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果実
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休憩を挟むと各々好きに寝転んだり座ったりとくつろぐ。
エヴ嬢は彼らと過ごし笑っていた。
「寂しいか?」
「そうですね。でも必要なことです」
「ああ」
耳を彼女らに傾けたまま周囲の討伐の報告や整備の進行状況の確認を進めた。
「団長、ただいま戻りました」
先行したブラウンとスミスの帰還に状況を尋ねた。
大型の確認は取れなかったが、他の群れが街道に多数陣取っているとその他と変わらない状況に頷いて返す。
「これ、お土産です」
ブラウンが担いでいた大ぶりの木の枝には旨そうな赤い実がいくつもたわわに実っていた。
「お嬢様のお好きな果物です」
「気が利く」
「急いだ方がいいですよ、皆考えることは一緒ですから」
「ああ、通りで」
他にもブラウンが運んだようにさまざまな果物の枝や茂みを担いだ奴らがいる。
エヴ嬢らへ持って行くところだった。
「エヴ嬢っ、こちらへ」
呼ばれてさっと立ち上がるとこちらへ駆けてくる。
「はい」
「ブラウンからの土産だ」
わぁ、と歓声を上げて喜んだので木陰に入って一緒に食べることにした。
数人が恨めしそうにこちらを見たが手を振ってからかうと渋々引き下がり、持ち寄った果物は皆と分けて食べることにしたらしい。
「…ラウルに何か見つければよかった」
仲良く皆で食べるのが羨ましくなったのかスミスがぽつりと呟く。
「だから言ったでしょう?スミスさんは皆に捨てろって喧しかったんですよ」
ブラウンがくくっと笑ってからかう。
落ち込むスミスにヤンが枝からひとつ千切って手渡している。
「ないよりましかと」
「…ヤン、応援してくれるのか?嬉しいよ、ありが、」
「は?何を?いいえっ!全くっ。本当にラウルは嫌がるので同情しております。誤解は止めてもらいたい。これもいさかいのない程度に親しくしてほしいと思っただけのことです。出来ないのならこれも止めましょう」
ぱっと渡した果物を取り上げてさっさとナイフで皮を剥き始めた。
「ご自分で何かご用意された方が誠意がありますしね」
冷たく言い放ち、また落ち込むスミスを横目に剥いた果物を一口だけ切って食べる。
隣で黙々とエヴ嬢は自分の分の皮剥きに集中していた。
「あーあ、皮が分厚い。難しいのね」
「慣れですよ」
「うん。ヤンは上手ね。いつも私に剥いて食べさせてくれたから。見えなかったけど味は覚えてる」
すりおろした果物と飲み物だけで生きてたねと笑い、たっぷり果肉のついたままの切り取った皮をそのまま齧る。
ナイフは面倒になったようで傍らに置いてシャクシャク音を立てて中途半端に剥いた身を食べる。
「食べるの大好き。今はこうやって食べれるから嬉しい」
「…あの、エヴ嬢、ラウルの好みを教えていただけませんか?後生ですっ」
拝むように手を合わせて頼み始めた。
「だめ。ラウルから口止めされてますから」
「そこをなんとか、」
「ラウル、怒りっぽいから。しかも長いしうるさいし。今、物をあげても余計怒りそうじゃない?」
ヤンがしばらく考えてから頷くと、だよねとエヴ嬢は答えた。
「黙ってお仕事がんばるのが一番です。怠け者が嫌いだから」
「ええ、良い考えですね。自分が喋りたい方なので余計なことを言わない性格を好みますし、エヴ様のように献身的に働く人間を尊重します。ラウルも忙しいので、邪魔をしないように黙って仕事をされるのが一番よろしいかと思います」
「だけど、リーグは、」
「リーグは優しいよね、私も好き」
「私も彼には助かってます。気難しいラウルの扱いが上手いので」
エヴ嬢はただ素直に感想を述べて、乗っかったヤンがからかいにそう言うと、ぐううっとスミスが唸る。
おかしくてしょうがない。
ラウルがリーグを気に入るのも自分のせいなのに。
なぜ分からない。
「ふ、くくっ、くはっ!あの、ガキが、あいつ、くくっざまぁみろ」
「楽しそうだな。まあ、私も面白がっているが」
ブラウンは堪らないと笑っている。
「あーウケる。話には聞いてましたが、スゴいですね。堅物のスミス隊長がアイツにはデロデロだって」
「そちらにまで堅物と有名なのか」
「そうですね、ちょっと色々あったんで。今日なんかもうちの奴らが合間に食い物を拾って回ると偉い剣幕で怒ってましたね。団長達が喜びますよって言うのにあり得ないって、あとなんだ?賄賂に当たるとか。王都だとそうなんですか?」
