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「…ああ、団長との会話は難しい」
「スミスとお前はこういうことに関して的外れなんだ」
ショボくれるエドにブスくれて答えた。
「リーグは上手いこと会話を回す奴でしたね」
「ああ、慣れだろう」
小さい頃から玄人と客のやり取りを見聞きしながら店の給仕をこなして9歳からは大人に揉まれて討伐に参加していた。
人生経験の濃さが違う。
「それにあんなに女慣れしてるとは知りませんでした。エヴ嬢の扱いも上手いし」
「また的外れなことを。あれは子供慣れだ」
女には慣れていない。
いや、妹が多いし、食事客やら何やら玄人相手で慣れてはいるのか。
慣れていないのは裸体かと、はたと気づく。
「子供、慣れですか?」
瞬きをするエドの様子からは違いは分かっていないと察したが、それ以上の訂正は諦めた。
まずエヴの中身が年相応でないことを理解していない。
「まあ、とりあえずそうなんですね?…それで容態はいかがでしたか?やはり、復帰は望めませんか?」
「ジェラルド伯が腕利きの医者に見せている。だめとは決まっていない。まだどうなるか分からんから完治するまで団に在籍させる」
「よろしいのですか?」
退団がやむを得ない怪我をしたら、その時点即刻うちの団から除名される。
前線専門だからだ。
良くて王都の後方支援部隊に移動だ。
「ああ、ジェラルド伯の目がある。気が抜けない」
「エヴ嬢の願いでしょう」
「いや、クレインはあいつを貰う気だ。身体は動かなくとも大型討伐の経験と知識が豊富だからな。各所の自警団に相談役として配置させる価値はある」
ここより給料が下がるが不自由な身体でその就職先はかなりの厚待遇だ。
「本当ですか?」
驚くエドを無視してパンを口に放り込みながら首肯した。
ジェラルド伯の会話から言葉の端々に滲み出ていた。
団を抜けることがあるならうちでと何度も遠回しに提案していた。
それにエヴの秘密も知っている。
手元で管理したいはずだ。
「エヴはその辺りを何も考えていないが、行く宛がないと分かれば雇いたいと考えるはず。その時はまずロバート殿に打診する。お二人なら実家のことを考えて自由に動けるクレインの貿易商会に入れるだろう。海育ちで海域に詳しい。陸路も団の経験から国内のことも領内の人間に比べて知識があるから損はない」
読み書きができることもあちらに知られた。
そうなるとだいたいの予想はつく。
エドは知らなかったと呟き、感心するのを放って食事を進める。
私はエドの知らない情報を持っているから判断がつくだけだ。
「親子でリーグを買っておられますね」
「ああ。それにうちで雇っても構わん。まあ、あいつは嫌がるだろうがな。休みが団にいる時より少なくなるから。クレインも嫌がるかもな。実家から遠い。そうなると消去法でうちかな」
番の相手が上手ければうちは誰でも雇うと付け足す。
唖然と口を開けたと思ったら前のめりに顔を覗きこむ。
「はぁー。団長が気に入っていたのは知っていましたが、そんなにですか?何がそんなに気に入るところありますか?団長だけじゃなくジェラルド伯まで。一体なぜ?」
目を輝かせて、妬みより興味津々といった様子に顔が緩んだ。
こいつのいいところは底抜けに根が明るいことだ。
妬みそねみと縁がない思考をして、私とは10も年が離れているのに芯から尊敬してくれる。
そこがお気に入りだ。
「お前はあいつの評価が低かったな」
頬を緩めて答えると食いぎみに頷く。
「ええ、そうです。水辺は断トツですが、うちの団は基本陸上の討伐です。あいつは下、しかもかなりの下寄りですよ。それにいつも誰かの後ろに隠れてやる気がない」
エドの力説に苦笑いをこぼす。
言ってることは間違いない。
陸上の討伐だけで見たらその通りなのだから。
「あいつは平民の、うちの団一番の小柄だぞ。若くて顔も普通の。目立てば何されるか分からんから隠れている。まあ、あいつが面白いのは、鬱憤の溜まった猿の女役に狙われそうなのに。自分より年上の、しかも身分が上のでかぶつを上手いことあしらって、しかも面白いくらい人の秘密を拾ってくるところだ」
あの人当たりの良さは諜報に向いてると笑うとぽかんと口を開けた。
「秘密を、ですか?」
「大したことじゃないが積み重なると団員のまとめに役立つ」
そういうことに興味のないエドは首を捻った。
素直に上の言うことを聞く質なので下の不満に鈍く意に介さないところがある。
「あの人当たりのよさで他領に連れて行けば現地の団員とうまく付き合う。他団員の班にひとり混ぜてもすんなり懐に入る。揉め事ばかり起こす奴よりいい。それに目端が利いて用心深い。入った班の討伐成功率と生還率は極端に高いぞ。知ってたか?」
「え?!いえっ、知りませんでした」
