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治癒

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憎たらしくて堪らない。
やはりこいつが一番の敵だ。
私の番にしたことも許せない。
霧状のこいつとどう戦うか算段をしていると背後から一人飛び込んできた。

「おーっと、もう回復したのかぁ」

「ええ、エヴ様のおかげで」

霧を掴みじゅっと消す。

「でもぉ、顔色最悪じゃーん。ははは、動くのがやっとぉ?」

「ヤン、起き上がれるのか?」

よく見ると傷が塞がっている。

「使いこなしてきたなぁ。いい子ぉ」

にんまり笑うアモルにエヴ嬢がメイスを持って霧を薙いだ。

「帰って!」

「元気になったなぁ?ははは!よかったよかった!で、お茶はぁ?楽しみにしてたんだけどぉ?」

「ない!帰ってよっ、馬鹿!」

「あはは!」

笑うアモルにメイスを叩きつけて霧を裂く。

「あーあ、しょうがねぇ。帰るかぁ。けどぉ、助けてやったんだぁ。感謝しろよぉ?あと、ちゃんと餌をとれよぉ?そいつらは贄だから?あー、もしお前が死んだら、そいつらギタギタにして殺すぅ。さっきみたいにさぁ、ん」

瞬間、実体化しエヴ嬢に口付けをし、私達が飛びかかると同時に影に吸い込まれた。

「じゃぁなぁー」

どごん、とエヴ嬢は消えた影にメイスを叩きつけて、私達の剣も影に刺さる。

「ダリウスっ!早く!」

ばっと頭をあげたエヴ嬢が叫ぶように名を呼んでダリウスの胸ぐらを掴んで引き寄せた。
がっとぶつかる音をたてて口付けをする。
目を丸くして見ていると身体の傷が塞がっていく。

「団長も!」

何をするのか問うのが間に合わず、されるがままに同じように胸ぐらを引き寄せられて乱暴な口付けを受けた。
歯がぶつかって傷に染みた。
割り込んだ舌から、ごうごうと何か流れて全身が熱い。
めりめり、みしみしという体感と共に傷の痛みが引いた。
まだ目眩と倦怠感、頭痛を感じるが身体の痛みはない。

「怪我、治った?もう痛いところない?」

私達は膝をついたり座り込んだり。
その様子を心配そうに見つめている。
ヤンとダリウスは真っ白な顔色で頷いた。
特に息苦しげなヤンにしがみついて顔を両手で挟む。

「まだキツそう。もっと精力を、」

「血が足りていないだけのようです。時間がたてば落ち着きます」

要らないと手を振って制する。

「…これは、なんだ?」

「団長、足らないですか?大丈夫?」

次は私の目の前にしゃがんで顔を掴むから、手を握って止める。

「待て。違う。なぜ怪我が治った。どう言うことか分からない」

「アモルの能力です。私も使えるから。精力を注げば傷を治せます。団長?大丈夫ですか?全部治せました?」

「精力を、注いで、自然治癒を、高めるんです」

エヴ嬢の矢継ぎ早の質問をヤンが遮った。
息苦しいらしく言葉をゆっくりと紡ぐ。

「誰か人を呼んで、あ、」

立ち上がろうと腰を屈めたエヴ嬢の動きが固まり、ごぶっ、と溢れる音に眉をひそめた。
微かな音だ。
人狼の耳だから聞こえたと思う。

「いい。まずはこのまま休もう。エヴ嬢のおかげで傷は治ってる」

「そうですね。…ヒムド、ラウルに念を飛ばせ。着替えがいる」

「私の分はエドにと付け足せるか?」

にゃーんと鳴くヒムドの身体に怪我はないが、一回り小さくなっている。

「縮んだな」

「にゃー」

「元に戻るのか?エヴ嬢」

エヴ嬢に視線を移して声をかけたが、座ったままうつ向いている。

「…ラウルが元に戻せます」

「…そうか、ならよかった」

こちらの問いかけにも気づかぬ様子に、ヤンが気を使って話を引き継いだ。
魔力で創成されたヒムドは怪我をすると体内の魔素を元に自己修復すると、具合が悪いのに説明を続けた。
エヴ嬢はじっとしたままだった。
精力を注がれて飢えが落ち着いたのだろう。
全体から溢れていた魔力の圧が収まり、いつものエヴ嬢になっていた。
妖艶に熟れたエヴ嬢も良かったが、最も気に入ってるのは、この青い果実のような爽やかなエヴ嬢だ。
本当は今すぐ抱き締めたいし、匂いもつけ直したい。
たが、触れられるのも見られるのも嫌だろうと視線を下げてそっとした。
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