「いや、そんなことはない。団員らには好きにさせてる。食事以外に捕まえた魔獣を食べるのも。他の団もこのくらいなら似たようなものだろう。私にわざわざ持ってこなくていいと言ってるだけだ。ああ、職務中は禁止だ」
「ああ、だからですね。俺は帰りに取りましたけど他の奴らは自由にしてた。行きで拾うのは討伐の邪魔だと言えば納得してましたけど。うちの奴らがすいません」
「団によって規則が違う。それを上手く扱うのも上官の仕事だ。無駄に揉めなくてよかったと思うだけだ」
「ブスくれる奴らもいたけど、どいつもこのくらいで騒ぐ程ガキじゃありませんよ」
どこの領団もそうだが、規則が違う。
それにかなり気性が荒い。
ここの連中もそうだ。
しかし、ベアード団長のおおらかさのおかげなのか彼らに攻撃的なところはなく陽気で明るく社交性がある。
「君らは付き合いやすい」
「そうですか?俺達は王都兵団と共同戦線は初めてでおっかなびっくりです。うちが王都へ応援を求めたのも初めてですかね?」
「昔、私が就任するずっと前に記録が残ってる。30年程前だったかな。冷害で疲弊してるところにスタンビートが起きたとあった」
「へえ、詳しいですね」
「ここに来る前に王宮の会議で話が出た。王国の中でも自衛能力が高く武力の誉れ高いクレイン領と有名だ」
「街ごとにデカイ自警団を持ってますからね。時折、ベアード団長や旦那様が彼らに訓練をつけて大型一頭くらいなら倒せるように鍛えてます」
「街ごとに大型を仕留める隊が存在するそうだな。初めて聞いたときは驚いた」
「そうです。うちは領地がでかくて自然が豊富なんで繁殖した魔獣がわんさかなんですよ。団長達が来てくれたおかげでここに集中してた余所の自警団を街に戻せました」
それでもまだ各々の主力は残ってますけどと付け足した。
報告は受けている。
例のホビット部隊ももとは自警団のひとつで、応援のためにここへ来ている。
大きな街だと三部隊ほど大型を相手に出来る自警団を所有している。
街を跨ぐような有事の際、全自警団の指揮系統は領団に所属し、自警団を優先している間は金銭も領から出る。
よそで傭兵を雇うのと変わらない金額だ。
領民からいい稼ぎと喜ばれ、ジェラルド伯は信用の置ける臨時兵団と重宝されている。
エヴ嬢は彼らと過ごし笑っていた。
「寂しいか?」
「そうですね。でも必要なことです」
「ああ」
耳を彼女らに傾けたまま周囲の討伐の報告や整備の進行状況の確認を進めた。
「団長、ただいま戻りました」
先行したブラウンとスミスの帰還に状況を尋ねた。
大型の確認は取れなかったが、他の群れが街道に多数陣取っているとその他と変わらない状況に頷いて返す。
「これ、お土産です」
ブラウンが担いでいた大ぶりの木の枝には旨そうな赤い実がいくつもたわわに実っていた。
「お嬢様のお好きな果物です」
「気が利く」
「急いだ方がいいですよ、皆考えることは一緒ですから」
「ああ、通りで」
他にもブラウンが運んだようにさまざまな果物の枝や茂みを担いだ奴らがいる。
エヴ嬢らへ持って行くところだった。
「エヴ嬢っ、こちらへ」
呼ばれてさっと立ち上がるとこちらへ駆けてくる。
「はい」
「ブラウンからの土産だ」
わぁ、と歓声を上げて喜んだので木陰に入って一緒に食べることにした。
数人が恨めしそうにこちらを見たが手を振ってからかうと渋々引き下がり、持ち寄った果物は皆と分けて食べることにしたらしい。
「…ラウルに何か見つければよかった」
仲良く皆で食べるのが羨ましくなったのかスミスがぽつりと呟く。
「だから言ったでしょう?スミスさんは皆に捨てろって喧しかったんですよ」
ブラウンがくくっと笑ってからかう。
落ち込むスミスにヤンが枝からひとつ千切って手渡している。
「ないよりましかと」
「…ヤン、応援してくれるのか?嬉しいよ、ありが、」
「は?何を?いいえっ!全くっ。本当にラウルは嫌がるので同情しております。誤解は止めてもらいたい。これもいさかいのない程度に親しくしてほしいと思っただけのことです。出来ないのならこれも止めましょう」
ぱっと渡した果物を取り上げてさっさとナイフで皮を剥き始めた。
「ご自分で何かご用意された方が誠意がありますしね」
冷たく言い放ち、また落ち込むスミスを横目に剥いた果物を一口だけ切って食べる。
隣で黙々とエヴ嬢は自分の分の皮剥きに集中していた。
