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無防備

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休憩後はダリウスとスミスがまた甲冑水泳を始めた。
私とリーグは木の枝を折って簡易の物干しを用意して自分達の濡れた衣類を干した。
エヴ嬢がいないならと二人揃って乾いたタオルを巻いて濡れた腰巻きを干す。

「ダリウスは続けさせるのか?」

スミスと組んで泳ぐダリウスを眺めながら呟く。

「オレの担当じゃないし、あの人は大丈夫っしょ?団長相手に喧嘩する元気があるんだ。二人に挟まれておろおろしてましたよ?あんなちっこいのにでかい二人に挟まれてマジ可哀想」

「ちっこい?」

17歳という成長途中であるリーグの体格は団の中で細身でエヴ嬢と身長も近い。
しかし、わざわざリーグがエヴ嬢のことを小さいと揶揄するほどではないし、貶すような性格でもない。

「ちっこいっすよ?あの様子じゃぁ、実家のチビどもと変わんないっすね。ほぼチビッ子っす」

団長の背中で泳いでめっちゃ喜んでましたねと言う。
実家の弟妹に同じことをよくしてやってるそうだ。
喜ぶ様子が同じで懐かしいと答えた。

「思ったより見ていたのだな」

「下心はないっすよ?二人がずっと気にして見てるし、あんな綺麗な人そうそう見れないからついオレも目が行っちゃって。視線が吸い込まれるって感じっす。中身も人目を引く人っすね。初めて会話しましたが、貴族なのにマジ穏やかでいい子っすね」

感心した様子から、ふと呆れた顔で私を見る。

「なのに二人して。具合悪そうなのも気づかないで何してるんすか?」

「はは、お前がそこまで庇うのも珍しい」

思わず笑う。
反省もあるので反論はしなかった。

「当たり前っすよー。年寄りや女子供には親切にしなきゃ。うちの親の教えっす。馬鹿な男は殴っていいそうです。暴力は苦手なんでやんないっすけどー」

「お前、兵士だろう?」

「しょうがないじゃないすか。これしか仕事見つかんなかったんだから」

「もう少しやる気があるなら上を目指せるのになぁ」

こいつは空気を読めないのではなく読まないんだ。
もっとそつなくこなせるのに、率先してやりたがらない。
普段は回りに人がいれば無口で大人しいのに、こうして二人で話す機会があれば腹に隠すのは止めたとばかりによくしゃべる。

「買い被りすぎっす。盗賊とか魔獣の討伐はいいけど、責任とか無理っす。対人関係怖いっす。ぺーぺーでいたいっす」
「上がってこい」

「マジで買い被りすぎっすわー。オレってまだ17歳の若造ですし?ヘラヘラちゃらちゃらのオレなんかじゃ荷が重いっす。上の指示聞いてその通りにするので精一杯っすね。前回で懲りましたしー」

無理やり仕事を任せて上に引き上げてもいいが、やっかみで潰されるのは困る。
そういう耐性がない。
一時期、気に入って重用したら一部からの反感であっという間にげっそりと痩せた。
多少は本人が毅然とはね除けてくれないとどうしようもない。
それでもそのうちエドかスミスのどちらかと組ませようとは思ってる。

「三人ともメロメロっすねー。団長とイチャこらしてんの複雑そうに見てました。ジェラシーたっぷりっす。なんでスミス先輩は気づかないのか不思議っすけどね。ラウルが一番分かりやすいのに」

「いちゃこらねぇ」

私としては真面目に教えたつもりだ。
ベタベタするなら首に顔を埋めてもっとしている。

「じゃあ、オレは仕事に戻ります」

片付けを済ませてさっと立ち上がるのを手で制す。

「いや、今日は休め。火に当たればいい」

こいつも見本に甲冑を着て泳いだのだから疲れている。
二人で焚き火を囲んで座り、濡れた頭をがしがし拭いた。
雲間からこぼれる日差しが暑く必要なさそうだが、水に冷えた身体は火の側で心地よかった。

「お前から見てチビッ子か?」

ニコニコと無警戒に寄られると、エドでさえ顔を赤らめて見惚れる。
きっぱりチビッ子と言い切って興味なさげなこいつの話を聞きたくなった。

「そうっすよ。鬼ごっこもそうでしたし、今日のはしゃぎっぷりもチビッ子っすね。美人だけど幼すぎっす。野郎共の下心なんか分かってないし見ててハラハラします。身内ならキツいっすね」

「なかなか厳しいな。それで?」

手拭いを獣耳の穴に突っ込んで水を抜く。
もう少しエヴ嬢に何か好意を持つかと思ったが、意外と批判的な様子に興味が出た。
ムッとするより興味深い。
それに手を出さない人間が手持ちに増えるのは助かる。

「妹達と被るんすよ。実家の辺りは治安が良くないんで性別関係なく子供を狙う糞野郎がたまに涌くんで、自衛させないとヤバいんす。そういうの考えて、エヴ嬢見てるとあり得ねぇし、マジできついっすね。うちの弟妹の方がまだ賢いし用心深いっす」

語気を荒げ顔が盛大に歪む。
意外なほどイライラした様子に少し驚いた。

「よっぽど勘に触ったようだな」

ただ驚いて頭を拭いている姿を眺めていたら、ビクッと揺れた。
私を怒らせたと思ったようだ。

「団長の番に、すいません」

手拭いの隙間から顔を強張らせ叱られた子供のような苦い顔が見える。

「別に怒ってない。興味深いだけだ。続きは?」

納得していないと不貞腐れた気配もあったので話を促すと、言っちまえとばかりに勢いよく話し出した。

「…かなーりいい子っすよ?それは本当っす。でもそれだけでどうすんだって思っちゃうんすよ。無防備すぎっす。視界に入るとマジ危ねぇとしか思えねぇっす。鬼ごっこ、凄かったんすよ?肉壁の四人がいないからエヴ嬢に近づきたい野郎共が溢れて。本人は悪気なくただニコニコ笑ってるけど、あの緩い態度で野郎共を付け上がらせて、それも気づかないんすよ?美人はツンケンしてりゃぁいいんです。団長のこともあの三人も、群がる男は全員顎で使えばいいのに」
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