上 下
50 / 315

魅了

しおりを挟む
午後には目処がついて私も休む時間ができたので匂いを辿ってエヴ嬢の元へ向かう。
いつもの天幕や鍛練所にはいない。
城内の敷地の奥にいる。
ヤンから今日はエヴ嬢を人前に出さないようにと頼まれていた。
休みということもあり、エヴ嬢がこちらに用がなければ来ることもない。
念を押されたのは夢魔の能力のせいと思い、それは了承した。
だが、裏の花園のベンチで休んでいるエヴ嬢を一目見て、迂闊に精力を吸ってしまうせいではないと理解した。
花園と言ってもただ広い敷地に野生の花ばなが咲き乱れる広い庭。
その中で側に二人を控えてポツンといる。
三人がこちらに気づいて振り返る。
そこにはいつもの爽やかな溌剌さはない。
傷心のせいではなく、目元が上気しポテッと熟れた唇。仕草も普段通りのはずなのに全体にしっとりとした妖艶さを漂わせ黒々と輝く髪が一段と美しく艶を放っている。
側にいるといつものいい匂いと共に魔力の混じったむせる匂いも漂う。
匂いと様相が下腹にずくずくと滲んだ。
近づくと逃げるようにエヴ嬢は立ち上がって離れていく。
一礼し背を向けて花畑の中に座り込む。

「ヤン、こういうことか」

「はい、能力の影響で」

夢魔の魅了らしい。
魔人として活性化すると全身から溢れるそうだ。
これでは皆の前に出せない。

「…こうなると、お父様もお兄様も会ってくれなくなるから嫌い」

寂しそうな声が聞こえる。
声もまた子供らしい可愛らしさから、少し低く耳に響いて残る声に変化している。
聞くだけでミミがぞわぞわした。
背を向けたまま、いじけたエヴ嬢は静かにぶちぶちと花をちぎり始めた。
実力のあるヤン達なら耐えれるそうだが、お二方は強い能力に抗えず会うと影響を受けるとヤンが説明した。

「三人はこの力に当てられて平気なのか」

かなりむせ返るような力の強さだ。
力の圧に息苦しさも感じる。

「…以前より確かに能力が大きくなってます。…今はまだ耐えれるとしか言えません」

やっと耐えれると言ったところか。

「団長、もう行ってください。私おかしい」

花をちぎり続けている。
ぶちぶちと音が鳴り響く。

「…エヴ嬢?」

「ヤンもダリウスも、どこか離れて。皆、離れて。早く」

すると座ったまま体を前に倒して地面を掴んでいる。
地面に根を張った花と草をぎゅう、と握ると瑞々しかった草花がパリパリと乾いて割れていく。
乾いた花が私達の足元まで広がっていく。
頭を突っ伏して倒れたので驚いていると、ぞわっとした空気が私達を襲う。
一気に威圧のような強い魔力の混じった匂いが溢れた。

「…すごく欲しい。…我慢してるの。すごい、ヤンもダリウスも、団長も。すごい、すごい、お、美味しそうで、」

次の瞬間、足元の干からびた草花が勢いよく成長し、私達の皮膚を刺しながら絡みついてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...