「あーあ、皮が分厚い。難しいのね」
「慣れですよ」
「うん。ヤンは上手ね。いつも私に剥いて食べさせてくれたから。見えなかったけど味は覚えてる」
すりおろした果物と飲み物だけで生きてたねと笑い、たっぷり果肉のついたままの切り取った皮をそのまま齧る。
ナイフは面倒になったようで傍らに置いてシャクシャク音を立てて中途半端に剥いた身を食べる。
「食べるの大好き。今はこうやって食べれるから嬉しい」
「…あの、エヴ嬢、ラウルの好みを教えていただけませんか?後生ですっ」
拝むように手を合わせて頼み始めた。
「だめ。ラウルから口止めされてますから」
「そこをなんとか、」
「ラウル、怒りっぽいから。しかも長いしうるさいし。今、物をあげても余計怒りそうじゃない?」
ヤンがしばらく考えてから頷くと、だよねとエヴ嬢は答えた。
「黙ってお仕事がんばるのが一番です。怠け者が嫌いだから」
「ええ、良い考えですね。自分が喋りたい方なので余計なことを言わない性格を好みますし、エヴ様のように献身的に働く人間を尊重します。ラウルも忙しいので、邪魔をしないように黙って仕事をされるのが一番よろしいかと思います」
「だけど、リーグは、」
「リーグは優しいよね、私も好き」
「私も彼には助かってます。気難しいラウルの扱いが上手いので」
エヴ嬢はただ素直に感想を述べて、乗っかったヤンがからかいにそう言うと、ぐううっとスミスが唸る。
おかしくてしょうがない。
ラウルがリーグを気に入るのも自分のせいなのに。
なぜ分からない。
「ふ、くくっ、くはっ!あの、ガキが、あいつ、くくっざまぁみろ」
「楽しそうだな。まあ、私も面白がっているが」
ブラウンは堪らないと笑っている。
「あーウケる。話には聞いてましたが、スゴいですね。堅物のスミス隊長がアイツにはデロデロだって」
「そちらにまで堅物と有名なのか」
「そうですね、ちょっと色々あったんで。今日なんかもうちの奴らが合間に食い物を拾って回ると偉い剣幕で怒ってましたね。団長達が喜びますよって言うのにあり得ないって、あとなんだ?賄賂に当たるとか。王都だとそうなんですか?」
「いや、そんなことはない。団員らには好きにさせてる。食事以外に捕まえた魔獣を食べるのも。他の団もこのくらいなら似たようなものだろう。私にわざわざ持ってこなくていいと言ってるだけだ。ああ、職務中は禁止だ」
「ああ、だからですね。俺は帰りに取りましたけど他の奴らは自由にしてた。行きで拾うのは討伐の邪魔だと言えば納得してましたけど。うちの奴らがすいません」
「団によって規則が違う。それを上手く扱うのも上官の仕事だ。無駄に揉めなくてよかったと思うだけだ」
「ブスくれる奴らもいたけど、どいつもこのくらいで騒ぐ程ガキじゃありませんよ」
どこの領団もそうだが、規則が違う。
それにかなり気性が荒い。
ここの連中もそうだ。
しかし、ベアード団長のおおらかさのおかげなのか彼らに攻撃的なところはなく陽気で明るく社交性がある。
「君らは付き合いやすい」
「そうですか?俺達は王都兵団と共同戦線は初めてでおっかなびっくりです。うちが王都へ応援を求めたのも初めてですかね?」
「昔、私が就任するずっと前に記録が残ってる。30年程前だったかな。冷害で疲弊してるところにスタンビートが起きたとあった」
「へえ、詳しいですね」
「ここに来る前に王宮の会議で話が出た。王国の中でも自衛能力が高く武力の誉れ高いクレイン領と有名だ」
「街ごとにデカイ自警団を持ってますからね。時折、ベアード団長や旦那様が彼らに訓練をつけて大型一頭くらいなら倒せるように鍛えてます」
「街ごとに大型を仕留める隊が存在するそうだな。初めて聞いたときは驚いた」
「そうです。うちは領地がでかくて自然が豊富なんで繁殖した魔獣がわんさかなんですよ。団長達が来てくれたおかげでここに集中してた余所の自警団を街に戻せました」
それでもまだ各々の主力は残ってますけどと付け足した。
報告は受けている。
例のホビット部隊ももとは自警団のひとつで、応援のためにここへ来ている。
大きな街だと三部隊ほど大型を相手に出来る自警団を所有している。
街を跨ぐような有事の際、全自警団の指揮系統は領団に所属し、自警団を優先している間は金銭も領から出る。
よそで傭兵を雇うのと変わらない金額だ。
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