと笑う顔に呆れたが的を得た言葉なら叱る気にならない。
「それでリーグの抜けた穴は塞いだか?」
昨日の時点で私の指揮のもと、討伐に向かうことにした。
エドも連れて行けるなら良かったが、街道の整備に回さねばならない。
隣国との開通にこちらも急ぎだ。
あちらへ逃げた魔獣の対応で早急に協力体制を求められている。
クレイン側は身分のある20人もの罪人相手にロバート殿とベアード殿が二人で対応してジェラルド伯も執務室に籠ってお忙しい。
あちらは上官の人手が足りていない。
それなら城内の守りはクレインに任せて動いた方がいい。
「昨日のうちに指示された編成に変えました。うちの二個小隊を各小隊ごとに分けましたが、よかったんですか?範囲が狭まりますし、他の小隊の人数を増やしたところで不安があります」
「私も不安だ。だが、仕方ない。予定より期間を伸ばして討伐する。目標は死傷者を極力出さないことだ。今回、専門以外の団員らも穴のでかさを痛感するぞ」
ここまで規模のでかい水辺の討伐は経験がない。
リーグを中心に動いていた専門部隊は苦戦するだろう。
「確かに、そうですね。クレインの小隊にもうちのを数名混ぜましたが、上手くやれるでしょうか?どうにも相性が悪ければまた入れ換えを検討しなくてはいけませんね」
「穏やかなのを入れたんじゃないのか?」
小隊の顔ぶれを思い出すが比較的呑気な奴らなのに。
それにしてもそういう細かいところを見抜いて報告なり間に入るなりするあいつが便利だったと顔をしかめた。
「え?穏やか?いや、ここは戦い方が個性的ですからね。水辺もどんな風にやるのか不思議で入ったうちの奴らが上手くやれるか気になってるんですよ。お互いこんなに大規模な水辺討伐は初めてな上に専門外の慣れない奴らが多く混じってますから。まだ後始末でバタバタで落ち着きませんし」
「…ああ、まあな。…投獄したとはいえ昨日の今日だ。令嬢の件で両団共にまだ浮き足立っている。…しかし、ここの団員はおおらかな方だ。よっぽどの事がない限り、」
ふと、ここの人間の逆鱗が何か思い当たる。
「クレイン家を貶すようなことは死んでも言うなと言っておけ。殺されるぞ」
「ええ?言うわけ無いですよ。それに向こうだってそんなことはない、いえ…ありますね。…ラウルに手を出されてからクレインが豹変しましたね」
身分も性別も関係なく地面に倒して引きずっていましたと呟く。
「ああ。ここの気質なのか知らないが、普段は温厚なのに気に入らなければ豹変する」
私も庇えんと言うとエドが顔を強張らせながら頷いた。
先程より楽な掛け合いで会話が弾む。
仕事が関わる話ならこうもすんなり行くのにエヴが絡むと話しにくい。
向き不向きだとひとり勝手に納得して食事を終えて立ち上がると羽ばたきが聞こえた。
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