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お花畑

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「弄んだとか、」
「どこで覚えてきた?」
またあいつらが詰まらんことを漏らしたのかと気色ばんで睨むと、ペリエ嬢達の喧騒に見とれているエヴ嬢は私の不機嫌に気づかず話を続けた。
「料理番のおば様です。団長みたいな色男はきっと男も女もポイ捨てだって。えーと、こなれた様子から弄んだ相手は星の数だろうって」
思わぬ伏兵にぐっと言葉が詰まる。
「ぶっ、」
隣のヤンが吹き出している。
「ぶ、ふふ、さすが、年長者、年の功ですね。見る目があります」
小さな呟きに私の隣に立つヤンの肩めがけて、ばちんと張り手を食らわす。
「あいたぁっ、ふはは!あはは!」
「え?ヤン、どうしたの?」
仰け反ってたたらを踏んだ体勢のまま、ひーひー笑うヤンに目を白黒させていた。
他の団員らも珍しいと衆目を集める。
「やかましい」
「あはははっ!も、申し訳ありません、はははっ!痛い痛い!」
笑いの止まらなさに業を煮やしてがっと首に腕を巻いて締めると腕を叩いて降参を示した。
「あー、笑いました」
まだ笑い出しそうな緩い顔に、黙ってまた首を絞めてやろうと近づくと手を上げて降参の姿勢を見せる。
それでも顔が緩い。
「申し訳ありません。やはり団長でも彼女達には敵いませんね」
「ああ、頼もしいがな」
鉄火肌の勇ましいご婦人方だ。
逆らう気にならん。
「カリッド様!その者ですのね?!その男が番ですの?!」
「お嬢様、落ち着いてくださいまし!相手は男ではありませんでしたでしょう?!手紙には、クレイン領のご令嬢とありました!あれは男です!」
やはり手紙は盗られていたか。
分かっていた。
だが、決定的だとはっきり分かれば押さえていた腹立ちが溢れる。
「でも、あんな親しげに!おかしいですわー!」
「へ?番?私のこ、と?もが、」
何か言いそうなエヴ嬢の口をすかさず手を被せて黙らせた。
エヴ嬢の呟きは小さかったのであちらには聞こえてない。
「ヤン、口を閉ざしたまま連れていけ」
「はい」
「んぐー?うぐ?」
ヤンががっしりと口を覆ったままエヴ嬢を引きずって連れ出した。
あとは他の団員らと共に、彼女らが騒ぐのを無視して陣内へ進む。
向かいからエドとラウルが来ていた。
「遅いからラウルに頼んで鳥を飛ばそうかと。無事のご帰還に安心しました」
顔色の悪い二人に目をしばたたかせた。
「二人は何があった?」
「…あれ、スゴすぎ。意味わかんない。あり得ない」
「なんと言いますか、」
説明のつかない様子の二人の後ろから同じ顔色のリーグが手を振っている。
顎をしゃくって促すと一礼して前に出る。
ラウルとエドも頼んだと頷いていた。
「久しぶりに見て興奮したみたいっす。お花畑全開っす。今日は、私兵のお供まで連れて、あっちこっちの兵士を捕まえては、番は誰だと迫ってました。副団長が小まめに見張って止めるんですが、15人程の私兵の奴らと4人の侍女達がばらけ動いて対策が追い付いてません」
「うちの団だけか?」
「あっちにも突撃したけど、王都で見るような貴族のイケメンばかりの団じゃないから侍女が怯えて帰りました。熊か鬼みたいなのばっかですし。その代わり女騎士が来たけど、会話の途中で怒って剣を振り回して、ホビットの一人が触れもせずに投擲の縄で捕まえました。主人に言えるもんなら言ってみろとからかったら泣いて逃げたんで、多分あの様子なら言ってないと思います」
「見ていたのか?」
「今日もあっちで鍛練してたんで。朝っぱらから乗り込んで汚いの臭いだの、しつこくて。言うこと聞かないと分かったら、身分を吹聴して番の令嬢のことを吐けとか言えば金をやるとか。そのくらいなら余裕で笑って見てたんですけどね。あいつら、かなりタフっす。でも皆の敬愛するクレイン家を貶した瞬間、一変しました。領団の奴らを怒らせちゃったんすよ。あいつらも、魔獣の方が可愛いとか、まあ見た目をけちょんけちょんに貶して、腕くらいはあるのかと挑発して相手が乗ってきたと思ったらあっという間に返り討ちっす」
「事の次第は理解した。ベアード殿とジェラルド伯の対応は把握してるか?」
「対応はまだ聞いてません。でも即刻、報告してるはずっす。その場ですぐそれぞれ動き出してたので。ベアード団長は鍛練に来られたのでしょうっていなしてたと聞きましたけど」
もとが穏やかなので鷹揚に構えているのか本気なのか悩む。
「団長、今は隠れてた方がいいっす。連れもおかしいけど、本人もあれだけ言って聞かないのはおかしいっす。姿を見ると舞い上がって手に終えないのも変だ。迎えが来るまでの辛抱っす」
「それは分かるが、エド達のみでしばらく動けるか?」
「状況次第です。整備と水辺なら、ですが、まだ大型の群れは多数残ってます。討伐を後回しにするのも、」
「副団長、しばらくです。せめて王宮からの返答が来るまで。あと、3日から5日の間だけっす。もしかしたら向こうからの迎えが来てるかもしれないっす。もうあれは危険っすよ!権力を持った恋キチガイなんですから!あんななったら誰が被害者になるかわかんねぇんすよっ!」
はっとエドが合点がいったと納得し頷いた。
「スタンビートが起これば戻る。連絡が届くまで今までのように隠れる。それでいいか?」
「分かりました」
「ラウル、もうしばらく世話になる」
「了解。それと観点を変えての意見なんですけど。あいつらの精神汚染か何か術式の可能性は?」
「高位貴族は定期的に探知魔法をかける。特に中枢のパティ家は、」
「いや、目の前にしてなかった高位貴族の団長がいるんですけど」
「一年に一度の王宮での定期探知の度に遠征だった。あとは家ごとに任意だ。汚染や術にかかりやすい人族のパティ家は政治の中枢ということで頻度が多い。それにグリーブスは効きが悪い。それもあって私は迂闊だった」
「では、団長のことは置いといてあいつらの汚染の可能性は低いんですね?」
「恐らく。だが、絶対じゃない」
了解ですと答えた。
「精神汚染とか出来る奴は希なんでしょ?まさか、ラウルは使えるんすか?ぶっちゃけ色キチガイになる奴はなると思うんすけど」
「…そうなんだね。逆にそっちが分からない。術式もなく精神崩壊してんの見たことない。あと俺が精神汚染を扱える訳じゃないよ。見たことある程度ね。昔は繁殖の仕事だったんで、欲を術式で操作するんだ」
欲を刺激したり下げたりするのに身体を弄るのが得意と呟く。
不能やら性欲減退を扱える理由が分かった。
「何すか?その仕事」
「100年くらい前に怪しい仕事してたんだよ。二度としないけど」
「う?うっす」
分からなくて適当に答えていた。
「つーわけで、俺から見たら汚染の疑いありです。あの執着の強い行動は見たことありますし、性欲刺激して似た感じに出来ます。性差や身分差で素肌に触るの無理なんで探知は不可ですけどね」
「ああ。だが、納得の行く話だった。仮定として頭に入れとく」
「了解」
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