意外そうに目を見開く。
「スミスとお前はこういうことに関して的外れなんだ」
ショボくれるエドにブスくれて答えた。
「リーグは上手いこと会話を回す奴でしたね」
「ああ、慣れだろう」
小さい頃から玄人と客のやり取りを見聞きしながら店の給仕をこなして9歳からは大人に揉まれて討伐に参加していた。
人生経験の濃さが違う。
「それにあんなに女慣れしてるとは知りませんでした。エヴ嬢の扱いも上手いし」
「また的外れなことを。あれは子供慣れだ」
女には慣れていない。
いや、妹が多いし、食事客やら何やら玄人相手で慣れてはいるのか。
慣れていないのは裸体かと、はたと気づく。
「子供、慣れですか?」
瞬きをするエドの様子からは違いは分かっていないと察したが、それ以上の訂正は諦めた。
まずエヴの中身が年相応でないことを理解していない。
「まあ、とりあえずそうなんですね?…それで容態はいかがでしたか?やはり、復帰は望めませんか?」
「ジェラルド伯が腕利きの医者に見せている。だめとは決まっていない。まだどうなるか分からんから完治するまで団に在籍させる」
「よろしいのですか?」
退団がやむを得ない怪我をしたら、その時点即刻うちの団から除名される。
前線専門だからだ。
良くて王都の後方支援部隊に移動だ。
「ああ、ジェラルド伯の目がある。気が抜けない」
「エヴ嬢の願いでしょう」
「いや、クレインはあいつを貰う気だ。身体は動かなくとも大型討伐の経験と知識が豊富だからな。各所の自警団に相談役として配置させる価値はある」
ここより給料が下がるが不自由な身体でその就職先はかなりの厚待遇だ。
「本当ですか?」
驚くエドを無視してパンを口に放り込みながら首肯した。
ジェラルド伯の会話から言葉の端々に滲み出ていた。
団を抜けることがあるならうちでと何度も遠回しに提案していた。
それにエヴの秘密も知っている。
手元で管理したいはずだ。
「エヴはその辺りを何も考えていないが、行く宛がないと分かれば雇いたいと考えるはず。その時はまずロバート殿に打診する。お二人なら実家のことを考えて自由に動けるクレインの貿易商会に入れるだろう。海育ちで海域に詳しい。陸路も団の経験から国内のことも領内の人間に比べて知識があるから損はない」
読み書きができることもあちらに知られた。
そうなるとだいたいの予想はつく。
エドは知らなかったと呟き、感心するのを放って食事を進める。
私はエドの知らない情報を持っているから判断がつくだけだ。
「親子でリーグを買っておられますね」
「ああ。それにうちで雇っても構わん。まあ、あいつは嫌がるだろうがな。休みが団にいる時より少なくなるから。クレインも嫌がるかもな。実家から遠い。そうなると消去法でうちかな」
番の相手が上手ければうちは誰でも雇うと付け足す。
唖然と口を開けたと思ったら前のめりに顔を覗きこむ。
「はぁー。団長が気に入っていたのは知っていましたが、そんなにですか?何がそんなに気に入るところありますか?団長だけじゃなくジェラルド伯まで。一体なぜ?」
目を輝かせて、妬みより興味津々といった様子に顔が緩んだ。
こいつのいいところは底抜けに根が明るいことだ。
妬みそねみと縁がない思考をして、私とは10も年が離れているのに芯から尊敬してくれる。
そこがお気に入りだ。
「お前はあいつの評価が低かったな」
頬を緩めて答えると食いぎみに頷く。
「ええ、そうです。水辺は断トツですが、うちの団は基本陸上の討伐です。あいつは下、しかもかなりの下寄りですよ。それにいつも誰かの後ろに隠れてやる気がない」
エドの力説に苦笑いをこぼす。
言ってることは間違いない。
陸上の討伐だけで見たらその通りなのだから。
「あいつは平民の、うちの団一番の小柄だぞ。若くて顔も普通の。目立てば何されるか分からんから隠れている。まあ、あいつが面白いのは、鬱憤の溜まった猿の女役に狙われそうなのに。自分より年上の、しかも身分が上のでかぶつを上手いことあしらって、しかも面白いくらい人の秘密を拾ってくるところだ」
あの人当たりの良さは諜報に向いてると笑うとぽかんと口を開けた。
「秘密を、ですか?」
「大したことじゃないが積み重なると団員のまとめに役立つ」
そういうことに興味のないエドは首を捻った。
素直に上の言うことを聞く質なので下の不満に鈍く意に介さないところがある。
「あの人当たりのよさで他領に連れて行けば現地の団員とうまく付き合う。他団員の班にひとり混ぜてもすんなり懐に入る。揉め事ばかり起こす奴よりいい。それに目端が利いて用心深い。入った班の討伐成功率と生還率は極端に高いぞ。知ってたか?」
「え?!いえっ、知りませんでした」
意外そうに目を見開く。
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